増えるアルコール性肝障害
薬による肝障害も増加?
肝臓病というと、かつてはB型、C型、それにA型などの肝炎ウイルスによる肝炎、肝硬変、肝臓がんが多かった。今もそれに変わりはないが、アルコール消費量の増大とともに、アルコール性肝障害が増えている。ウイルス肝炎の中にもアルコール性肝障害を合併した“複合型”もかなりの率を占めている。また薬剤性肝障害も少なくない。春も近づき、お酒を飲む機会も増えます。肝臓にとって厳しい季節になりそうです。
激増するグレーゾーンの人たち
日本の国民一人当たりの酒の消費量は、年々増え、昭和20年代までは純アルコールに換算して年間2リットル以下だったのが、現在は約9リットルと4,5倍に増えた。その結果、アルコールによる肝障害も増加している。日本の飲酒人口も着実に増えており、平成5年には6,267万人、大酒家は230万人と推定されている。
日本人の死因をみても、1位がん、2位心臓病、3位脳疾患と続き、9位に慢性肝疾患および肝硬変が登場する。30代後半から60歳代前半では死因の4位から6位に上昇している。さらに死因1位のがんも、臓器別でみると目下、胃がんがトップだが、数年後には肺がん、肝臓がんが胃がんを追い抜くとの予測もある。人間ドックの検診結果からも肝障害の増加がはっきり現われている。1984年から10年間に全国の人間ドックで健康診断を受けた約180万人の検診結果によると、肝機能異常は当初10人に1人だったのが、調査最後年には4人に1人に激増した。その多くは肝機能が異常値に限りなく近い、いわゆるグレーゾーンの人たちだ。うち8割が肥満で、40代の男性が大部分を占める。こうした男性群は過食のうえ、脂っこいものを好み、酒を飲み、不規則な生活習慣の人たち。完全なアルコール性肝障害を起こすタイプ。反対に、太っていないのに脂肪肝の人も。この人たちは酒を飲むときに、つまみをほとんど食べないで酒ばかり飲むタイプ。栄養が十分にとれず飲酒量だけが多く、肝臓へのダメージも大きい。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、肝障害がひどくならないと、症状を現わさない。特に毎日、日本酒にして5合以上を10年以上続ける“大酒家”といわれる人は、飲酒習慣を変えない限り、間違いなくアルコール性肝硬変になる。
アルコール性が12〜13%
アルコールが原因の肝障害は、すべての肝障害の中でどれくらいあるのだろうか。「肝硬変でみると、C型肝炎ウイルスによるものが50%、B型が30%。アルコールによるものが12〜13%だが、はっきりとは言い切れない」。大酒家で肝炎ウイルスが陰性で薬などの肝障害が見当らなければ、肝障害の原因はアルコールと特定できる。しかし、そうでない場合は判定が難しい。例えば、肝炎ウイルス陽性で、かつアルコールを飲んで肝障害を起こした場合。原因がウイルスか、アルコールか。あるいは両者半分ずつか、3対7の割合か、などといった具合。確実な診断には、肝生検が必要で、アルコール性とウイルス性では肝臓の傷害を受けている場所が違うため、その違いから原因を特定できる。両者が原因となっている”複合型“も傷害の程度、場所から判定できる。
危険なアルコールに弱い人
ところで、アルコールは胃と小腸から吸収されて肝臓へと運ばれ、そこで摂取されたアルコールの90%以上がアセトアルデヒドへ、さらにアセテートへと分解、代謝され、最後は炭酸ガスと水になって、排出される。ところが、同じように飲んでいても、酒に強い人と弱い人があり、一滴も飲めない人もいる。人種差もあり、「日本人は欧米人に比べてアルコールに弱い人が多い」。ある調査によると、日本人ではアルコールを分解、代謝する酵素の能力が完全な遺伝子を持つ人が6割、低い人が3割、分解能力がない完全な「下戸」が一割だという。「分解能力の低い人、まったく飲めない人は要注意」と警告する。このような人はアルコールの中間代謝産物で毒性の強いアセトアルデヒドが長い時間血液中を巡回することになる。その結果、頭が痛くなったり、吐いたり、“悪酔い”する。宴会などで“一気飲み”して、急性アルコール中毒で急死するのもこうした人に多いという。また、もともと酒が飲めない体質なのに、“鍛えて”飲めるようになっても「喜ぶことではない」。アルコールを代謝、分解する酵素が増えたわけではなく、肝臓の別の酵素が代役を務めるようになっただけのこと。肝臓に負担がかかり、能力が完全な人に比べて、アルコールによる脂肪肝、肝線維症、肝炎、肝硬変へと進行する率が高い。肝臓の健康を考えるなら、日本酒で一日に2合以下、ビールなら大瓶2本以下、ウイスキーならダブルで2杯まで。最低でも週に一日は「休肝日」を設けることだ。
市販薬でも肝障害起こす?
薬による肝障害も“日常茶飯事”で起きている。すべての肝障害の10〜20%を占めるという専門家もいる。なぜ、このように薬による肝障害が増えたのか。その理由は、軽い肝障害も発見されるようになったこと、薬の副作用について、医師や患者の関心が深くなったこと、昭和30年代以降開発される新薬が多くなったことなどが挙げられる。これら薬物性肝障害は、薬そのものの毒性によるものと、薬アレルギーによるものとがあるが、ほとんどの薬が肝障害を起こす可能性がある。薬物性、薬アレルギー性を含めて、肝障害を起こす恐れのあるものを挙げると、セファロソポリン系、ペニシリン系などの抗生物質。全身麻酔薬、解熱、鎮痛薬、抗てんかん薬などの中枢神経作用薬。サルファ剤、抗結核薬などの化学療法剤。降圧剤、抗不整脈薬、抗動脈硬化薬、血管拡張剤などの循環器作用薬。肝疾患用薬、下剤、胃疾患用薬などの消化器作用薬など。薬局や薬店で市販されている薬にも肝障害などいろいろな副作用を起こす恐れのあるものも少なくない。最近は医師が処方している薬が、医師の診断なしに薬局、薬店で買えるようになった。中には使用上の注意に「血液の病気、腎臓、肝臓の病気…の人は服用しないでください」というものまである。市販の薬とはいえ、「能書」をよく読んでから服用しないと、副作用を起こす恐れがある。
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主なアルコールによる肝障害の種類 |
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アルコール性脂肪肝…毎日、日本酒に換算して平均3合以上の飲酒を、少なくとも5年以上続けている「常習飲酒家」に起こる。常習飲酒による肝臓の脂肪代謝障害のため、食物中の中性脂肪が代謝されないまま肝細胞内に沈着した病態で、禁酒によって速やかに治る。しかし、そのまま飲酒を続けていると、高度の肝障害へと進行していく。 |
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アルコール性肝炎…「常習飲酒家」で、飲酒量の増加を契機に、肝細胞の変性、壊死と炎症反応を生じたもの。軽症なものから、極めて高度で急性肝不全の状態に陥り、短期間に死亡してしまうものまである。また、肝炎の程度が重くなくても、飲酒を続けていると、時に禁酒しても肝硬変へと進行してしまうものもある。 |
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アルコール性肝硬変…毎日、日本酒に換算して5合以上を10年以上続けた「大酒家」で、特徴的な肝臓の病変が見られる。肝臓の表面はゴツゴツして硬くなり、肝臓の働きも落ちる、アルコール性肝障害の終末像。 |
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アルコール性肝線維症…「常習飲酒家」で、肝臓に比較的特有な形状をした線維化が起こる。日本に比較的多い。飲酒を継続することによって、肝硬変へと進行する。 |