【法律に基づく定期の予防接種】
平成13年の予防接種法改正により、インフルエンザは二類疾病に分類され、市町村長はインフルエンザの予防接種を行わなければならないこととなった。
二類疾病とは個人予防目的に比重を置いた疾病である。すなわち、個人の発病・重症化防止及びその積み重ねとしての間接的な集団予防を図る必要がある疾病のことを言う。
【対象者】
予防接種法施行令により、インフルエンザの定期の予防接種を行う対象者は、(1)65歳以上の者、および、(2)60歳以上65歳未満であって、心臓、じん臓若しくは呼吸器の機能又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害を有するものとして厚生労働省令に定めるもの、と定められている。
【被接種者等の責務】
二類疾病の予防接種は、主に個人予防目的のために行うものであることから、二類疾病の予防接種の対象者には予防接種を受けるように努める義務は課されておらず、対象者が接種を希望する場合にのみ接種を行うこととする。
対象者の意思確認が困難な場合は、家族又はかかりつけ医の協力により対象者本人の意思確認をすることとし、接種希望であることが確認できた場合に接種を行うことができる。対象者の意思確認が最終的にできない場合は、予防接種法に基づいた接種を行うことはできない。
【接種回数】
予防接種法実施規則により、インフルエンザの定期の予防接種は、シーズン毎にインフルエンザHAワクチンを一回皮下に注射するものとされている。
インフルエンザは毎年流行するが、病原ウイルスは少しずつ抗原性を変えることが多く、ワクチンも毎年これに対応する株が選定されている。また、ワクチンが十分な効果を維持する期間は接種後約2週間後から約5ヶ月とされており、これらの理由によりワクチン接種は毎年、該当シーズン用(次期冬季用)のワクチンを、流行が予想される時期とワクチンの有効期間が一致するように行う必要がある。したがって、インフルエンザの予防接種は、過去の発生状況から考えて、一般的に10月下旬より12月中旬頃に行われるのが望ましい。
【接種量】
予防接種法実施規則により、インフルエンザの定期の予防接種のインフルエンザHAワクチンの接種量は、0.5 mLとされている。
【接種部位】
接種部位は原則として上腕伸側であるが、上腕外側の中ほどは皮下組織が浅く、橈骨神経の走行部位でもあるため、接種部位は原則として上腕伸側で、肩峰から肘頭を結ぶ線のおおよそ下3分の1の部分が適している。
【接種の実際】
実際に接種を行う場合には、接種部位が良く見えるように十分に上腕を露出させ、また、着衣等で上腕を締め付けないようにしておく。
接種部位の消毒には消毒用アルコールを使用する。まれに被接種者がアルコール不耐症の場合があるが、この場合アルコール綿で拭いた部分が赤くなる。接種上特に問題はないが、接種後の状態を見るのに不都合な場合もある。もし前もってこのことが分かっている場合には他の消毒液(イソジン消毒液、ハイアミンなど)を使う方法がある。
肘関節を屈曲させて、針の先端が筋肉内に入るのを防ぐため注射部位をつまみ隆起させる。
皮膚に対しておよそ30度程度の角度で針を挿入する。
この際、26〜29ゲージ針が好ましい。
刺した時点で神経に接触していないかを確認する。もし針先が神経に接している場合にはその神経に沿った放散痛や強い痛みが生ずる。この場合には速やかに接種を中止し、接種部位を変更する。また注射針の先端が血管内に入っていないことを血液の逆流をもって確かめることも重要である。もし血液の逆流があれば接種部位を変更する。
ワクチン液の注入はゆっくり行う。これは針の挿入時よりも、ワクチン液の注入時の方が痛みを感じせることが多いためである。
注射後は接種部位を清潔なアルコール綿で押さえる。接種直後に同部位を液が漏れ出ないように注意しながら数回揉む。
この時点であまり強く揉むと皮下出血を来すこともあるので、特に血管の脆弱な高齢者や出血傾向のある被接種者ではこの点注意を要する。
【個別接種】
インフルエンザの予防接種は、原則として個別接種として、十分な予診や被接種者の意思確認を確実に行って実施する。また、予防接種時間又は場所を一般外来とは分けて実施するなど、一般の受診者から接種対象者が感染を受けないように十分配慮する必要がある。予防接種を受けた者には、予防接種済証を交付し、接種記録が本人に明確に認識できる措置をとること。
【予防接種後の反応】
予防接種後、一定の期間に種々の身体的反応や疾病がみられることがある。
予防接種後に異常反応を疑う症状がみられた場合、これを健康被害と呼んでいる。健康被害の起きる要因としては、予防接種そのものによる副反応の場合のほか、偶発的に発症又は発見された疾病が混入することがある(紛れ込み事故)。
副反応を起こさないため、さらには、紛れ込み事故を除外するためには、接種前に既往疾患を発見しておくことが重要である。このため接種前の体温測定、予診や予診票による健康状態のチェックが行われている。しかしワクチンの改良が進んだ今日でも、また予診を十分に行っていても、予防接種による予知できない重篤な副反応や後遺症は起こりうるので、予防接種に関わる者は、副反応とその対策に関する知識を持つとともに、特に、ワクチン接種後30分以内の健康状態の変化には注意を要することを被接種者にも十分に説明し、理解を得ておくことが必要である。
【重大な副反応】
ショック、アナフィラキシー様症状:まれにショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあり、そのほとんどは接種後30分以内に生じる。
その他、ギランバレー症候群、けいれん、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)があらわれる等の報告がある。
【その他の副反応】
過敏症:まれに接種直後から数日中に、発疹、蕁麻疹、紅斑、掻痒等があらわれることがある。
全身症状:発熱、悪寒、頭痛、倦怠感等を認めることがあるが、通常、2〜3日中に消失する。
局所症状:発赤、腫脹、疼痛等を認めることがあるが、通常、2〜3日中に消失する。
【接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない者)】
被接種者が次のいずれかに該当すると認められる場合には、接種を行ってはならない。
【一般的注意】
【他の予防接種を受けている場合の接種間隔】
インフルエンザワクチン接種前に受けた予防接種の有無、種類を確認し、最近受けた予防接種が生ワクチンであった場合には4週間以上、不活化ワクチン又はトキソイドの場合には1週間以上の間隔をあける。
ただし、あらかじめ混合されていない2種以上のワクチンについて、十分検討した上で医師が必要と認めた場合は、同時に接種を行うことができる。
【予診】
予防接種を希望する者がその必要性等を理解しているか、接種不適当者又は接種要注意者に該当しないか、当日の体調がよいか等判断するためには予診票を活用し、十分に行うこと。
まず、本人が市町村の配付した予防接種の説明書を読み、予防接種の必要性を理解したかどうかを質問する。必要性を理解していない場合には、あらかじめ説明書を用意しておき接種前に読ませる必要がある。
予防接種予診票は、安全に当該予防接種が接種可能であるかを判定する重要な資料である。
右側の医師記入欄には、追加問診によって知り得た必要事項を記載する。
対象者の接種前診察は全員に実施する。健康被害は大部分は不可避的に生ずるものであるため、これによってすべての健康被害の発生を予見できるものではないが、医師としては、予診を尽くし、最大限の努力をして、接種を受ける者の体調を確認することが大切である。
問診及び診察において、問題点があれば、安全のためその日は接種を中止し、最良と思われるタイミングを再設定するよう、被接種者と接種者で話し合い、接種機会の確保が図られるよう努力することが必要である。
予防接種後に、ある疾患が偶然発見されたり、発病することがある。このような偶発的な疾患は、予防接種そのものによる副反応との鑑別が困難な場合もあるが、鑑別を効果的に行うためには、接種時に接種を受ける者の状態を予診票を利用し、更に問診又は診察によって確認しておくことが大切である。
また、接種医がインフルエンザの予防接種について十分説明したところ、接種を希望しなくなった者、家族やかかりつけ医の協力を得ても対象者本人の意思確認ができなかったために接種しなかった者、又は、当日の身体状況等により接種しなかった者については、その本人又は家族等に対し、接種を受けるかどうかの判断は、最終的に被接種者の責任において行うものであり、インフルエンザに罹患、あるいは罹患したことによる重症化、死亡が発生した場合は、市町村(市町村から委託を受けている接種医)には、その責任がない旨を事前に説明しておくことが必要である。
【予診票の各項目の留意点】
予診票の各項目のチェック方法については以下のとおりである。
【接種要注意者】
接種要注意者とは、接種の判断を行うに際し、注意を要する者を指すものであり、禁忌者ではない。
この場合、接種を受ける者の健康状態及び体質を勘案し接種の可否を判断し、接種を行う際には被接種者に対して、改めて十分に効果や副反応などについて説明し、被接種者が十分に理解した上での接種希望であることを確認し、注意して接種を行う必要がある。
接種要注意者は以下のとおり。
【法律に基づく臨時の予防接種】
現在、臨時接種の対象疾病はない。
都道府県知事は、まん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うように指示することができる。また、この臨時の予防接種の対象者は予防接種を受けるように努めなければならない。