4月号

ある産業医のつぶやき

 


心臓病を予知する

心臓病はがんに次いで死因の第2位を占め、特に虚血性心疾患は増加している。明らかになっている危険因子を排除しさえすれば予防はできるし、万一発作を起こしても、適切な処置と日常の自己管理で回復も可能な場合がある。心臓を守り、病気を初期段階で予知するための心得とは。

胸痛、動悸、息切れなど気になる症状があれは、すぐに病院に

心臓は筋肉でできている握りこぶし大の臓器で、全身に血液を送るポンプの役割をしているが、この重要な働きが低下するといろいろな症状が現れ、ついには機能がストップして死に至ることにもなる。症状には胸痛、動悸、息切れ、浮腫、めまい、失神、チアノーゼなどがあるが、糖尿病にかかっている場合など自覚症状がないこともあるし、症状があるからといって必ずしも心臓病だとは限らない。症状による素人判断はまず無理だし、非常に危険な状態もあるので、異常を感じたらすぐに医師に相談するべきだ。

例えば胸痛がある場合、どういう状態で痛むのかによって病気の種類は異なります。階段を上っているときに痛み、休めば治る、上り始めるとまた痛むというときは、狭心症の恐れがあります。同じ狭心症でも平らな道を歩いていて痛み、休めば治るのは労作性狭心症、夜寝ているときや静かにテレビを見ているようなときに痛み、しばらくすると治るのは安静時狭心症で、いずれもかなり重症です。

夜中から明け方にかけて胸苦しいのは安静時狭心症の一つである異型狭心症で、これは深刻な事態の前触れです。痛みが持続し、冷や汗や吐き気を伴う場合は心筋梗塞の危険があり、また解離性大動脈瘤の可能性もあるので、一刻の猶予もならない。すぐに救急車を呼ぶべきです。

普段は何もなく、ゴルフをしたり重い荷物を持ったりしたときに痛みを感じるのなら、胸をさわってみます。限局していたり、圧痛があれば、心臓の病気とは関係なく、胸の筋肉の痛み、あるいは肋骨骨折ということも考えられます。従って何らかの症状が現れたら、まず自分の行動を振り返り、医者に診察してもらうことが大事です。」

動悸や他の症状にも同じことが言えるという。ドキッとしてすぐ治り、この状態を1日何回も繰り返すなら不整脈の疑いがあるので、心電図でチェックしてもらう必要がある。測定時に異常を示さなくても、24時間測定のホルター心電図という検査をすることもある。ドキドキドキと脈が乱れることは健康状態でもよくあることだが、気になれば一応心電図をとってもらう。何もなければ安心することができるし、問題があれば速やかに処置できる。

息切れの場合も、何もしないのに急に起これば即刻病院に飛んでいかなければならない。動いていて息苦しくなるのなら肥満が原因ということもある。階段を上ったときの苦しさなら、身体の鍛練不足かもしれない。いずれにしても気になる症状があれば、迷わずに病院に行って正しい診断と処置を受けるべきである。

日常生活の改善心臓を守る

心臓病は危険因子がかなり明らかにされているので、予防は十分に可能といえる。すなわち高血圧・肥満・高脂血症・喫煙・ストレスなど、心臓病を引き起こす原因を排除すればいいのである。例えば一見健康な人を検査して、心臓に酸素と栄養を補給している冠状動脈に小さな狭窄があった場合でも、そこが原因で心筋梗塞を起こす確率は非常に小さいので、その場所を治療する意味がないという。「それよりも危険因子を除くことが大事です。発症するまでは動脈硬化や高血圧の状態が続いているはずなので、これを取り除く努力のほうが大切なのです。

最近は中年以降の健康診断が定着してきているので、動脈硬化の原因となる高脂血症、糖尿病などもキャッチされやすいし、血圧は家庭でもチェックできます。1日のうちで高い時期が長いと要注意なので、24時間の変化を調べ、どういうときに上がるのかも知っておくことです。危険因子はほとんどが日常生活のコントロールで排除できるものなので、自分の生活態度を振り返って、まずい点があれば改善していく。進行を食い止めるにも、これしかありません。」

高血圧の原因は塩分、肥満、高脂血症は糖質、脂肪、アルコールのとりすぎ。思い当たれば食生活を変えるべきだ。また、タバコは百害あって一利なしと知りながら、なかなかやめられない人も多いようだが、危険因子なのだから後で悔やむことになる前にやめたいものだ。

ストレスはどうか。こればかりは排除にも限界があり、またストレスのない社会などあり得ないのだが、疲れすぎたら休む、精神的なものは気分転換で切り抜けるというように、うまく対処していきたい。予防に必要なのはこういった危険因子の排除のほかに、定期的な健康診断を受けること。特に両親や祖父母が心臓病で早く亡くなっているという場合は、その子も心臓病にかかりやすいので、若いころから定期的に検査を受けておくことである。

適度な運動は心臓を鍛える

もう一つ、心臓病の予防に大きな効果があるのは運動である。 図1はロンドンの2階建てバスの運転手と車掌についての調査で、1日中座りっぱなしの運転手と運動量の多い車掌とでは運転手の心臓発作率と死亡率が高いというモリスの説を示している。また表は運動量の低さが成人病の危険因子となることを明確にして、モリス説を裏づけている(身体活動量指数2000キロカロリーは約1万歩歩いたときのエネルギー消費量と同じ)。

図2も運動と危険因子との関係を示し、歩数が多いほど善玉のHDL−コレステロールが高いことを証明している。HDL−コレステロールと虚血性心疾患発作率の関係は、図3の通りである。 


危険因子のない人が健康を維持するためには、テニスのように短時間で大きな力を出す無酸素運動でもかまわないが、一般的には心臓病予防のための運動は、歩行運動やジョギングのような、酸素を取り込みながらエネルギーをつくる有酸素運動でなければ効果がないと考えられている。何よりも運動を継続することが肝心なので楽しみながら、そして目的をはっきりもって行うことを勧める。

「運動療法の効果は、最大酸素摂取量、身体的運動能力、HDL−コレステロールなどの増加と、一定負荷量に対する心拍数、収縮期血圧、中性脂肪、脂肪組織などの減少にあります。つまり、運動することによって心臓の働きや血液の循環がよくなり、酸素の取り入れ、炭酸ガスの排出が効率よく行われるようになる。また、筋肉の収縮力、持久力も向上する。善玉コレステロールが増え、中性脂肪が減って動脈硬化が予防され、血圧も下がる。こういったことから心臓病の予防ができるわけです。

ただし、危険因子を持っている人は必ず事前に医師の診察を受け、自分に適する運動処方をしてもらわなければいけません。」

運動処方では一人ひとりの身体の状態に合わせて、運動の種類、強度、1回に行う時間、そして週当たりの回数を決めるわけだか、運動強度は心拍数で決めるのが最もわかりやすい。運動負荷試験の結果から至適心拍数を決めるのが最もよいが、年齢別予測最高心拍数(220−年齢)の50〜60%を至適運動強度としてもよい。

さらに高血圧症の人の例でいうと、運動強度は収縮期血圧が200mmHgを超えない程度という条件があり、この他、肥満、糖尿病、高脂血症など、それぞれが有する危険因子によって運動の強度が決定されるのである。

運動が健康にいいからとジョギングを始めた人が発作を起こし、そのまま帰らぬ人になってしまった例があることからも、普段運動をしていない人が素人判断で始めることだけは避けなければならない。