コンプレックス
父がよく言います。
自分の母は立派だった。
病で体が不自由だったのに
家の中のことすべて一人でやってのけた。
自分の母は立派だった。
父は、母が昼寝をしているのを嫌います。
父の外出中、母が疲れきって昼寝をしているときに
うっかり父が帰宅しようものなら、
父は「たるんでる!」とカンカンに怒ります。
そしてご自分は、座椅子に座ったまま
よく居眠りをされていますが
「疲れているから気の毒だと思え」と
堂々と家族におっしゃいます。
男は外で仕事をして疲れて帰ってきても
のんびりできる家庭があります。
その家庭が仕事場の主婦は
いったいどこで休めばよいのでしょう?
年中無休の主婦。しかも無給であります。
自分は時として「入院したい」と思うことがあります。
どんなに疲れていても、
家にいるかぎり
主婦は働かなければなりません。
無理に無理を重ねて倒れるまで。
それは会社勤めをしている男性も
同じことなのかもしれませんが
はたしてそれが当たり前なのでしょうか?
あたしには極めて疑問です。
倒れる前に、もっと軽い症状のときに
いたわり合い、助け合うのが家族ではないのでしょうか?
あたしには極めて疑問です。
父から見るとたるんでいる母なのかもしれませんが
あたしから見ると、母は実に凄い母であります。
「きつい」といっても良いのかもしれません。
話をしはじめるとき、突然本題に入ることがあります。
「何の話?」と質問すると
「わからないの?だめね!」と一蹴されます。
そういわれると「そうかだめなのか」と思ってしまうのが
これまたあたしの性格です。
あたしは、子どものころから
自主的に何かやって、母にほめられたということが
ただの一度もありません。
あたしが雨戸を閉めようとしはじめると
母は「雨戸を閉めてちょうだい」といいます。
雨が降ってきて洗濯物をとりこもうとすると
「洗濯物をとりこんでちょうだい」といいます。
これはいわば母の癖なんですよね。
悪気や深い意味は何もないのです。
けれどもおかげさまで、あたしは自主的に何かやって
ほめてもらったという記憶がただの一度もありません。
おおげさな話ではなく、これは本当のことです。
話が横道にそれましたが
母が凄い人だという話の続きです。
母は、夜2時ごろ寝ます。
アイロンをかけているのです。
あたしは、子どもは遊んで汚すもの。
ビシッとアイロンをかけた服など着せることはない。
と思っています。
けれども、母は、子どものTシャツから
すごいときには下着にまでアイロンをかけています。
そんなことはする必要がないとあたしは母に言いますが
「あたしがやりたいからやってるのだからよいでしょう」
と、あたしの話など聞いてもくれません。
夜遅くまでアイロンかけをしている
そんな母の姿を家族が見たら
母は立派な母。あたしはだめな母。
そうなりますよね。
料理にしてもそうです。
あたしは、買い物が遅くなると
出来合いのもので済ませてしまったりもしますが
母は悠長に、肉じゃがなんかつくったり
トンカツなんか下ごしらえからして揚げたりもします。
当然、晩御飯は遅くなります。
そこから父の晩酌がはじまるので
片付けも当然遅くなります。
あたしは、仕事もあるし
その時間に到底お付き合いしきれないので
適当な時間に2階にあがり
適当な時間に下に降りて
洗い物をすませてまた2階へあがります。
それから、また父と母は悠長に
サスペンスものなどをみながら
夜食なんか食べたりして、またまた洗いものがでます。
それを深夜、また母が洗ったりしています。
夜おそくまで片付け物をしている。
そんな母の姿を家族が見たら
母は立派な母。あたしはだめな母。
そうなりますよね。
あたしは、子どもが制服や弁当箱を出さなければ
そのままにしておいて、本人が懲りなければ、
自分からやるようにはならないとそう思っています。
ところが母は、夜サスペンス物等を見終わった後
ごそごそと脱ぎ散らかした服の山から制服をさがしだし
子どものかばんの中からお弁当箱をみつけだし
その時間から洗濯をはじめたり、洗い物をはじめたりします。
母は乾燥機が嫌いです。
あたしは、何度も乾燥機が欲しいと言いました。
うっかり洗い忘れたとき、絶対に便利だと思うからです。
でも母はガンとしてそんなものはいらないと言い放ち
あたしの話を聞いてもくれません。
それゆえ、その時間から制服を洗い
ストーブの前で乾くのを待っていたり
アイロンで乾かしたり
そうやって2時すぎまで起きています。
あたしは、そこまでして
洗ってやることはないと思っています。
そんなことをする必要はないとあたしは母にいいますが
母は絶対に聞き入れません。
「自分が孫のためにやってあげたいのだからいいでしょう」
と、母は言って聞きません。
けれども、だからといってその仕事を
あたしが代わって自分の仕事にしようとは
あたしにはどうしても思えないのです。
ここでもやはり家族から見たら
母は立派な母。あたしはだめな母。
そうなりますよね。
夜遅くまで家事をこなしている母。
それに対し、さっさと2階へあがってしまうか
または、会議やつきあいの飲み会で帰りが遅いあたし。
家族が見たら
母は立派な母。あたしはだめな母。
そうなりますよね。
あたしは娘に言われました。
このままではばあさんは死んでしまう。
おかあさんがもっと家事をやらなければいけない。
(娘は、自分が食べた食器すら台所に運ぶこともしません)
最近あたしは5時に起きることにしました。
夜2時、3時まで書類作成等の仕事をしていても
5時に起きることにしました。
朝一番にすることは、抗うつ剤を飲むこと。
その勢いでせっせと家事をこなし
母が起きてくる8時30分ごろには、
朝の仕事がすべて終わっているようにしておく。
さらに、どこかしら部屋の片付け物などをしておく。
そうやってがんばるしか
あたしが家族に認めてもらえる道はないからです。
あたしが男なら外でがんばっていれば
大きな顔をして、座椅子で居眠りをしていてもよいのでしょう。
けれどもあたしは女であり、主婦であるのだから
あたしがほんとに倒れるまで
どんなに疲れていても、手抜きをせずに
せっせと家事をこなさなければ
家族があたしを認めてはくれないでしょう。
出来すぎる母とだめなあたしの話でした。