10月号
円形吹き出し: TOKAICLINIC

 

 

 

 

HealthCare

 

 


歩行と健康の関係
1 歩行は最良の薬?
医療に科学の息吹を与え、
医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、「歩行は人間の最良の薬である」と言って、歩行の予防医学的価値を説いています。また、わが国の貝原益軒も『養生訓』の中で、健康であるためには、「毎日飯後に、必ず庭圃(ていほ)の内数百歩しづかに歩行すべし」と述べています。
2 歩く人ほど長生きする
35〜74歳のハーバード大学卒業生1万6936人を対象として実施された、身体活動と死亡率との関係についての調査報告によると、1週間に約15km 以上歩く人は、約5km以下しか歩かない人に比べて、死の危険牲が21%も減少していました。同様に、身体活動のために1週間に2000kcal以上エネルギーを消費する人は、それ以下の人と比べて、死の危険性が28%減少することも明らかになっています。「元気だから運動できる」ということを考慮にいれても、寿命との関係からみて大変興味ある研究結果です。

現代人の運動不足を解消するには1日1万歩の歩行
1 毎日4000〜5000歩しか歩かない現代人
歩く習慣は、最近までは私たちの生活の基本でした。ところが、産業革命以後の技術の進歩によって、私たちの生活から、
歩くということが、どんどん少なくなってしまっています。現代人の1日の歩数を調べてみると、職業上歩く必要のある人を除くと、だいたい平均して4000〜5000歩程度となっています。

 

 

・エネルギーのとりすぎと消費エネルギー量の目安
一方、国民栄養調査からみた日本人のエネルギー摂取量は、全国平均で所要量を10%も上回っています。厚生省は昭和59年にエネルギー過剰摂取と運動不足を解消するため「生活活動と付加運動による消費エネルギー量の目安」を発表しました。それによると、事務や管理のようなデスクワーク中心の仕事を行っているいわゆる生活活動強度が「軽い」に分類される男性では200〜300kcal、女性では100〜200kcalを、生活のなかで運動を行うことによって消費することが望ましいとしています。歩行は、日常行う運動として、生活のなかに容易にとり入れることができ、老若男女だれにでもできるという点でたいへん優れています。では、1日に何歩歩けば、そのエネルギーを消費できるのでしょうか。

 2 1日1万歩の歩行で運動不足が解消できる
一般的に歩くことによって、余分に消費するエネルギーは普通の速度(時速4km)で1km歩いたとき、体重1kg当たり0.5kcal といわれています。
・1万歩の消費エネルギーは
日本人の平均体重と歩幅を男性で60kg、75cm、女性で50kg、65cmとすると、普通の速度で歩いた場合は、男性はおよそ8800〜1万3300歩、女性は6150〜1万2310歩歩くことによって、目安とされているエネルギーを消費することができます。歩く速度や体格によって多少左右されますが、男性も女性も1日にだいたい1万歩歩くことによって、とり過ぎたエネルギーを消費し、同時に運動不足を解消できることがわかります。


さまざまな歩行の効用
1 呼吸循環機能を高める
歩行はランニングなどと比べると軽い運動ですが、呼吸循環機能を十分にたかめるといわれています。歩行速度を毎分120mまで速くしたときの酸素摂取量と肺換気量は、安静時の7〜8倍にまで増加するという報告があります。これは、歩行は、ランニングや自転車を用いたトレーニングとほぼ同等の効果があることを示しています。 このように、歩行は呼吸循環系の機能を向上するための十分なトレーニング手段となりうるものなのです。
2 特に中高年の体力向上に効果的
歩行の効果については多くの研究が行われています。それらの研究によって、1回5分間程度の歩行トレーニングでも、歩く速度が十分確保されれば特に中高年の体力、運動能力(持久力)の向上に有効であることが示されています。60歳以上の高齢者の場合は、運動の強さよりも、1回に歩く時間を多くとり、長期間にわたって実施するのが効果的だとされています。
3 肥満の予防と改善にも最適
食事療法に失敗した肥満女性11人を対象とし、体重に及ぼす歩行の影響をみた調査があります。この調査では、食事制限をすることなしに、1年以上にわたって歩行を実施させています。その結果、1日30分以上歩いていた人では、明らかに体重の減少がみられ、一方、1日30分以下しか歩かなかった人は、そうした効果がみられなかったそうです。肥満の予防や改善のためには、少なくとも1日30分以上歩くことが必要だといえます。また、別の調査では、歩行による体脂肪率の減少は、ランニング、あるいは自転車を用いた場合よりも大きいという成績もみられています。肥満の人が運動するときの目安は、心拍数が中高年では100〜110拍/分、青年では120〜130拍/分か、それ以下での長時間運動が、より激しい運動にくらべ、からだの脂肪を燃やすのに有効だとされています。このように、肥満予防あるいは肥満改善のための運動として、歩行は最適です。そのためには、比較的ゆっくりと、長時間かつ長期間にわたって歩くことが必要です。

4 高血圧を予防する効果もある
歩行は、血圧を低下させるという報告もあります。歩行をはじめとする全身的な持久的運動は、脂質代謝を高め、体脂肪を減らします。体重が減ることで、軽い高血圧の人では、血圧が下がる傾向を示します。また、活動的な生活習慣を身につけることも、高血圧の予防に効果があります。糖尿病患者に対して、食事療法と並んで運動療法が大事なこともよく知られているとおりです。

 

5 心臓病(冠動脈性心疾患)の予防
バス会社の運転手と車掌、郵便局の事務員と郵便配達夫のうち、どの職種の人が心臓病にかかりやすいかを調べた報告があります。それによると、運転手や事務員は、車掌や郵便番己達夫のように身体活動の活発な仕事に従事している人に比べ、心臓病にかかる率も、心臓病で死亡する率も高いことがわかりました。同じような成績は他にもみられています。このことからも、毎日の規則的な歩行が、心臓病で死亡しないためにいかに大事かがわかります。
歩行によって生じる障害とその予防
歩行は人間の日常生活の基本であり、さまざまなスポーツの運動様式の原型でもあります。しかしながら、時には、歩くことが原因で、障害をおこすことがあります。登山、競歩、ワンダーフォーゲルなど、主として歩行を中心としたスポーツでは、膝、腰の順で障害をおこすことが多く、これは、ランニングによって生じる障害の部位と大変よく似ています。

1 肥満の人は脚や腰を痛めやすい
歩行中、足を着地するとき、足首、膝あるいは腰には、歩き方や歩くスピードによっても異なりますが、一般的に体重のほぼ1.2倍の力が加わるといわれています。したがって、体重60kgの人が1km歩くと、1km当たり片足が約650回着地するので、約4.7トンもの力が脚に加わることになります。そのため、長時間の歩行や、競歩などのスポーツで走行距離が長くなればなるほど、くり返し加わる力の合計は大きくなり、脚や腰への障害を起こしやすくなると考えられます。体重が重ければ、着地時に下肢に加わる力はそれだけ大きくなります。特に、筋肉に比べて皮下脂肪の割合が多い肥満者の場合には、障害の発生が多くなると考えられます。
2 上りと下りでは痛めやすい部位が違う
上り坂などでは体を前傾して上っていくため、下腿三頭筋やアキレス腱、足底筋膜などに負担がかかりやすくなります。また、下り坂での歩行は、膝にかかる衝撃が大きく、膝の障害が生じやすくなります。

3 障害の原因を取り除くには
長時間の歩行では、わずかな足の動きの異常でも、それが繰り返されることによって障害が生じやすくなります。ですから、脚の形が内側や外側に弯曲している場合には、矯正する必要があります。これには、足底板を入れたり、ギプスで足型をとって中敷きを作ることもできますが、まず専門家に相談してみることが必要です。
靴と歩行
1 どんな靴をはくかでエネルギー消費量が異なる
・靴の重さとエネルギー消費の関係

靴の重さが0.35kg増加するとエネルギー消費量が3.3%増加するといわれています。
・靴のヒールの高さとエネルギー消費との関係
ヒールの高さが4cm以上になると、歩行筋以外で余分なエネルギーが消費されることもわかっています。同じ高さでも、パンプス、ウエッジ、バックバンドの3種類をくらべてみると、足の固定が不安定なバックバンドでは、最も酸素需要が増加し、疲れやすいことが報告されています。
 さらに、地盤の柔らかい路面ほど多くのエネルギーを消費することもわかっています。

 

2 ハイヒールの恐怖
ハイヒールは、つま先立ちの状態を保持する履物です。体重が前足部にかかるため、足の障害をおこしやすく、ハイヒールを長年はいてきた女性の足は、親指が中央側に曲がり、変形したり、第1中足骨が亜脱臼をおこすこともあります。また、ハイヒールは体重が前足部に集中するため、足指の関節に障害をおこすこともあります。さらに、ハイヒールでの歩行は、はだし歩行と比べ、大腿筋と下腿三頭筋の負担が大きく、また体が前傾するのをおぎなうため、腰椎の前弯が強くなり、腰痛の原因にもなります。

3 歩くのに適した履物は?
一般に革靴は、靴底の柔軟性が乏しいために足が疲れやすく、アキレス腱や土踏まずに負担がかかります。また、サンダル、スリッポン、パンプスのような履物は、いずれも歩行中に脱げやすいので、ねんざなどをおこしやすく長時間の歩行には不適当です。登山靴やキャラバンシューズは、靴底が厚く柔軟性に欠けるため、普通の道路を歩く場合には足関節やアキレス腱に負担がかかりやすくなります。
・歩行に適した履物の条件
 次の条件を満たすことが必要です。
 1 サイズがちょうどよいだけでなく、幅や甲の高さもあってること
 2 重量が軽くて負担にならないこと
 3 靴底がしなやかで、足の裏の反りなどに密着感があること
 4 かかとや足首を痛めない程度の底の厚みと柔軟性のあること
 5 靴底がすべらないこと
 6 通気性がよいこと
 最近市販され始めたウォーキングシューズや、かかとの部分をしっかり支持できるジョギングシューズなどが、歩行に適しているようです。
健康のために正しい歩き方をマスターしましょう
1 正しい歩き方
歩く健康法では、ある程度長時間歩き続けることが必要です。そのためには、疲れにくい、正しい歩き方を習得しなければなりません。では、正しい歩き方とは、どんな歩き方をいうのでしょうか。
●姿勢を正しく、背筋を伸ばし、腹部を引き締める

●上体をこころもち前傾し、後ろ足を蹴るようにして膝を伸ばす
足先を歩く方向にまっすぐに向け、足と足との間隔は中心線から左右2cmずつ4cm位開いてまっすぐに歩く
足の送りは、踵の少し外側、次に小指の付け根の順に着地し、最後に第1指から第3指までの足指を中心に蹴り出す
歩く速さとしては、およそ毎分70m前後が適当。これは1kmを約15分で歩く速さに相当する

さあ、1万歩を歩こう
1 1万歩をどうやって計るか
・自分の歩幅を1万倍した距離を歩く
1万歩を歩いたことを知るには、まず、自分の歩幅を計ります。それを1万倍した距離を歩けば1万歩歩いたことになります。日本人の平均歩幅は男性で75cm、女性で65cmですから、これを1万倍すると、男性で7.5km、女性で6.5kmを歩けば1万歩を歩いた計算になります。
・歩く速度と歩いた時間から計算する
また、歩く速度がわかれば、歩いた時間から1万歩を知ることができます。歩くときの経済速度は分速70mといわれています(これは1kmを15分弱で歩く速度です)。平均歩幅の人がこの速度で歩くと、男性は1分間に93歩、女性は107歩を歩くことになります。ということは、分速70mで歩く場合、男性は1時間47分、女性は1時間33分で1万歩を達成します。歩く速度をやや早くすると、どうでしょうか。分速100mでは、平均歩幅の人の場合、1分間に男性は約130歩、女性は約150歩を歩くことになりますので、男性は1時間20分、女性は1時間10分歩けば1万歩になります。このように、自分の歩幅と歩くスピードを知って、歩いた時間をメモしておけば、毎日何歩ぐらい歩いたかを知ることができるわけです。
2 ペドメーターを利用してもよい
もっと正確な歩数を知りたい、という人にはペドメーターという歩数を計る器具もあります。ペドメーターは万歩計とも呼ばれ、歩行における重心の上下動と足が地面をキックする時の地面反力によって生ずるわずかな力(0.5重力加速度)を感知して、歩数をカウントするしくみです。ただし、正確に歩数を記録させるには、少々早めの速度(約80〜165m/分)で歩かなければなりません。その点を考慮に入れれば、最近は1万歩用、5万歩用、またベルトに内蔵されて目立たないものなど、さまざまな種類が市販されているので、これらを利用するのもひとつの方法といえます。歩く場所は、各人の生活のなかで工夫してください。さあ、運動不足を解消するために、1日1万歩を歩きましょう。