それはいつもの朝のこと。
目が覚めると、目の前にある水色の引き出しに、黒いシミがついていることに気が付いた。
「何だろう?」と、思って寝ぼけまなこでしばらくの間ボーっとながめていると、
そのシミは波打つようにウニャウニャと動いていることに気が付いた。
小さくなったり大きくなったり、形を変えながら、その黒いシミは少しずつ広がっていった。
さすがにおかしいと思った私は、布団から起き上がり、近づいて見てみることにした。
すると、驚いたことに、それは無数の大きな黒いアリだったのだ。
丸々と太って黒光りしたそのアリ達は、引き出しのすきまから湧き出るように現れて、
徐々に数を増やしていった。
「引き出しからアリが湧き出てくるなんて、普通ありえない!」と、思ったので、
目の錯覚だと考えて、何度もまばたきをして、目をこすってからもう一度見てみた。
でも、どこからどう見ても、どう考えてもやはりアリの大群はそこにいるのだ。
そうしているうちに、アリはどんどん数を増やしていった。
「今見ている光景は現実なんだ…。」と、思ったとたん、急に恐怖と気持ち悪さで全身に鳥肌が立った。
「とにかく何とかしなくては…!」と、思った私は、勇気を出して掃除機で吸い取ることを決意した。
あわてて一階に下りて、母に「部屋の引き出しにアリがいっぱいいるよ!だから掃除機で吸い取る!」と、
いうと、母は、不思議そうな顔つきで、ただ私を見つめていた。
私は、掃除機片手に急いで部屋に戻った。
でも、アリなんてどこにもいない。
恐る恐る引出しを開けてみても、1匹も見当たらない。
納得がいかない私は押入れやタンス、じゅうたんの下など、部屋中探しまわった。
それでもいない。
アリの大群は一瞬にして、あとかたもなく消えてしまったのだ。
部屋にはいつものように、穏やかな時間がゆっくりと流れていたのだった。
「あれは一体何だったのだろう…。」と、途方にくれた時、初めてそれが幻覚だった
ということに気が付いたのだった。
後から人に聞いて知ったのですが、幻覚は分裂病の始まりなんだそうです。
今思えば、私は「かなりやばいところまでいっていたんだなぁ…。」と、
思い出しただけで、身の毛もよだつおもいです。
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