
今手元に『誤れる現代医学』※(1)という本がございます。これは私が、自ら積極的に取り組むべき価値のある方法について、気付かされることになるきっかけとなった本でございます。この本の著者の橋本行生先生は、生理学者を目指しておられましたのに、ご自分の肝臓病という体験を通して、臨床医の道を進むようになられた方です。
橋本先生はこの本の中で次のように書いておられます。
「生きている人間の心身は、常に歪む宿命を持つ。人間の癖が歪みを定着させ、病気として発症させる。その心身の歪み方にどのような種類があるのか。
最も解りやすいものに筋骨格系の歪みがある。体の歪みは足指・足関節を土台にして脊椎を経て頭に至る。内臓疾患をも生む。歪みを矯正するのが正しい体操の目的であり、体を鍛えるための運動と混同してはいけない。
飲食にまつわる歪みがある。白米の食べ過ぎ、肉類の食べ過ぎ、甘いものの食べ過ぎ。飲食にまつわる歪みの根は深く、心の癖と深くつながっている。
心の歪みがある。心の癖は最も治りにくい。心の歪みが直らなければ、治療が軌道に乗ったとは言えない。
心身の両面の癖直しを行うのが治療の本筋である。健康法を単純に説く本や雑誌がたくさん出版されるようになっていますが、健康に近ずくための歪み直し・癖直しという難事業が、マスコミ流に単純に達成できるものだろうか。」
今でこそテレビ等でこのような歪みについて、はっきりと口にされるお医者さんも珍しいことではなくなってきましたが、私がこの本に出会いました10数年前には、あまりおられなかったように思います。この本が出版されました昭和46年当時ですと、専門家の先生方からは殆ど無視の対象でしかなかったのではないでしょうか。もっとも今でも関心を示されない先生方の方が、大多数だとは思いますが。
まず筋骨格系についてですが、どうして歪むようになるのでしょうか。それは骨格筋はひとつの骨から起こって、必ず1つないし数個の関節を飛び越えて、他の骨に付いているからです。その筋肉が疲労して萎縮硬化すれば、2つないし数個の骨はお互いに近付く方向へと、引き寄せられることになります。
日常生活の中では、体の筋肉を均等に使っているわけがなく、人それぞれで必ず偏りがあります。そうであれば筋疲労にも偏りが出てきますから、いろいろな部分で筋骨格系に歪みが出てくることになります。
「骨盤の歪み」という言葉を耳にされたことがあると思いますが、ここが歪んできますと仰向けに寝て両足をそろえたときに、左右の足の長さにズレが生じてきたります。これは決して短い方の足がすり減ったわけではなく、骨盤の歪みのひとつの症状として、そのように現れているに過ぎません。骨盤の歪みはそれだけに留まらずに、体はその歪みを修正しようとして、上半身等に歪みを生じさせることになります。ひとつの歪みが別の歪みを生むわけです。
またある筋肉が萎縮硬化すれば、これもその筋肉だけに留まらずに、他の筋肉へと伝播してゆきます。
このようにして歪みが広がりつつ次第に定着してゆきますが、このような筋骨格系の歪みは、血液・リンパ液・組織液の循環に影響を与えるのみならず、内臓や目・耳・鼻・脳の働きにも影響してきます。この歪みを放置しておきますと、その歪み方によって諸々の不定愁訴を生む原因となってきますし、何かあった時にはその人の一番弱い部分から病が発生することになります。
それでは寝たきりになれば、全身の筋肉が等しく廃用性萎縮を起こすのだから、体は歪まないかというとそうではありません。その関節を動かす筋群の中の一番強い筋肉に引っ張られるようにして、体は歪んでゆきます。
橋本先生は歪む宿命を持つと言われますが、まさにそのとおりで、歪みのない人はいません。皆さん歪みという弱点を抱えつつ、なんとかオオゴトにならずに済んでいると言っても良いのかもしれません。その一番の理由は、体にはそれほど充分に余裕を持った、安全率が設けてあるからではないでしょうか。
「からだの知恵」※(2)という本には、驚異的ともいえる巧妙な仕組みで、決して進化という一言で済ますことが出来ないほどに素晴らしい仕組みで、恒常性を保つためにいかに体が取り組んでくれているか、大変にわかりやすく書いてあります。
日頃はどなたもそのようなことを省みることはないわけですが、体が何かそのようなことに目を向けてほしいという呻き声を発したときには、謙虚にその声に耳を傾けるべきではないでしょうか。
「人類は1万年前に農耕を始めてから食料が貯蔵できるようになった。トルコの紀元前5.500年当時の遺跡から、小麦のそばにえんどう豆とひら豆が見つかっているが、人類が農耕によって生存しうるだけの蛋白質を摂取できるようになったのは、穀類と豆類を食べあわせる理想的な組み合わせを知ってからだと思われる。世界各地の食の体系は、穀類と豆類の食べ合わせを軸にして確立していったといえる。
1万年かかって築かれたこの食の体系が、このわずか100年にも満たない期間に、国境も民族もなく経済的に豊かになると、脂肪と砂糖と動物性蛋白の比率が高まり、澱粉と植物性蛋白の比率が下がるという同じパターンの食事に変わっていった。」※(3)
久保千春先生は
「食事と免疫は関係が深いです。国立がんセンターの『対がん予防十二ヶ条』では、8項目までが食事の問題です。私たちの研究でも食事の量や質が、免疫機能に及ぼす影響が大であることが確認されています。
SLE(自己免疫病のひとつ)のモデルとして使われるマウスを、通常の飼育条件で育てると、徐々にSLEが現れてきて平均10ヶ月で死にます。しかし食事の総カロリー量を、自由摂取で食べているマウスの60%の量に減らすだけで、病気の進展は抑制され、寿命も2倍に延長される。カロリー制限に加えて脂肪摂取量を制限すれば、3倍まで寿命が延長されます。
このようなことはその他の自己免疫病,癌、糖尿病、高血圧などの動物モデルでも認められています。
つまり遺伝的にこのような病気になる可能性を秘めていても、食事のコントロールで、ある程度発症を抑えられるわけです。病気が発症した後でも、初期であればカロリー制限で、病気の進行が抑えられることも確認されています。」※(4)
と述べておられます。
食養に関してはいろいろな考え方があると思いますが、経済的に豊かになった国で直面する大きな問題のひとつは、「飽食」ではないでしょうか。
人間の血糖値を上げるホルモンには、アドレナリン・グルカゴン・成長ホルモンがありますが、血糖値を下げるホルモンはインスリンしかありません。長い人類の歴史の中で、今のような飽食の時代は異常な時代であって、その殆どの期間では、わずか一種類のホルモンでも充分すぎるほどに、コントロール可能な食事内容だったということではないでしょうか。
橋本先生はリハビリについて次のように書いておられます。
「リハビリというと、脳卒中の後遺症で半身不随になった人々を連想する。訓練室へ行くと、そういう人々が顔を真っ赤にして、早く直りたいための努力を一生懸命にやっている。しかし他の慢性病の人々が、顔を真っ赤にして頑張るのに匹敵するような努力をしているのを見かけることはあまりない。
ところが広い意味でのリハビリには、脳卒中後遺症だけではなく、糖尿病・高血圧症・肝炎・気管支喘息などの慢性病は全て含まれるのである。」
心も疲労してくると萎縮硬化してきます。そうしますと心も柔軟性がなくなってきて、以前なら受け流せたものが、少しずつそうはいかなくなってきたりします。そのうちに視野狭窄になり、考えなくとも良いようなことを考え、悪い方へ悪い方へと自分を追い込んでいったりします。これは心が疲労してきますと、からだと同じように、ストレスに対する抵抗力も落ちてくるようになるからです。
その人の許容範囲を超えたストレスを受け続けますと、どのような人でも、同じような方向に傾いてゆくのではないでしょうか。
そして本当にひどくなってきますと,からだまでが大変に強く萎縮硬化してきます。よく「借金で首が回らない」という表現が使われますが、これは単なる比喩ではなく、実際に首が回らないぐらいに,頸・肩・背等がバンバンに張ってきたりします。そうなりますと、食欲不振・頭痛・メマイ・吐き気・不眠等に悩まされるようになり、諸々の内臓障害まで現れてきたりします。
このような心の病につきましては、まず第一に専門医のカウンセリング等の治療を受けることが大切なことです。人はからだが病むのと同様に、心を病むということも、特別に変わったことではないわけですから、それが当たり前のことです。唯その時にからだをほぐすように自分で努めていますと、しないでいるよりもカウンセリング等の効果は現れやすくなってきます。ほぐしていると薬の効きが良くなってくるのと同様です。
佐々木雄二先生は「自律訓練法の実際」※(5)という本の中で、次のように書いておられます。
「人のからだは、疲れると休むような生理的機制が働く。脳の覚醒水準が下がり、ついには自然に眠り込んでしまう。ところがストレスが蓄積されると、疲れていても脳の覚醒水準が維持されて、なかなか下がりにくくなってきます。
この覚醒状態を維持する要因の中で大きな役割を果たしているものに、筋肉の緊張という面があります。筋肉の緊張が高まれば、中脳の網様態の覚醒水準が増し、そのことが更に筋肉の緊張を高めるという悪循回路が成立してきます。」
自律訓練法で、腕や足の緊張をとることを導入部にして、最終的に脳(心)の緊張をほぐすことを目指そうとするのは、このような理由からです。直接脳(心)をほぐそうとするよりも、その方がずっとたどり着きやすく、また効果も得られやすいからだと思います。
このホームページを開きましたのは、パーキンソン病の患者さんに読んでもらいたいという気持ちだけではなく、その介護をされておられる家族の方も、かなり大変な立場に立たされることになるわけですから、自分にあった和解の方法を見つけられますようにという願いも込めて、書かせてもらっています。患者さんだけではなく、介護をされる方もいろいろな歪みを抱え込んでおられるはずですから。
変えようと思っても、変えることの出来ないどうしようもないことは、例え時間がかかろうとも受け入れざるを得ません。このようなことは、パーキンソン病のことだけではないように思われます。
※(1) 「誤れる現代医学」 橋本行生著 創元社刊
この本は題名を変えて、次の出版社から出ています。
「いっしょに治るいくつもの病気」 橋本行生著 農文協刊
※(2) 「からだの知恵」 W・B・キャノン著 講談社学術文庫刊
※(3) 「驚異の小宇宙 人体 消化吸収の妙」 日本放送協会出版刊
※(4) 「病は気から」 別冊宝島212 宝島社刊
※(5) 「自律訓練法の実際」 佐々木雄二著 創元社刊