部位別にみたがんと食生活との関連
日本人に多く、食生活との関連が比較的明らかになっている食道・胃・大腸・肺・乳房・前立腺がんについて部位別に概説します。それぞれの食物・栄養素などで、多くとっている人たちが少なくとっている人たちに比べて、がんになる確率が高くなることが示されているものをリスク要因、逆に低くなることが示されているものを抑制要因と表現します。
1)食道がん
男性に多く発生するがんで、海外では中国やフランス、わが国では秋田、沖縄、鹿児島などに多く発生します。アルコールをたくさん飲む習慣がある地域ほど、食道がんの発生率が高い傾向にあります。
飲酒と喫煙との関連が強く、アルコールを飲まず、タバコも吸わない人が食道がんになることはまれです。毎日飲酒している人が食道がんになる確率は、飲まない人と比較して2倍以上高く、1日あたりの飲酒量が増えるとリスクが徐々に増大する傾向があり、飲酒と喫煙の両方が重なるとさらに確率が高くなります。また、わが国の茶粥や南米のマテ茶などのように、飲食物を熱い温度で摂取する習慣が食道がんのリスク要因とも考えられています。これらは、アルコールや熱い飲料が食道粘膜を傷害することによるものと解釈されています。一方、野菜や果物の摂取、おそらくは栄養素としてのカロテノイドやビタミンCが、食道がんの抑制要因と考えられています。
食道がんを予防するためには、まずタバコをやめ、野菜・果物をたくさんとり、アルコールの摂取を控えることです。
2)胃がん
わが国は、南米チリなどとともに世界でも非常に多く発症する国のひとつです。米国をはじめとした西欧諸国でもかつては多く発生していましたが、現在ではまれながんになりつつあります。わが国でも年齢構成が変わらないと仮定して罹患率を計算した場合、着実に減り続けています。地域差も顕著で、南九州、特に沖縄で低いの対し、秋田・山形・新潟などの東北地方の日本海沿岸に多く発生し、塩分摂取量の高低と相関する傾向にあります。
胃がんの発症リスクを高める要因は、塩蔵魚や漬け物など高塩分食品の摂取で、塩分濃度が高いと胃粘膜の傷害や炎症などをおこし発がんを促進するものと考えられています。一方、胃がんの発症に予防的に働くものとしては、新鮮な野菜や果物の摂取があげられ、これらの食品中の栄養素、特にビタミンCやカロテノイドが発がんを抑制するものと考えられています。胃がん発症率は世界的にみて減少していますが、これは電気冷蔵庫の普及が大きく貢献したといわれています。塩蔵食品に代わり、新鮮な野菜や果物をたくさんとれるようになったことが原因と解釈することができます。
その他に、胃がんのリスク要因としては、焼肉・焼魚を食べる際に摂取してしまうお焦げに含まれる2級アミン、野菜・漬け物・飲料水に含まれている亜硝酸により生体内で生成されるニトロソ化合物などがあげられます。また、予防的に働く要因として緑茶、タマネギ、ニンニク、セレニウム元素の摂取などが示唆されています。
胃がんを予防するためには、新鮮な野菜や果物をたくさんとるとともに塩蔵品など高塩分食品の摂取を控えることです。
3)大腸がん
欧米諸国に比べると日本人に少ないがんですが、近年の日本人の食生活の西洋化に伴い増加していると考えられているがんのひとつです。米国などへ移住した日本人では、白人なみの頻度で発生していることが観察されています。菜食主義者や、赤身肉の摂取量の少ない国や地域では発生率が低い傾向にあります。
大腸がんは、赤身肉の摂取量の多い人にリスクが高いことが認められています。これは、動物性脂肪による細胞分裂促進作用や、動物性タンパクの加熱により生成される発がん物質などによるものと推定されています。アルコールは、特に直腸がんのリスクを上げることが示されています。一方、野菜類の摂取が、定期的な運動とともに、大腸がんの発生を抑制することが認められています。その他に食物繊維、ビタミンD、葉酸などの摂取が大腸がんのリスクを下げるという報告もあります。
大腸がんを予防するためには、赤身肉の摂取量を少なくし、野菜をたくさんとるようにすることです。また、定期的に運動することも重要です。
4)肺がん
わが国で近年増加が著しいがんで、胃がんを抜いてがん死因のトップとなっています。
そのリスク要因を考える上で、喫煙を切り離して考えることはできません。しかし、同じタバコを吸っている人でも、肺がんになるリスクは遺伝的素因や食生活が大きな要因であることがわかってきました。特に、緑黄色野菜の摂取は、喫煙者においてリスクの軽減につながるものと考えられています。緑黄色野菜の中のどの栄養素が重要な役割を果たしているかについては一致した見解はありませんが、最も注目されたのはビタミンAの前駆物質であるカロテンでした。カロテン摂取量の多い人、あるいは肺がん発症前に採取された血液中のカロテン(主として、β-カロテン)濃度が高い人の肺がん発症リスクは、20〜85%ほど低いことが多くのケース・コントロール研究やコホート研究で示されています。しかしながら、欧米で行われた大規模な無作為化比較試験の成績では、予想とは反対に高用量のβ-カロテンの服用が喫煙者の肺がんリスクを高めるという結果となりました。食物の中に含まれているβ-カロテンの肺がん抑制効果を否定したことにはなりませんが、少なくとも喫煙者への高用量のβ-カロテン投与に肺がん予防効果がないことが示されました。
その他、発症抑制要因としてはビタミンC、ビタミンE、セレニウムなどが、また、リスク要因としてはアルコールや脂肪の過剰摂取があげられています。
肺がんを予防するためには、まず禁煙をして、緑黄色野菜をたくさんとることです。喫煙者が緑黄色野菜をたくさん食べれば、肺がんリスクの減少が期待できますが、非喫煙者と比べれば依然として肺がんになる確率は高いままです。また、喫煙をしたままで、1日20mg以上のβ-カロテンを錠剤などで補給することは、かえってリスクを高める結果になります。
5)乳がん
わが国で近年増加しつつあるがんですが、依然として欧米と比較すれば罹患率・死亡率ともに半分にも満たない低さです。しかしながら、ブラジルや米国の日系人の罹患率は日本の2〜5倍程度の高値を示し、おそらくは西洋化した食生活への変化が乳がん罹患率を高めたものと考えられています。
乳がんのリスク要因として、早期の初潮、閉経の遅延、高齢での初産、未経産、高身長、肥満など、エストロゲンなどのホルモンの体内レベルに影響を与える要因があげられています。子供の時のカロリー過剰摂取は早期の初潮や高身長に、成人では肥満に関連することにより、乳がんのリスクを高めるものと考えられています。また、アルコールの摂取もエストロゲンレベルを上げるので乳がんのリスクを高めるものと考えられています。一方、野菜・果物の摂取の多いことが乳がんの抑制要因として示されていますが、野菜・果物のどの成分(カロテノイド、食物繊維、ビタミンC、フラボノイドなどが示唆されている)が関連しているのかは不明です。また、大豆製品の摂取量が多い日本人に乳がんが少ないことに関連して、大豆製品中に多く含まれるエストロゲン様物質が生体内のエストロゲン作用に拮抗することにより、乳がんの発症を抑制するのではないかという仮説が論議されています。
その他、乳がんの国際的な相関研究から、脂肪の摂取量との関連が示唆されていました。しかし、大規模なコホート研究の結果では脂肪摂取との関連を認めるものはほとんどなく、現状では成人期での脂肪摂取量の減少による乳がんリスクの減少は期待できないものと考えられています。
乳がんを予防するためには、野菜・果物をたくさん食べる一方、運動やカロリー摂取のコントロールにより適切な体重を保ち、かつアルコールの摂取を控えることです。
6)前立腺がん
わが国で近年増加傾向にあるがんですが、乳がんと同様に現在でも欧米に比較すれば、罹患率は約1〜2割程度の低さです。しかしながら、前立腺がんの発症率が高い国の日系人では約2〜10倍程度増加し、食生活の西洋化と関連しているものと考えられています。
前立腺がんのリスク要因については確立したものはありませんが、動物性脂肪・赤身肉・乳製品の高摂取や野菜の低摂取などの食生活と関連しているものと考えられています。
前立腺がんを予防するためには、野菜をたくさん食べるとともに肉類や乳製品を控えて動物性脂肪の摂取を減らすことです。