私たちの生活には照明が欠かせません。空気や水、食物の栄養が不可欠であるように、照明もまた人間が生きて
いくうえでは重要な要素の一つです。照明と目の健康は切っても切れない関係にありますが、最近はOA機器の普及に伴って新たな障害も発生しています。
明るさよりも照明の質
最近の蛍光灯は、赤・青・緑の三波長型蛍光ランプになってきています。これは演色性(照らされた物体の色が正しく見える度合い)に優れているうえに、とても明るく見えるという理由で好んで使われています。しかし、人がそれぞれ感じる明るさは、器械で測定できる明るさとは異なります。同じ照明でも、その人の年齢や体調、作業の種類、あるいは時間帯などによって、明るく心地よく感じることもあれば、まぶし過ぎてイライラしてしまうということもあるようです。例えば、作業をする場合には高齢になるほど明るさが必要になります(図参照)。 また夜中に起きてトイレに行くことを考えると、照明は明るいほうがよいといえます。しかし、快適性という点からいえば、強いギラギラとした照明は避けたいものです。日常生活には、食事をする、着飾る、遊ぶ、くつろぐ、学習をしたり仕事をするなど、さまざまな行動様式があり、それに応じた生活空間があります。行動様式が異なるように、その場で快適と感じられる照明もまた異なるはずです。 「日本の家庭の照明は、“超明るく”なっていますが、本当に最良の照明なのかというとそれは疑問です。ヨーロッパの家屋では白熱電球がスポット的についているだけでとても暗く感じるものですが、それが好ましくないものかというと、むしろ落ち着きがあって休息の場としては大変快適です。これからは生活様式に応じた照明の質を考えるべきでしょう」
注目されるVDT症候群
最近不定愁訴に似た症状を訴える子どもが増えているそうです。頭が痛い・重い、全身がだるい、肩がこる、イライラする、目が疲れるなど、検査をしてもからだのどこか特定の場所に異常が見つかるというわけではないが、何となく全身に不快感があるというものです。こうした症状の背景には、今や職場だけでなく、プライベートな領域にも入り込んだコンピューターの存在があります。会社では社員一人に一台、家庭でも部屋に個人用の機器、つまりOA機器がすっかり根付いて、どこに行ってもテレビのブラウン管に囲まれているようなものです。テレビのブラウン管様の画面に文字や図などが表示されるワープロやコンピューターのディスプレイはVDT(視覚表示端末機)といいますが、これらの機器による健康被害が今「VDT症候群」と呼ばれ注目されています。
@目が疲れるA手、肩、足がだるいB精神的に不安定になるという特徴があります。VDT作業をする場合には、手元の資料を見ながらキーボードをたたくという姿勢が長時間続きますから、目が疲れたり、手や肩、足がだるくなるというのは当然だといえるでしょう。手元にある資料と画面、それぞれ明るさや角度が異なるものの間で、一日に何千回となく目を動かしてキーボードをたたかなければならないのです。これは、目にとっても、手・肩・足にとっても疲れのもとになります。しかし、精神的に不安定になるというのはどういうわけでしょう。その原因の一つには、VDT作業に熱中し過ぎるために対人関係に悩むことが多いということが考えられます。「しかし、問題はバイオリズムの乱れです」。「からだのバイオリズムは、脳の中にある松果体という器官が調整しています。松果体からはメラトニンというホルモンが分泌され、特に深夜2時ごろには盛んに分泌されて人間の体内時計の働きをしていますが、VDT作業などで徹夜をしたりすると、メラトニンの分泌量が変化してバイオリズムが乱れるのです」。さらに「VDTから発生する電磁波の影響も無視できない」。
テレビやOA機器、蛍光灯などからは電磁波が出ています。これはアースによっても防げません。VDTの中には、スイッチを切ってもまたすぐにスタンバイできるものもありますが、こうした便利なものが実は電磁波の発生源なのです。考えてみれば私たちは職場だけでなく家庭でも、電磁波に囲まれて生活していることになりますが、発生源を排除できないとすれば、できるだけその場を離れる努力をしなければなりません。「VDTの連続使用は30分までにとどめるべき。60分作業したら15分の休憩が必要。一日トータルで6時間までを守ること。休憩時には読書など目を使うことはやめて、外へ出て太陽光を浴びることが大切です」と注意を促しています。
近年、高層集合住宅(マンションなど)だけでなく、木造家屋でもアルミサッシなど新建材の普及で、気密性の高い住宅が増えてきました。また、冷暖房の普及もあって、窓を閉め切った生活時間が長くなる傾向にあります。閉ざされた空間に、人が長時間生活すれば、必然的に室内の空気はさまざまな物質で汚れていきます。最近では、たばこの煙をはじめとする空気の汚れを健康問題と結びつけて意識する人も多くなりました。このようなことから、家庭用、事務所用の空気清浄器が市販されています。そこでここでは、室内の空気はどのような物質に汚染されているか、清浄な空気環境を保つにはどうしたらよいかを考え、市販されている家庭用空気清浄器とはどのようなものか、その効果と限界、利用するときの注意などを考えてみます。
室内の空気中にはさまざまな物質が浮遊している
室内の空気中には、実にさまざまのものが浮遊しています。大きなチリなどはやがて床面に沈んでいきますが、微小なものは室内の気流などによっていつまでも漂いつづけます。
1 粉塵
・よくみられる屋内塵
空気中に浮遊する粒子は、ミクロン単位(μm。1μmは1000分の1mm)の微小なもので、その大きさは0.01μmから100μm程度までさまざまです。家庭内でよくみられ、屋内塵(ハウスダスト)や空気汚染物質として問題になる主なものをあげると次のようです。ダニの死骸が0.5mm、そのかけらや糞が数μm、花粉が10〜100μm、そして、たばこの煙が0.01〜1μmです。このほか、人体からは、ふけやあか、せきやくしゃみなどで放出されるもの、衣服のブラシかけで出てくる繊維くずや付着していたホコリやかびなど、さらに歩行や掃除などの動作で、床にたまっていた塵埃(じんあい)が再び空中に舞い上がります。これらのいわゆるホコリ(浮遊塵)の大きさは、0.01μmから数十μm以上とさまざまです。電気掃除機の集塵収納袋から、排気とともに多くの微細粉塵が発生していることも知られています。
・粉塵による健康影響
室内の空気が汚れていると、私たちは呼吸とともにそれを吸い込みます。比較的大きな粒子は、鼻毛や気管の繊毛などに付着し、やがてはせきやくしゃみなどで排除されます。しかし、粒子の大きさによっては、肺の奥深くにまで吸い込まれ、いったん肺胞へ沈着すると、せきやたんでは排除できません。したがって、高濃度に汚染された空気を長時間吸いつづけていると、呼吸器に悪影響を及ぼすことになります。家庭内では、たばこの煙がこれに該当する代表的なものです。また、花粉やダニのかけらなどが空気中に多量に存在すると、素因のある人やアレルギー症の人は、鼻アレルギ一やぜんそくなどの発作をおこしやすくなります。
・微生物
細菌、真菌、かび、ウイルスなどの微生物は、水中、土壌、人体、食品などあらゆるところに自然に発生し、室内空気中にも多種類のものが浮遊しています。通常は人にわるさをするほどのことはありませんが、時に、病原性をもつ微生物に高濃度に汚染されると感染することがあります。特に、ビルなど建物全体を人工的に空気調整しているところでは、外気取り入れ口あるいは冷却水が病原菌に高濃度に汚染されると、建物内に菌がばらまかれ、集団感染をおこすことがあります(レジオネラ菌によるレジオネラ症など)。
2 臭気物質
家庭内には多くの臭気物質があります。発生源は、ペット、生ごみ、トイレ、汗、たばこ、あるいは料理・調理時のにおいなどいろいろです。このほかにも、壁材などの建築材科、スプレー製品からも種々の臭気物質が発生しています。いやなにおいとされる主なもの(化学成分)には次のようなものがあります。
アンモニア(し尿のにおい)
メチルメルカプタン(腐ったたまねぎのにおい)
硫化水素(腐った卵のにおい)
アセトアルデヒト(青ぐさい刺激臭)
3 ガス状物質
・有害ガス
人が生活を営むうえで発生する有害なガス(気体)状物質もたくさんあります。たとえば、調理や暖房など燃焼器具を使っているときには、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(通常NOxという。NOやNO2があるが、NO2が多い)が発生します。特に、閉め切った部屋で、換気不良の状態でガス湯沸器やストーブをつけっぱなしにしていると、酸素が不足し、不完全燃焼により一酸化炭素がいっそう多く発生してきます。窒素酸化物は、燃料効率のよい、高温で燃える暖房器具では発生しやすいことが知られています。また、たばこの煙中には、粉塵(タール状の粒子成分)だけでなく、一酸化炭素も多く含まれており、1本の喫煙で空気中の濃度が急上昇します。
・ガス状物質による健康影響
一酸化炭素は無色・無臭のガスなので気がつきにくく、高濃度に汚染された空気を大量に吸うと、一酸化炭素中毒(からだの細胞が酸欠状態になる)をおこします。二酸化窒素(NO2)は特有の刺激臭のあるガスで、水に溶けにくいため、吸入すると気道の深部にまで達します。高濃度の二酸化窒素を吸うと、肺水腫や細気管支炎などをおこします(普通の家庭ではそこまでの量が発生することはまれです)。二酸化炭素(CO2)はそれ自体は毒性がありませんが、室内空気汚染のバロメーターです。燃焼器具を使わず、喫煙もしない状態でも、その部屋にいる人の数に応じて二酸化炭素濃度は高くなっていきます。しかし、適度に新鮮な外気が取り入れられていれば、二酸化炭素濃度はあまり上昇しません。したがって、室内の二酸化炭素濃度は、その部屋の換気状態がよいかどうかをみるよい指標となるわけです。
室内の清浄な空気環境を保つには
・換気が最も重要かつ簡便な方法
室内の空気汚染を防ぐには、新鮮な外気を取り入れ室内の空気を入れ換えること(酸素を補給し、かつ汚染をうすめる)が最も重要、かつ簡便な方法です。
1 新鮮外気必要量
一般に、燃焼排ガスや喫煙などなんの汚染物質も発生していない場合、すなわち安静に呼吸をして二酸化炭素を吐き出している場合の、成人l人あたりの新鮮外気必要量(いわゆる必要換気量)は、1時間あたり30m3といわれています。この空気は6〜8畳の部屋の容積に相当します。3人いれば、1時間にその3倍程度の空気の入れ換えが必要です。そして、そこでストーブをつけたり、たばこを吸えば、粉塵や一酸化炭素が発生し、それをうすめるためには、換気回数を格段に増さなければならないことになります。
2 室内空気の清浄さの目安
室内の換気量の目安には、二酸化炭素濃度だけでなく、粉塵や有害ガス状物質についても考える必要があります。これについては、学校、事務所、百貨店など多数の人が出入りする大きな建築物について、いわゆるビル管理法(「建築物の衛生的環境の確保に関する法律」)に定められた管理基準があります。その数値は下表のとおりです。いずれも目に見えないものだけにピンときませんが、粉塵については粒子を重さとしてみた基準を、二酸化炭素などの気体についてはppm(百万分率)すなわち、空気1000l中に何mlあるかで示しています。
3 空気汚染と換気の目安
わかりやすく、たばこの煙を例として話してみます。たばこの煙中には、タール状の粒子成分(粉塵)と、一酸化炭素などガス状成分が含まれています。たばこl本吸ったときの粉塵発生量は、吸い方によって10〜40mgの幅がありますが、平均的には1本あたり15mgといわれます。これをさきほどの管理基準値0.15mg/m3にまでうすめるためには、100m3(1人でじっとしているときの必要換気量の3倍強)の清浄空気量が必要となるわけです。一酸化炭素についても、狭い部屋でたてつづけに何本も吸えば、すぐ管理基準値の10ppmをこえてしまいます。
・意識的に換気することが必要
旧来の日本の木造住宅では、自然換気回数(その部屋の空気が完全に新鮮なものに入れかわる回数)は、通常l時間に2〜10回あるといわれます。これに対し、気密性の高い集合住宅などでは1回にも満たない場合が多いのです。したがって、そのような室内では、必然的に室内空気中にさまざまな汚染物質が高密度に蓄積されることになります。意識的に換気を心がけることが大切です。
市販家庭用空気清浄器の機能としくみ
1 空気清浄器の機能
・空気清浄の意味
「空気浄化」を考える場合、たとえば最も高い清浄度が要求されるスーパークリーンルーム(IC工場や無菌室)や病院の手術室などにおける必要な機能は、
(1) 浮遊粉塵の除去(防塵、除塵)
(2) 悪臭の除去(脱臭)
(3) 衛生上有害なガス体の除去
(4) 浮遊病原微生物の除去
ということになります。一方、一般的な住宅内における空気の浄化の場合は、このうち、(1)たばこの煙など有害粉塵の除去、そして(2)不快なにおいの除去でしょう。実際に、市販の家庭用空気清浄器もこの点をうたっています。
2 家庭用空気清浄器の基本構造
・粉塵除去のしくみ
家庭用空気清浄器は、吸い込んだ空気中の粉塵を捕らえ、ろ過した空気を送り出すしくみはみな同じですが、その粉塵除去の方法により、「機械式」のものと「電気式」のものとに大きく分けられます。
(1)機械式…吸い込んだ空気中の粉塵をろ過材(エアフィルター)の繊維の目に接触させたり、ふるい分けして捕集します。効率を高めるためにフィルターを波形にし、空気が通過する面積を大きくするなどの工夫がされています。
(2)電気式…吸い込んだ空気中の粉塵に高電圧をかけて+に荷電させ、その先に-に荷電させた集塵電極あるいはフィルターに、静電力で吸着させる方式です。
・脱臭のしくみ
におい物質は気体状であり、粒子もきわめて小さいため、エアフィルターや電気集塵では除去できません。そこで、機械式、電気式いずれの方式も、活性炭などの多孔質の物質が、多くの臭気成分を吸着する性質を利用して脱臭をはかっています。薬剤その他を用いて、化学反応によって臭気成分を分解する方法をとっているものもありますが、効果のある成分は限られてきます。
家庭用空気清浄器の効果と利用するときの注意
1 除塵性能
ろ過材を用いた機械式の空気清浄器では、粉塵除去率は、使われているフィルターの性能によって異なります。クリーンルームの空気清浄に用いられている超高性能フィルター(HEPAフィルター)は、0.3μmの微粒子を99.97%以上除去することを保証しています。通常の家庭用空気清浄器ではそれほど超高性能のフィルターを用いているわけではないので、除去率は若干低下します。電気式のものは、メーカーのデータによると0.01μm程度までの微粒子を捕集できるとされています。たばこの煙は0.1〜1μm(平均0.3μm)程度の大きさであり、アレルゲンとなる室内塵(ダニのかけらなど)や花粉は1μm前後かそれ以上です。したがって、これらの浮遊粒子はほとんどが除去可能といえます。実際に電気式の空気清浄器4種類について、たばこの煙のとれぐあいをテストした結果をみると、機種により、かかる時間やとれぐあいに若干の差はみられるものの、フィルターが新品時には、30分後には60〜95%以上が除去されています(日本消費者協会)。また、ぜんそく児童を対象に、市販の家庭用空気清浄器を使ったところ、発作を抑える効果がみられたという報告もあります。
2 脱臭性能
悪臭物質の除去については、ほとんどの機種が活性炭をべ一スにしています。活性炭は、トイレ、生ゴミ、ペット、たばこ、調理などのにおいのうち、かなり広い範囲の臭気分子を吸着します。ただし、アンモニア、硫化水素、メルカプタン、アルデヒドなど(低分子、極性分子)は吸着できません。また、吸着容量をこえた状態で、衝撃や急激な温度差などがあると再放出することがあります。最近は、活性炭に薬品を添着させ、吸着能力を高める工夫も行われています。なお、見かけ上の脱臭効果をあげるために、芳香剤による消臭(マスキング)をする方式のものもあります。これは不快感を緩和しているだけで、臭気成分を除去したわけではありません。
3 有害ガスと換気の重要性
ストーブなどの燃焼のさいに発生する有害な一酸化炭素、窒素酸化物などは、空気清浄器では除去できません。空気清浄器を使っているからと安心して、換気を怠ると危険です。過信してはいけません。
4 利用するときの注意
除去できない有害ガス、その他の注意事項については説明書に書かれているはずなので、よく読むことが大切です。加湿器と併用しないようにします。加湿器の水が細菌汚染されていると、粉塵のたまったフィルター上に増殖する危険もあります。また、電気式のものは集塵電極に粉塵がたまると有害なオゾンを発生しやすくなります。定期的にフィルターを洗浄あるいは交換することが必要です。
また、悪臭ガスの除去に使われている脱臭フィルターは、メーカーにより用いている化学薬品がさまざまで、その内容を消費者に知らせていない場合も少なくありません。扱い方によっては、なんらかの有害ガスが発生しないとも限りません。洗浄法について説明のない場合には、メーカーに問い合わせるなどのことも必要でしょう。
人が生活を営めば、室内空気が汚染するのは避けられません。家庭用空気清浄器は、煙やにおい取りにそれなりの効果がみられますが、ある程度の時間がかかりますし、なにもかもが完全に取り除けるものでもありません。できるならば、このような装置の必要のない環境づくりを心がけたいものです。とはいえ、換気できないなど空気清浄器の必要な状況もあるでしょう。エアコン・冷暖房が完備し常に密閉した建物で、会議室など多人数が存在し、高濃度の空気汚染が生じるような状況の場合には、局所的に空気清浄器を利用することも有効な手段の一つと考えられます。また、ぜんそく患者などで症状のある場合に、空気清浄器をつけることで発作や喘鳴を抑えるなど一定の効果をあげることも示されています。しかし、一般的には、室内の空気環境を清浄に保つのに、空気清浄器のみに頼るべきものではありません。空気清浄器の機能と、換気の機能とは異なるものであることをよく認識して、適切な利用を考えることが大切です。