低悪性度B細胞性リンパ腫の組織学的特徴と鑑別診断と病理

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低悪性度B細胞性リンパ腫の組織学的特徴と鑑別

悪性リンパ腫の病理組織像



国立がんセンター中央病院臨床検査部病理
低悪性度B細胞性リンパ腫の組織学的特徴と鑑別診断
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A) 序説「低悪性度B細胞性リンパ腫」

小リンパ球との識別がしばしば困難な小型リンパ球を腫瘍細胞の主体とする幾つかの腫瘍性疾患単位は、低悪性度B細胞性リンパ腫(low-grade B-cell lymphoma)と総称される。
しばしば低悪性度B細胞性リンパ腫は小型B細胞性リンパ腫(small B-cell lymphoma)とも換言されるが、個々の症例により観察される構成腫瘍細胞サイズのバリエーションは当然存在し、小型細胞が主体をなすものから中型細胞が主体をなすものまで様々で、大型細胞が混在することを特徴とするものもある。
大型細胞が領域性をもって増殖する場合は(びまん性)大細胞型B細胞性リンパ腫への移行(large cell tranform)として広く理解されている。

 発症は大細胞型B細胞性リンパ腫に比べて、より高齢者に多い傾向がある。
低悪性度B細胞性リンパ腫を構成する疾患単位は「低悪性度」という形容詞からか「比較的予後良好」なリンパ腫と安易に認識(誤解)されやすい傾向がある。本来、低悪性度とは腫瘍学の領域では「生物学的悪性度が低い、つまり臨床経過が緩慢で、生命予後は良好」と理解される用語である。
しかし「低悪性度リンパ腫」は「年余にわたる緩慢(indolent / less aggressive)な臨床経過を示す小型(-中型)B細胞性リンパ腫で、濾胞辺縁帯リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫などの疾患単位から成るが、マントル細胞リンパ腫のごとき予後の極めて不良なリンパ腫を含む」と理解した方が実際的である。マントル細胞リンパ腫はいまだ標準治療法が確立されておらず5年生存率30%未満の予後不良な治療抵抗性のリンパ腫である。マントル細胞リンパ腫はその生物学的悪性度の高さからも「真の低悪性度」とはおよそ言い難い。

一般に低悪性度B細胞性リンパ腫の治癒の可能性は増殖している細胞の割合が低い(low growth fraction)ことからも現行の治療(放射線療法や化学療法)で腫瘍細胞を根絶することは困難である。
その意味からも、近年キメラ型抗CD20抗体(rituximab: リツキサン)の併用による低悪性度B細胞性リンパ腫の治癒に高い期待が寄せられている。一方でMALTリンパ腫(MALT型の濾胞)のように臓器限局性が強く、局所治療や胃MALTリンパ腫のごとくH.pyloriの除菌療法で治癒する病型もある。
このように低悪性度B細胞性リンパ腫にはMCLに代表される予後不良の群から局所療法で治癒可能な群まで、臨床対応の異なる疾患単位が含まれていることを充分に認識する必要がある。
従って低悪性度B細胞性リンパ腫の的確な病型診断は

(1)適切な治療が遂行されること
(2)正確な予後予測がなされること

この二つの鍵を握っている。以上の観点からこのセッションでは新WHO分類に準拠して

(1)マントル細胞リンパ腫(以下MCLと略)
(2)濾胞性リンパ腫(以下FLと略)
(3)慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(以下B-CLL / SLLと略)
(4)濾胞辺縁帯リンパ腫/MALTリンパ腫(以下MZL / MALTリンパ腫と略)

の四病型の病理診断について解説した。

 この手引き集は(リンパ節病変を専門としない)診断病理医を対象にして日常の診断業務に可能な限り活用できることを主眼において作成されたものである。
診断のピットフォールについては他のセッション(目次2. 悪性リンパ腫の鑑別診断: とくにpitfallについて)でも詳しく解説されているので最小限にとどめた。さらにこのセッションでは消化管悪性リンパ腫の生検病理診断の概要についても付記した。なお各病型の臨床病理学的知見についてすべてを網羅することは到底不可能であり、詳細は2001年に刊行されたWHOのblue bookをはじめとした多数の優れた成書を充分に参照して頂きたい。





B) 低悪性度B細胞性リンパ腫の病型分類

表1に非ホジキンリンパ腫の各病型を臨床的類型化(clinical grouping)したものを示す。
低悪性度B細胞性リンパ腫として包括されるリンパ腫のうち、B-CLL/SLL、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾MZL、有毛細胞性白血病はindolent, desseminatedとしてまとめられ、その多くは病期の進行した状態(臨床病期III/IV)で発見される。リンパ節浸潤の他、骨髄や末梢血浸潤、肝脾腫が高頻度に見られる。
腫瘍の増殖は緩徐で、無治療でも何年も生存する例がしばしば経験される。
Indolent, extranodalとしてまとめられるMALTリンパ腫は消化管とくに胃、結膜などの眼附属器、甲状腺、唾液腺、肺などの節外臓器に発生し、発生組織に限局する傾向が強いため、しばしば放射線照射や外科的切除など局所療法の対象となる。
Indolent, nodalとしてまとめられるMCL, FL, MZLは、もっぱら節性リンパ腫として発見されるものであるが、とくに前二者は肝脾腫、骨髄浸潤の他、消化管浸潤例もよく経験される。
これらの中でB-CLL/SLL, FL, MCLの三病型はいずれもMALTリンパ腫と比べて進行病期(stage III/IV)症例が多く、肝臓・脾臓や骨髄に浸潤して白血化していることも少なくない。
表2に各病型の拡がりを示しているが、MALTリンパ腫が他の三病型に比べて臓器限局性が強いことが容易に理解されよう。
ときに局所療法で治癒可能なMALTリンパ腫は治療選択の面からも他の病型(non-MALTリンパ腫)と確実に鑑別されるべきである。
一方、予後予測の面からは最も予後不良なMCLと他病型(非MCL群)を的確に鑑別する必要がある。





C) 低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断とそれらの鑑別の必要性

一般に、低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断は下記のような理由から他のリンパ腫の病型診断に比べて困難であると言える。すなわち

(1)腫瘍細胞は反応性に出現した小リンパ球や形質細胞との形態的類似性が高く、反応性病変との鑑別が容易でないことがある。
(2)B-CLL/SLLのような欧米に比べて本邦での発症頻度が低いために、診断経験の乏しい病型が含まれる。
(3)B-CLL/SLLや有毛細胞性白血病のように病理組織診断のみでは確定困難ないしは確定できない病型が含まれる。
(4)リンパ形質細胞性リンパ腫のように病型の定義自体が充分明確でないものが含まれる。

以上の問題点を克服して正しい病理診断に到達するためには末梢血の細胞所見を含めて臨床医から病態に関する情報(病変が節性か、節外性か、臨床症状、起始経過など)を漏れなく収集すること、各病型を鑑別するために鍵となる免疫学的表現型(immunophenotype)を検索すること、そして何よりも組織挫滅が少なくかつ病理検索に耐える質の高い検体が採取されていること、が不可欠である。
以前は凍結切片でのみ検出可能であった表面マーカーの多くは、現在ホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて充分検出可能になっている。
表3にはMCL, FL, B-CLL/SLLおよびMZL/MALTリンパ腫の鑑別診断に有用な抗体パネルを示す。
これらの病型を鑑別すること、とりわけMCLと他病型(非MCL群)を的確に鑑別診断することの重要性は予後予測や治療選択に大きく影響することからも強調され過ぎることはない。しかしながら、実際の日常診療の場では

(1)十分量の組織検体が採取されていない
(2)高度の組織挫滅が加わり細胞形態の評価が困難
(3)常備している抗体の種類が少なく充分な免疫組織学的検索が遂行できない

など種々の制約を受けることが少なくない。そのため明確な病型診断に到達できないことがある。
そのような場合はやむを得ず、主診断名を「低悪性度B細胞性リンパ腫」とのみ記載して臨床側に報告することが適当と思われる。病型を確定するための充分な根拠が揃わない場合は無理な(ときに無謀な)診断は避けるべきである。かえって臨床医を混乱させ、何よりも患者さんにとってのメリットはゼロである。低悪性度B細胞性リンパ腫の多くは総じて臨床経過が緩慢であり、急性白血病のような早急な治療開始が要求されることはむしろ少ないので、組織学的検索のみでは解決できない場合は分子生物学的手法を用いたクロナリティーの有無や染色体転座の解析を行なうことも必要である。
また日本病理学会を通じて悪性リンパ腫の専門病理医にコンサルトすることも一策であろう。
胃MALTリンパ腫のようにH.pylori除菌療法が適用されるものから、MCL, FLなど化学療法が導入されるものまで様々な病型を含む低悪性度B細胞性リンパ腫の病理診断には常に慎重でありたい。
表4にはこのセッションで概説する各病型の鑑別点をまとめた。





E) 病型各論: 濾胞性リンパ腫 follicular lymphoma

本邦での発生頻度はリンパ腫全体の約6.7%程度である(文献10)。
これは米国における35%の発生頻度に比べて低い。
しかし、実際はその緩慢で長い臨床経過を反映してがん診療施設を受診する患者数は増加しているようである。実際に2001年(1月から12月末までの1年間)に国立がんセンター中央病院臨床検査部病理で診断された全悪性リンパ腫256例のうちFLは47例でその割合(約18%)は最多のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(34%) に次いで高い。発症年齢のピークは50歳台にあり、他の病型と同様に高齢発症の傾向を示す。
また診断時には臨床病期の進行したものが多い。
長期的な予後は寛解と再発を繰り返す特徴からも不良と言える。予後関連因子としては後述するhistological gradeがある。
本邦の集計で節性FLと節外性FLの比は約6対1と報告されているように、本病型は原則的にリンパ節原発(節性)であり、節外発症は稀である。節外臓器におけるFLの診断には慎重でありたい。
ただし、Yoshinoら(文献17)、中村ら(文献36)が報告しているように節外臓器では消化管とくに十二指腸病変はしばしば経験されるので、十二指腸下行脚以遠に多発する小型ドーム状白色隆起病変(図1: 写真①②)の生検診断においてはFLの可能性も考慮する必要がある。この場合は内視鏡検査所見も参考にするとよい。
またMCLと同様に消化管にはMLPを形成することもある(図8)。リンパ節病変は拇指頭大に腫大するものから、癒合して直径10cmを超える腫瘤(bulky mass)を形成するものまで様々である。
典型的な症例では1-2mm径の小結節が多数増生する独特な割面を示す(図9)。
病理組織学的には「少なくとも一部で独立した濾胞様結節を形成する胚中心構成B細胞由来のリンパ腫」である。通常、幅の狭い暗調なマントル層により縁取られた(これをlymphoid cuffingという)明調な濾胞様結節つまり腫瘍性濾胞(neoplastic follicle)がリンパ節全体にわたり増生する(図10)。しばしばリンパ節被膜周囲の脂肪組織内にも腫瘍性濾胞を形成しながら浸潤する(図11)。この脂肪組織内における腫瘍性濾胞形成所見は重要な所見であることからも、筆者らは周囲脂肪組織も含めたリンパ節生検を臨床医に推奨している。実際の診断場面では前述した定型的な組織所見以外に

(1)マントル層の縁取りが不明瞭な腫瘍性濾胞が隣接して密に増生するもの(図12)
(2)小型の腫瘍性濾胞が目立ち同濾胞間領域が拡大しているもの(図13)
(3)中心部が暗調でその周囲が明調な腫瘍性濾胞(inverse / reverse variant)が増生するもの(図14)

など多様な所見に遭遇する。その他の亜型は成書に譲るが、いずれの腫瘍性濾胞においても正常濾胞胚中心に観察される暗調帯、明調帯といった細胞分布極性は消失し、核片貪食細胞(tingible body macrophage)も殆ど介在していないことがHE標本上重要な所見である。そしてこの所見は頻度の差はあれどのhistological gradeであっても共通して見られる。既存の濾胞胚中心との細胞構成の相違を十分に理解することが、後述する非腫瘍性の反応性濾胞過形成との鑑別診断の第一歩である。
腫瘍性濾胞は胚中心細胞(centrocyte)に類似した小型-中型の異型細胞(small cleaved cell)と胚中心芽細胞(centroblast)に類似した大型の異型細胞(large non-cleaved cell)が種々の割合で混在し、増殖することで形成される。小型-中型の異型細胞は図15に示すごとくヘチマ状、キュウリ状または絞った雑巾のようなやくびれや切れ込みを有する特徴のある核形態を示す。
一方、大型の異型細胞は水泡状の卵円形核と核縁に偏在する1-3個の核小体を有する。この大型細胞の多寡は生命予後と密接に関連することから新WHO分類ではGrade 1, 2, 3の三群に分類(grading)している。すなわち対物レンズ40倍の強拡大視野で10個の腫瘍性濾胞におけるcentroblastに類似した大型異型細胞の数を各々算出し、その最大値が5個以下はGrade 1(図16)、6-15個はGrade 2(図17)、16個以上はgrade 3としている。Grade 3には3a(図18)と3b(図19)があり、grade 3bはシート状に大型細胞が増生するもの、Grade 3aは多少なりとも小-中型異型細胞が混在するものとしている。
Grade 3のFLにおける腫瘍性濾胞は融合拡大する傾向が強く、びまん化領域(diffuse area)を伴いやすい(図20)。とくにGrade 3bのびまん化領域の組織像はびまん性大細胞型リンパ腫とほぼ同じであり、FLのlarge cell transformationとして理解される病変である。このような場合は、blue bookに呈示された記載要領に準じて、例えばDiffuse large B-cell lymphoma(30%) and follicular lymphoma, Grade 3(70%) のようにびまん化領域が存在する旨を報告書に記載すべきである。この「びまん化領域を伴うFL」においてはびまん性大細胞型リンパ腫の形態をとることが最も多いが、びまん化領域は必ずしも大型細胞から構成されるとは限らず小-中型細胞から構成されることもしばしば経験される。
従って、びまん化領域を即びまん性大細胞型リンパ腫と判断するのは危険である。
さらに日常の診断場面では不完全に融合拡大する腫瘍性濾胞についての解釈つまり「びまん化」とするか否か、「びまん化領域」の割合の算定の基準は病理医間で異なることが当然予測されるが、要は(経過のある症例では既往の生検組織と必ず比較して)びまん化領域が目立つこと、histological gradeが高くなっていること、びまん性大細胞型リンパ腫の領域が見られこと、などを漏らさず臨床側に報告することが重要であり、最優先されるべきである。
免疫学的表現型としてはCD5- CD10+ CD20+ CD23- bcl-2+がFLと診断するために重要である。殆どの症例で染色体転座t(14;18)(q32;q21)を認める。
鑑別対象としては第一に反応性病変とくに濾胞過形成である。
反応性の過形成濾胞の多くは明瞭なマントル層を有し、濾胞内の細胞分布極性も比較的保たれている。
また濾胞の大きなものほど(大きくなるにつれて)核分裂像やtingible body macrophageが目立ち、程度の差はあるが濾胞間領域の拡大も随伴する(図21)。免疫染色ではbcl-2陽性細胞分布が特徴的で、反応性過形成濾胞では「胚中心陰性、マントル層陽性」となるが(図22)、腫瘍性濾胞は通常bcl-2陽性となる(図23)。FLではそのgradeが高くなるにつれてbcl-2を過剰発現する症例が少なくなる傾向があるが、腫瘍性濾胞と反応性過形成濾胞との鑑別に限ってはbcl-2を用いた免疫染色はきわめて有用である。
ただし表3に示しているように他の小型B細胞性リンパ腫も高頻度にbcl-2陽性となることから、FLとMCL, B-CLL / SLL, MALTリンパ腫との鑑別にはbcl-2を用いた免疫染色はまったく役に立たない。この点はよく誤解されているようである。
次に濾胞様結節構造が不明瞭なFLはvague nodular patternを呈するMCLとの鑑別が問題となるが、小型-中型-大型細胞が多少なりとも混在し多彩な細胞構成を示すFLと、単調な細胞構成(monomorphic feature)をその最大の特徴とするMCLとは鑑別し得る。
またB-CLL / SLLとはparaimmunoblastの集簇巣であるproliferation centerの有無ならびに濾胞様結節に一致したCD10陽性所見やCD21陽性のfollicular dendritic cell(FDC)のメッシュワーク構造の有無を検討することも鑑別の一助となる。このCD10陽性所見はMALTリンパ腫とくに「腫瘍細胞が濾胞胚中心内に浸潤し増殖する現象つまりfollicular colonizationの顕著な症例」との鑑別の際に有用であることが多い。
さらに不明瞭な結節様構造を呈するFLではCD3陽性のT細胞の分布を知ることによって結節形成をより明確に認識可能なことが多く(図24)、これに加えて多彩な細胞構成と当該異型細胞の膜に一致したCD10陽性像(図25)が得られればFLの診断は確実となる。
そしてFLは原則として節性優位であるので、MALTリンパ腫などの節外優位の他病型との鑑別に難渋した場合は発生部位を考慮することも病理診断の助けとなる。




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悪性リンパ腫の病理組織像
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1.はじめに
悪性リンパ腫の病理診断は、患者さんから採取された検体をもとに、病理医によってなされます。臨床の医師は患者さんと会って仕事をしますが、病理医は「患者さんの代理人である臨床医」から渡される検体、すなわち細胞や組織を相手に仕事をします。この病理医という立場で最も慎重に考えるのは、まず、徹底してがんではない可能性を考えることです。自信を持ってがんであるという所見が出ない限りは、結論は出しません。臨床の医師が患者さんに、病理の診断をもとに「これはがんです」という場合は、そのまますぐに治療に入る時点にある、つまり結論が出ている段階です。病理医は、がん診断の最も基本を担うものといえます。すべては診断からはじまりますので、場合によってはなかなか結論を出せず、臨床医との協議を繰り返し、必要に応じて特殊検査や再検査を依頼しなければならないときもあります。その過程で絶えず診断は検証され、新たに得られた所見によっては、診断自体が修正されることもある点に注意が必要です。





2.診断のポイント
悪性リンパ腫は免疫性のがんであり、診断には2つのポイントがあります。すなわち、例えばリンパ節の腫脹が反応性のものか腫瘍性のものか、そしてがんであれば、悪性リンパ腫なのかほかの転移性がんなのかです。

免疫を担う器官であるリンパ節や胸腺(きょうせん)は、外敵の侵入があればいろいろな反応を示します。その反応の1つが、「リンパ節が腫(は)れる」ことです。したがってリンパ節の腫れだけでは、それが腫瘍性か反応性かわかりません。果たしてどちらなのかの判断が第一段階の大問題で、それががんである場合、悪性リンパ腫かそれ以外のがんなのかが次の重要な問題点となります。悪性リンパ腫であれば、根治性が期待できるがんの1つです。すべてとはいかないまでも、現在の医療レベルで、幸いにも半数近くを治すことができます。一方、他のがんがリンパ節に転移したのであれば、今日の医学では根治がなかなか難しい疾病ということになります。

患者さんからすれば、診断までの時間が非常に長く感じられて、その期間が大変不安だろうと思います。しかし冒頭で述べた通り、病理医は「がんである」という結論にとても慎重になりがちなのです。

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3.分類と診断
現時点では悪性リンパ腫の分類はまだまだ難しく、疾患と診断について、われわれの知識はまだ普遍的な域に達していません。過去にも当然、診断や分類はされてきました。しかし、これらは各時代の知識の制約のもとでのもので、診断は科学の進歩とともに常に変化します。また、治療法も進化します。したがって、分類についての知識がどのようなものであっても、それを実際の今の医療現場にどのように応用するかが、大切な問題になります。悪性リンパ腫の主な病型については、別のところで個別に詳しく述べられています。ここでは、全体の主な留意点をみることにします。

2001年、世界保健機構(World Health Organization:WHO)の国際腫瘍分類シリーズ(いわゆるBluebooks)の1つとして、「造血組織およびリンパ系腫瘍」編が新訂公刊されました。現在の悪性リンパ腫は大きく6つの項目に分類され、このWHO分類に基づいて診断されています(図表1)。

「前駆細胞型のBおよびT細胞性腫瘍(Precursor B- and T-cell Neoplasms)」は、子どもに多くみられるがんです。「成熟BあるいはTおよびNK細胞腫瘍(Mature B-cell Neoplasms, Mature T-cell and NK-cell Neoplasms)」は、多くが成人の免疫系のがんです。「ホジキンリンパ腫(Hodgkin Lymphoma)」の「Hodgkin」は、19世紀の研究者の名前です。医学では、本態がまだよくわからないものには、人の名前が付けられています。今、ホジキンリンパ腫の多くがB細胞由来であることが明らかにされつつあります。そして「免疫不全関連リンパ増殖異常症(Immunodeficiency Associated Lymphoproliferative Disorders)」は、患者さんの何らかの免疫不全状態を背景として発生する、リンパ増殖疾患・リンパ腫のことです。例えばAIDSは、「Human Immunodeficiency Virus」に感染した病気です。さらに、まれな組織球・樹状細胞腫瘍があります。これら6つの大項目の下に、さらに個別の診断が多数あります(50診断名以上)。ですから、専門家でもすべてを把握することは難しく、一方、実際に遭遇する頻度は、疾患によって大きく異なります。参考までに、比較的頻度の高い前駆細胞型腫瘍、成熟B細胞腫瘍、成熟TおよびNK細胞腫瘍、ホジキンリンパ腫の分類の一覧を示します(表1)。





2)成熟B細胞腫瘍分類の発達
繰り返しになりますが、悪性リンパ腫の分類は今後も変わります。しかし、成熟B細胞腫瘍の中の3種類の主な病型を原型として考えると、診断が理解しやすいように思います。この3種類の主な病型は、リンパ腫の分類で、すでに普遍的な位置が確立されたものといえます。それが「粘膜関連リンパ組織(MALT)型リンパ腫」、「濾胞性リンパ腫(Follicular Lymphoma)」、「マントル細胞リンパ腫(Mantle Cell Lymphoma)」です。

粘膜関連リンパ組織(MALT)型リンパ腫の「MALT」は粘膜関連リンパ組織(Mucosa Associated Lymphoid Tissue)の略称です。免疫系の中枢臓器は、リンパ節、胸腺、脾臓(ひぞう)、骨髄などですが、実はそれ以外の臓器にもリンパ組織があり、MALT型リンパ腫と深い関係があります。例えば胃には、そもそも生まれたときには免疫組織はありませんでした。しかし、胃にヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pylori)細菌感染が起こった場合、5〜10年という経過中に、細菌感染そのものによる刺激などで免疫組織ができてくるのです。それを粘膜関連リンパ組織(MALT)といいます。表では、これが全悪性リンパ腫の9%を占めるとなっていますが、実は最近ではもっと多く診断されるようになっていて15〜16%です。

「濾胞性リンパ腫(Follicular Lymphoma)」と「マントル細胞リンパ腫(Mantle Cell Lymphoma)」は、おのおの全悪性リンパ腫の7%、3%を占めています。最近、やはり濾胞性リンパ腫の頻度が高くなり、10〜15%を占めつつあります。以上の3種類の病型の理解が、成熟B細胞腫瘍を考えるもととなるといえます。

上記以外で多いのが、びまん性B大細胞型(Diffuse Large B-cell Lymphoma)です。これは悪性度は高いものの、それなりに化学療法が効くタイプです。MALT型リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性B大細胞型リンパ腫の4つで、日本の現在の悪性リンパ腫の60〜70%を占めることになります(図表7)。


図表7 悪性リンパ腫の診断:成熟B細胞腫瘍の頻度
・MALT lymphoma 9%
・Follicular lymphoma 7%
・Mantle cell lymphoma 3%
・CLL/SLL 1〜2%
・Plasma cell myeloma 1%
・Diffuse large B-cell lymphoma 34%
・Burkitt lymphoma 1%



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5.悪性リンパ腫発生のメカニズム —成熟B細胞腫瘍を例として:DNAの変化

図表8

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図表9 転座:染色体の一部が他の染色体部分と入替わること

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悪性リンパ腫は、がんの発生を考えるうえで最も良いモデルとなったものです。

図は腫瘍組織ではありません。一般の方にも理解しやすいように、健康な脾臓の組織を示しています。よく見ると、3つほどの細胞群に分別できます。リンパ濾胞の中央が胚中心(Germinal Center)によって構成されています。その外側の小さな細胞からなる黒っぽい部分を、暗殻(マントル層)といいます。そしてその外側に、胚中心と暗殻の中間くらいの大きさの細胞が広がっていますが、これを辺緑帯と呼びます(図表8)。

がん細胞が、胚中心細胞に分化してできるのが濾胞性リンパ腫、暗殻細胞に分化してできるのがマントル細胞リンパ腫、そして辺緑帯B細胞に分化してできるのがMALT型リンパ腫です。

免疫系細胞は、常に姿を変えることで機能を恒常的に維持しています。例えばリンパ球は、血液細胞の1つです。血液細胞は、骨髄の幹細胞(Stem Cell)から再生され続けます。骨髄から生まれ出たリンパ球の、例えば幼若なB細胞は、最初にこの暗殻の部分に入ります。そこでさまざまな抗原刺激を受け、胚中心を形成します。この際、この抗原に対してより反応性を高めるために、DNAを切ったり張りつけたりして抗体の多様性をつくります。ただしこのような激しいことをすれば、1〜10%の細胞はうまくいきますが、90〜99%の細胞は死んでしまいます。生き残ったものは、DNAを並べ替えることができて記憶細胞となり、辺縁帯を形成するといわれます。

つまり、リンパ球は骨髄に由来し、胚中心に入る前の細胞、すなわち前胚中心細胞の段階に相当する疾患がマントル細胞リンパ腫、胚中心の段階に相当するのが濾胞性リンパ腫、そして辺緑帯に相当するのがMALT型リンパ腫です。この3つに分ける理由は、疾患の成り立ち、組織所見、病態が大きく異なるためです。予後もそれぞれで違ってきます。最も単純化したものを示します(図表9)。
4.発生のメカニズムと診断


2)濾胞性リンパ腫
これも高齢者に多く、リンパ節から発生するものです。そして、本来は予後の悪い急性白血病のマーカーであるCD10が、なぜかわかりませんが発現します。経過は非常に緩(ゆる)やかですが、なかなか治りにくいがんです。BCL2が遺伝子異常の本態で、濾胞性リンパ腫の発生にかかわっています。近年は、治療用キメラ型抗CD20抗体(リツキシマブ:リツキサン(R))が使われるようになっています。

ところで前に簡単に述べたように、濾胞性リンパ腫は、現在わが国で急速に患者さんが増えつつあります。例えば、欧米では濾胞性リンパ腫は20%くらいですが、愛知県がんセンターでのデータによれば、1990年代は8%だったものが、最近では15%とほぼ倍増しています(図表19)。ただし、アメリカに移民して暮らしている日本人では20%ですから、発生の頻度は環境に影響を受けていることが推測されます。



図表19 Trend in the incidence of lymphoma subtypes
in Aichi Cancer Center and affiliated hospitals
Year Case no. Hodgkin lymphoma Follicular lymphoma Diffuse large B-cell lymphoma
1986-1990 318 3% 8% 32%
1991-1995 616 6% 10% 35%
1996-2000 872 7% 15% 39%



図表20

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図表21

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図表22

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濾胞性リンパ腫は、慣れればある程度は肉眼で診断を推測することが可能です。濾胞そのものの大きさが、大体1mmくらいあります。図表20、21は、国立がんセンター(現国立がん研究センター)の病理の松野吉宏医師にお借りしたスライドですが、多数の小結節構造、組織では胚中心・濾胞に相当する結節がリンパ節全体に見えます。細胞像は、単調な細胞構成を示すマントル細胞リンパ腫とは異なり、中型から大型のくびれ細胞、非くびれ細胞で構成されています(図表22)。

濾胞性リンパ腫は、基本的にリンパ節に出るもので、病初期から全身に広がっている場合が多いです。しかし、少数ながらリンパ節以外の、例えば皮膚や十二指腸などに出ることがあります。その場合には、病変の広がりが発生部位に比較的限局しています。したがって、通常の濾胞性リンパ腫では全身治療が中心になりますが、このようにリンパ節以外に発生した場合には、局所の治療も考えられます。同じ病気であっても、どこから発生したのかということが非常に重要になるわけです。ですから、問題のがんがどの部位から発生したのか、年齢はいくつかなどのことを考えずに、肉眼や画像所見、組織像、細胞像、または遺伝子異常だけを見ていても、正しい診断と治療方針には絶対にたどり着けません。全体を総合的に考える重要性が、何度も強調されるわけです。

ワンポイントアドバイス
•高齢者、リンパ節性
•濾胞形成、くびれ/非くびれ細胞
•B細胞性、CD5-、CD10+、CD20+
•経過は緩徐、非治癒
•BCL2が診断の助け
•治療用キメラ型抗CD20抗体て
濾胞性リンパ腫

図表23

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図表24

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図表25

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図表26

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図表27 Overall survival in 94 patients with follicular lymphoma.

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濾胞性リンパ腫は、CD10が陽性です(図表23)。また、染色体異常として、14番と18番染色体が転座しています(図表24)。14番染色体には、前述のごとく免疫グロブリン重鎖の遺伝子があって、18番染色体上にBCL2という遺伝子があります。BCL2は、B細胞性リンパ腫で発見された2番目の染色体異常ということで、このような「名前」がついています。BCL2は、細胞が生理的に死ぬ(アポトーシスと呼ばれます)ことを妨げる働きをします。細胞の代謝が正常に進めば、一定の期間を過ぎた細胞は死んでしまうという現象があり、それらの細胞が死ぬか死なないかという事象に、BCL2という蛋白の発現の有無が深くかかわっています。細胞が生理的に死ぬかどうかという現象は、がんの発生を考えるうえで非常に重要です。BCL2は、濾胞性リンパ腫ではまさに腫瘍性胚中心に陽性です(図表25)。BCL2は、細胞レベルではミトコンドリアに局在し、がん細胞の細胞質に陽性となります(図表26)。一方、がんではない、正常の反応性のリンパ濾胞では、BCL2の蛋白レベルでの発現は一切認められません。ですから、胚中心でBCL2が陽性であれば、まず濾胞性リンパ腫を考えることになります。一方、濾胞性リンパ腫の10〜20%でBCL2が陰性のことがあります。また、濾胞性リンパ腫以外の他のリンパ腫、例えば前述のマントル細胞リンパ腫、後述のMALT型リンパ腫では、BCL2遺伝子異常がなくとも、蛋白レベルでは通常、BCL2陽性であることに注意が必要です。BCL2蛋白は正常の胚中心細胞“以外”の成熟B細胞では、普通に発現しているからです。BCL2蛋白発現の評価は、胚中心細胞およびそれへの分化を示す腫瘍においてのみ意味を持つといえます。

参考までに、愛知県がんセンターにおける濾胞性リンパ腫の予後曲線を示します(図表27)