2002年11月24日
北海道社会保険病院歯科口腔外科存続を願う患者の会
ご署名くださった皆様へ
署名運動の結果報告
初冬の候、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
先日は当会の署名運動にご協力いただきまして、誠にありがとうございました。約2ヶ月という短い運動期間でしたが、3,024名もの方々が、医療の切捨てを憂いてご署名をお寄せくださり、10月31日付でその原本と歯科口腔外科廃止の撤回をお願いする書面とともに北海道社会保険病院に提出いたしました。
その後、病院経営陣から直接会って回答をしたいということで、11月8日に患者の会代表3名が病院へ伺い、病院長、事務長と次長と約50分間の会見を行いました。遅くなりましたが、本日はそこで得られました回答についてご報告したいと思います。
まず、結論から申し上げますと、簡単に言えば「政治が悪いから廃止もしょうがないことであり、決定事項だからもう覆しようがない」ということでした。今年度2月には既に決定されていたことで、所轄官庁を含む関係機関に廃止の連絡済であり、撤回できないというのです。北海道社会保険病院注1が歯科口腔外科注2を廃止するのは自分達の意志ではなく今の医療行政が財政的圧力をかけるからであり、その政治の流れに自分達だけでは立ち向かうことはできないので、病院としての生き残りのために採算性のよくない部門は随時廃止・統合していく、ということでした。
署名提出の際提出した書面には、患者からの質問として3つの大きな問題提起をしました。それらの質問は、9月下旬に歯口科受付前に貼り出された病院からの廃止通知に廃止理由として挙げられていた事項注3に対するものですが、それらの質問・回答ともに以下に述べます。
質問1:廃止理由の「周辺での歯科医院の充実」について
@ 一次医療機関数が増加すればますます二次医療機関が必要とされるのに、なぜ廃止なのか。
A 貴院歯口科は、開業歯科医院とは性質を異にする口腔外科であるのに、なぜ開業歯科と同一視するのか。
これに関しては、@Aともに、「社保としては、歯科口腔外科が二次医療機関だとは認識していない」という回答でした。医科は確かに救急部を持つ二次医療機関だけれども、歯科は「歯科の二次医療」という看板を出していなかったから、二次医療ではない、というのです。歯口科は患者の4割が他医療機関からの紹介ですが、「紹介率30%以上は二次医療機関」という定義は医科のためのものであり、歯科にはあてはまらないそうで、歯科が二次医療機関になるかどうかは所轄官庁への届出の有無で決まるのだそうです。社保としては、そのような届出をしていなかったから、社保の歯口科は二次医療機関ではない、ということでした。
また、今年度9月より改正された法律によると、歯科の二次医療機関とうたうためには歯科医師3人以上で24時間体制の救急を行わねばならず、社保としてはそのような人的・設備的投資を行う余裕はないので歯科の二次医療を行うことはできない、ということでした。
何より、「歯科はあくまでも結核病棟の付随施設であり、結核病棟の閉鎖を決定した現在ではもうその存在意義はない」、ということでした注4。
質問2:廃止理由の「経営上の問題」について
B 歯口科が出している赤字とは、病院全体の赤字のどれぐらいの割合を占めているのか。
C 歯口科を廃止した場合、どの程度の経営状態好転が見込まれるのか
Bに関しては、病院運営だけで年間10億の赤字が出て、現在は負債を含め30億の赤字を抱えているとのことでした。歯口科だけについては、年間5千万弱の収入で1千万弱の赤字を出しているそうです。(単純計算すると、全体の年間赤字の1%を歯口科が出していることになります。ちなみに社保の診療科は全部で16科、それに検査部3部と結核病棟があります。注5) 年間1億の赤字を出している結核病棟はあと1年半で閉鎖だそうです。
Cに関しては、歯口科が出している赤字分、つまり年間1千万弱の赤字がなくなるということで、今後の赤字縮小のためには他の科でも採算が合わなければ閉鎖・廃止していくとのことでした。
さらに、廃止の大きな理由として、歯科医師の給与も医科医師の給与も全国社会保険連合会注6の規定により同額であるのに、歯科医師は当直も休日出勤もなく不公平である、ということを挙げていました注7。
質問3:廃止理由の「病院のあり方」について
D 歯口科はまさに貴院に於ける標語理念及び行動理念を実践してきたと思われるが、これらの理念とは別の「病院のあり方」が存在しているのか。その「病院の在り方」とはどのようなものなのか。
病院内のあちこちに貼ってある「標語理念」と「行動理念」注8、あくまで職員が作った自分達のための理念であり病院の理念ではないそうです。社保の理念は、全国の社会保険病院を統合している全社連の運営基準注9と同じであるとのことです。
また、現在の医療行政の下では理念だけではやっていけず、歯口科廃止の理由である「病院のあり方」とは「パートを含めた約450名の雇用者の生活を守り、病院の存続を図る」ということだそうです。
以上、会見に於ける回答をかいつまんで報告いたしました。詳細はネット上にウェブ・ページ http://www.geocities.co.jp/Beautycare-Venus/7724/を開設いたしましたので、そちらをご覧いただけばすべての情報が開示注10されています。
最後に、実際に会見に出席したものとしての感想を手短に述べさせていただきます。全体として感じられたのは、患者側と病院経営側の大きなギャップです。我々が「医療の質」や「医療の在り方」という点でお話をしているのに対し、病院のお話は「経営・採算」という点ばかりに集中していました。「国からの援助がない以上、会社と同じである」という点を強調されていましたが、もしほんとうに民間の会社と同じならば、経営するだけで年間10億の赤字を出してしまったら普通は経営陣の総入れ替えが要求されるところでしょう。また、「一診療科の問題ではなく、病院の生き残りをかけた問題である」ということも力説なさっていましたが、会社であるならば今やあたりまえとなった、経営ストラテジー注11を決めるに当たってのマーケティンングリサーチ注12や競争相手との差別化ポリシーなどもなく、現場にふれたことのない経営陣が机上の数字を見てとりあえず「儲けが薄いから切る」という経営戦略をとっているような印象を受けました。「政治が悪いからしょうがない」、「もう決めたことだから覆せない」という廃止理由も、責任の所在を明らかにしない官僚主義をそのまま引きずっているように思えました。患者という一般人の立場から見ると、長い説明があったにもかかわらず結局は歯口科を切る意義はよくわからなかった、というのが正直なところです。別行動していた開業歯科の「有志の会」が集めた2千を越える署名と患者の会よりの署名3千余と合わせ5千人以上の市民が歯口科を残してほしいと訴えたのですが、その声も病院には取るに足らないささやきにすらならなかったようです。民間の会社であれば、5千人以上の顧客及び潜在顧客からの要望を簡単に一蹴するということはまずないでしょう。
患者はきれいな建物だからその病院を選んでいるわけではありません。そこの医療スタッフと彼らがしてくれる医療行為の質によって選びます。二次医療としてではなくても歯口科を残せば、大きな「患者サービス」として他の医療機関と差別化がひとつできたでしょうし、まだまだ日本では遅れている医科歯科を統合したチーム医療も可能だったはずで、これを年間1千万の節約と交換してしまったことは誠に遺憾です。何より、歯口科が毎日どんなことを実際に患者にしてくれているのかということを見ようともしない人たちがその存続を決定した、というのが残念です。もし彼らも顎関節症のあの苦しみやインプラント失敗後のあの苦痛に日々悩まされれば、きっとあの歯口科の価値がわかったであろうに、と悔やまれます。
歯口科存続は却下されましたが、署名運動にご協力いただきました皆様には重ねて御礼申し上げます。患者の会の活動はこれで一応終止符を打ちます。しかし、今後も経営不振を理由とした「必要な医療の切捨て」は各方面で次々起こってくることでしょう。そのようなご経験をなさった際は、是非とも当会ホームページに書き込んで多くの方々と経験を分かち合ってください。そして、もしこれらのことがほんとうに政治だけの責任なのか、そして「政治が悪い」のが原因なのであれば、市民レベルでそれをどう変えていけるのか、少しでも住みやすい社会にするのにはどうすればよいか、など考えてゆければ、と切に願っています。
合掌
注3 「社会保険病院のあり方、経営問題、周辺の歯科診療所との関り」の3点。
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注4 歯口科は独立した診療科として病院の案内にも載っており、けして結核病棟内に設置されていたわけではなく、一般外来棟の耳鼻科と小児科の間で一般の患者さんに対する診療を行っていました。
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注5 単純計算では、10億を「16科3部プラス結核病棟」の20部門で割ると、1部門につき平均年間5千万の赤字を出しているという数字が出てきます。それに対する「年間1千万の赤字」が廃止に値するほど多いというための根拠は提示されていません。
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注6 略称「全社連」。国が健康保険制度または厚生年金制度の普及発達のために設置した施設を委託されて経営している。それらの「国有民営」の施設が全国に53軒ある社会保険病院と4軒ある社会保険診療所。政府により見直しと統廃合が提案されている。
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注7 医科の医師は、昼間は外来診療や手術などをこなし、夜は救急部での当直を最低でも週3回はしているのに、歯科医師は同じ給料であるにもかかわらず月〜金の外来のみしかしていない、とのこと。しかし、医科には医師が多人数いるのに対して歯科医師は1名しかいないのだ。現実問題として、ひとりで毎日の当直をすることは無理であろう。しかも、歯科医師の救急医療行為は法律で禁止されていることを忘れてはいけない。現存の社保救急部で当直しようとしても、医科の医師のような治療はゆるされていないからできないのである。それでも社保が歯科医師に救急での当直を求めるのならば、市立病院と同じ問題となるであろう。また、入院患者数が少ないのも当直の必要がない理由のひとつであるが、多人数で診療を行っている科と比べると診療できる患者の絶対数が違うのだから、もしもスタッフを増やし診療患者の絶対数を上げれば入院患者数も必然的に増え、当直の必要性が出るのは自明の理である。実際、入院患者がいる時には、担当歯科医師は休日出勤・時間外勤務してきている。さらに、別の見方をすると、歯科は社保によると「二次医療ではない」のだから、それを「救急にも出ない、当直もしない」と非難するのはおかしい。却って、「結核病棟の付随施設」という低い位置に置かれながらも、大学病院からさえ回されてくるような難治患者を救ってきた現歯口科スタッフの技術・診断力・医療にかける熱意こそ、今の医療が失ってしまったものであり、患者が求め応援するものだと信じてやまない。
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注8 標語理念:「笑顔で支えるさわやか医療」。行動理念:「私たちは、職員みんなの知恵と行動力で、高度な医療技術の習得に努め、安心感のある心やさしい医療を提供します。」
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注9 「1.社会保険診療を模範的に実施し、疾病の予防に努め、健康の保持増進のため適切な指導を行うほか、公衆衛生思想の普及発展に寄与すること。2.社会保険診療に関する諸般の調査研究を行い社会保険の運営に寄与すること。」
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注10 当会立ち上げまでの流れ、署名運動の概要と結果報告の詳細のほか、会談のスクリプト、患者に向けた廃止通告、病院からの回答書など、すべての情報をオリジナル原稿のまま見ることができます。
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注11 結核病棟を廃止することで慢性期病院からもっと採算のいい急性期病院へと変えていく、ということが基本ストラテジーだそうです。
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