ほぐすことの意味


 母親はパーキンソン病と診断されるよりもずっと前から、寝返りや起き上がりに時間がかかるようになっていました。
 私自身としましては太り気味であることや、腹筋の力が弱ってきたことによるものであろうと思いつつ、何も対処してこなかっこなかったわけですが、パーキンソン病と診断されてからはやはり少しずつ気になりだし、そのままにしておくわけにもいかないと思うようになり、リハビリを受けることにしました。
 その時に私も一緒に行き説明を受けました。80歳近い年寄りの腹筋の筋力アップのための良い方法などないものか、そのほかにもお聞きしたい事もあったものですから。
 リハビリの先生の説明では、パーキンソン病では背骨のまわりが硬くなってきて,回旋や前屈・側屈等が出来にくくなってくることが主な理由とのことで、ほぐすためのリハビリを15分ほど受けました。
 目からウロコとはまさにこのことです。

ヨーガ等に取り組んだ経験のある人であれば解ると思いますが、人のからだはそれほど簡単にはほぐれません。週2回のヨーガ教室に通ってもなかなかほぐれては来ないはずです。ヨーガ教室でやってみたことを自分で毎日取り組むようにして、月単位でみてようやく変化がわかってくると言うのが、実際のところではないでしょうか。
 表現を変えて言いますと、毎日取り組むことによって薄紙をはがすように、ゆっくりとほぐれてくるように、萎縮硬化した筋肉を無理なく背伸びをさせるような気持ちでほぐしてやる、それがほぐすときの一番大切な心得だともいえます。
 じっくりと1時間以上もかけて丹念にからだをほぐしても、すぐにもとに戻ってしまうとはよく言われることです。確かに当人の実感としては、完全にもとに戻ったように思えるのですが、1日ではもとに戻っているわけではございません。毎日取り組むことによって、月単位でみますと必ず変化がわかってくるからです。
 そして何年もかけて毎日ほぐし続けて相当にほぐれたからだになっていても、ほぐすことをやめますと、月単位で間違いなく体の柔軟性は失われてゆきます。相当な期間柔軟性を保ってきたのだから、これで何もしなくとも当分はその柔らかさが維持できる、などということはありません。
 人のからだは赤ん坊のときが一番柔らかく、その後年齢を経るにつれ次第に柔軟性が失われる方向へと傾いてゆきます。従いまして例え健康な人であっても、ほぐす体操は大変に有意義なものと言うことが出来ます。
 健康法として取り組むのであれば週2回程でも良いのでしょうが、パーキンソン病の患者さんにとっては、からだに必要なものを補ってやるような気持ちで、やはり毎日取り組まなければいけないことのように思います。

 このようなことは頭の中で理解しても何の意味も持ちません。それでは決して自分の日常生活の中に取り入れることにはつながらないからです。実際にやってみて、自分のからだを通してほぐすことの意味が理解できたときに初めて、そのようなことが必要な人にとっては、決しておろそかには出来ない大切な意味を持ってくることになります。

 科学的にその効果が充分に検証されている心身の健康法に、自律訓練法というのがあります。これは6段階に分かれていて、その1段階目および2段階目に取り組むだけでも、かなり効果が見られると言われています。
 1段階目は「両手両足が重くなる。」、2段階目は「両手両足が暖かくなる。」というものです。
 両手両足が重く感じられるようになるのは、単に自己暗示にかかって、重くなったと勝手に思い込んでいるに過ぎないと言うわけではありません。その時に生理的変化として、筋肉の緊張が実際にほぐれてきているために、腕や足がずっと下方に沈み込んで行くように感じられたり(人によって感じ方が違います)して、重く感じられるようになってくるわけです。
 筋肉の緊張がほぐれてくれば、血液の循環が良くなってきますので、その結果暖かく感じられるようになってきます。これも実際に体表温度が上がってきます。
 そのうちに軽い眠りに引き込まれそうになってきたりします。これは交感神経優位の状態から、副交感神経優位の状態に変わってきたということだと思います。
 ポジトロンCTを使って脳の働きの研究に携わっておられる先生が、「調べれば調べるほど、脳とからだは切っても切り離せない一心同体であることを痛感せざるを得ない。」と言っておられましたが、からだをほぐすと言うことは唯それだけに留まらずに、脳(心)をもほぐすことに繋がる面があると言えるように思います。それだからこそヨーガ等が今も求められる所以だと思います。
 パーキンソン病の患者さんは交感神経優位の人がなるために、交感神経の緊張をゆるめるようにすれば良いということを何かで読んだ記憶がありますが、そのような観点からも、ほぐすことは決して無意味なことではないように思われます。

 スポーツのトレーニング法にイメージトレーニングと言うのがあります。これはからだを全く動かすことなく、頭の中でからだのそれぞれの筋肉を意識しながら、からだの動きのイメージを繰り返し思い描くだけで、はっきりとトレーニング効果が現れてくると言うものですが、これはほぐすときにも応用できます。
 つまりある筋肉を緩める体操であれば、その筋肉が自分のからだのどこにあるかを頭の中で意識し、その筋肉が緩んでいくというふうにイメージしながら取り組んだ方が良いと言うことです。そのように取り組みますと緩みやすいばかりか、そのうちに緩むときのからだの変化まで感じられるようになってきます。
 そうなればほぐすための体操を継続的に続けていくための、大変に強い動機付けになってくれます。しかし例えその感覚がつかめなくとも、諦めることなく続けてみてください。時間の早い遅いはあっても、かならず続けていて良かったと思える日が来ますから。

 「ほぐし続けることこそ一定すみかぞかし。」と思い定められまして、続けられませんことを願うのみです。