ロータリークラブ卓話
平成9年6月11日(水)

6月4日ムシ歯予防デーにちなんで幹事さんから卓話を依頼されました。
来年度はプログラム委員長を仰せつかっていますので、少しクラブに貢献できればと思い
卓話を引き受けました。

日頃の診療から、最近の患者さんの口の中は、以前とはだいぶ違い
プラークコントロールに対する認識も高くなり、それに伴いムシ歯も減少してきました。
しかし、心配な事もあります。子供たちの口の中の様子が変わってきた事です。
一つは、子供の歯の硬さが柔らかくなった事です。
石灰化が弱ければ当然ムシ歯になり易く、ムシ歯の進行が早いという事です。
二つ目は、歯並びが悪くムシ歯や、歯周病になりやすくなっている事です。
これらは、人類の進化に伴ったものなのでしょうが、
現代人の食生活の変化に大きな原因があります。
えらのはった四角い顔が少なくなり、いわゆる醤油顔が多くなりました。
かっこはよくなりましたが、本来の噛むという機能は失われつつあるように思われます。

このような状況にあわせて歯科医療も進歩していますが、世界に目をむけてみると、
歯科界で一番進んでいるのは、アメリカ西海岸の歯科医療だと言われています。
私は5〜6年前、どうしてもこの世界で一番進んだ歯科医療を見たくて、
3年にわたってサンフランシスコの近郊のベルモントという町の、
歯科医師のオフィスを見学にいきました。ベルモントという町は少し郊外にある住宅地です。
勉強に行くならアメリカの大学にいけばよいのですが、それでは専門の事は分かりますが、
一般の開業医の事は分かりません。そこで、我々と同じ開業医はどのような技術で、
何を考え、何に問題意識をもっているのかがわかりません。それが知りたくて行きました。
また、それらの事を知ることにより、先を読んだ治療体制を作る事ができます。
そして、アメリカの歯科医療を見て感じた事は、日本は歯科治療のレベルでは、
けして引けをとっていません。
むしろ器用な東洋人のほうが細かい治療にむいているのではないかと思い、
自信が湧いてきました。
そして、一年目に見たのは、コンピューターによる保険診療システムでした。
この分野はアメリカは非常にすすんでいます。また大変合理的です。
日本の保険制度に比べて比較にならないほど簡素化されています。
さらにコンピューターをフルに使って患者さんのデーターの保存や
リコールにと多方面の利用をしていました。
現在日本では、このようなコンピューターが導入されているのは全国平均で約46%の歯科医院です。
アメリカのようにコンピューターを活用している歯科医院数はまだまだ少ないと思います。
二年目に感心をひいたのは、エイズに代表される感染症に対する予防です。
これは比較的早く日本でも話題になり予防法が確立したように思います。
三年目に見たのは、歯槽膿漏の新しい治療法です。
従来、日本の歯科医療では抗生物質を全身投与のみでした。
しかし、アメリカでは抗生物質を局所的に投与していました。
日本では3〜4年後に形をかえて抗生物質を局所的が普及しました。
このように、アメリカの合理性やシステムなど見習うところが数多く、
考え方、発想にはいいものがたくさんあり、とても勉強になりました。
それ以来、アメリカの情報は必ず目をとうすようにしています。

そして、現在、日本の歯科界では高度先進医療が話題になっています。
一つは、インプラント治療です。
これは、歯が抜けた後に、チタンという金属を埋め込み、歯と同じ機能をさせる治療です。
この治療の歴史は20年以上前から行なわれていますが、初期のものと現在のものは、
その成功率が格段にちがってきています。
そして、その治療法も確立され、症例さえ選べば96%以上の成功率です。
もう一つは、ゴアテクスという膜です。(GTR:Guided Tissue Regeneration)
これは、歯周病などで失われた歯肉を再生させていく治療です。
いずれも、からだに馴染む素材が開発されたり、加工できる技術がこのような治療を可能にしました。
しかし、このような治療はまだ一般的ではありません。
また、その設備、技術等全ての歯科医院でできるというわけにはいきません。
さらにまた、最近研究されているのは、レーザー光線で歯を削っていく装置、技術です。
しかしまだ、一般臨床には応用されていません。
歯科医療は、近年このように、専門的になってきています。
これからの治療は、一般治療医と専門医が協力して、
一人の患者さんの治療にあたることだと思っています。
例えば、口腔外科、歯列矯正、小児歯科のように専門の歯科医師と、
一般治療医が協力して治療にあたるように、
しだいに移行していっているのではないかと思います。
このように、あたかもオーケストラのように、一般治療医が中心になり一人の患者さんを治療していくわけです。

さて、歯科領域の2大疾患といわれているものは、ムシ歯、歯周病です。
これらにより、大切な歯が、機能ができなくなってしまうわけです。
そして、さらに歯並び(歯列不正)が悪いと、歯が重なりあった部分に、
歯ブラシがとどきにくく、これらを引き起こす可能性の高いわけです。
また、ここ数年、顎関節症というアゴの病気が注目されています。
顎関節症というのは、口を開ける時にアゴが痛かったり、音がしたり、
時には口が開かなくなってしまうアゴ関節の病気です。
実際この病気は先進国を中心に若い女性に急増しています。

ムシ歯については、近年減少傾向にあります。がしかし、なくなることは難しいです。
それは、原因菌が常在細菌であるからです。しかし、もっと減らす事は可能です。
それは、皆さんが確実なプラークコントロールをして頂く事、そして、フッ素による予防が普及することなどです。

歯を失うもう一つの大きな原因の歯周病は、依然として減りません。しかも低年齢化してきています。
歯周病というとなじみのない言葉ですが歯槽膿漏なら知っていると思います。
歯周病は、歯と歯肉の境界部分から始まります。歯と歯肉の間には歯肉溝という溝があります。
深さは正常な人で2mm以下といわれています。
この溝がほとんどの場合、歯周病の引き金にあるわけです。
この歯肉溝のすぐ上歯の表面に食べかすが付き、それを栄養として、細菌が繁殖し、
歯垢(プラーク)を作ります。プラーク内の細菌は毒素を出し歯肉に炎症を起こします。
これを歯肉炎といいます。しかし、炎症は急に起こることなく、慢性的に持続していきます。
そして、この歯垢が取りきれないと、それがやがて石灰化し歯石となり、腫れたり、骨を溶かしたりします。
歯肉溝も深くなり歯周ポケットを作ります。
そして、腫れたり、骨を溶かして、歯がグラグラして、最後には抜けてしまいます。
これが歯周病(歯槽膿漏)です。
口の中の全てのポケットが7mmだとすると、名刺の大きさの細菌の塊があるといわれています。
歯肉炎では炎症が歯肉に限られて、まだ骨は破壊されていません。
歯と歯の間の歯肉や歯の周りの歯肉が赤くなったり、腫れたりします。
赤くなった歯肉を指で押したり、歯ブラシが触れたりすると出血します。
この頃に、適切な処置や、正確なブラッシングをすれば、ひどくならずにすみます。

"歯が命"なのはなにも芸能人だけではありません。
「歯が悪くなったら、治療すればよいのだ」と思わないで下さい。自分の歯に勝ものはありません。
手入れさえしっかりすれば一生もつようにできています。

年とっても自分の歯でおいしく物を食べたいものですネ。
私たち「生き物」は生涯、食事を取らなければなりません。だからおいしく、楽しく食べる事が健康にも、
精神的な安定にもつながるのです。勿論しっかり噛めなければ、内臓に負担がかかったり、
からだが具合が悪くなってしまうという事は皆さんも知っているとおりです。
子供の場合知能の発育にも大きく係わっていると言われています。
さらに、ボケ防止に役立つと言われています。つまり「噛むことは生命力を養うこと」でもあります。

今まで歯の大切さ、歯周病についてお話をしてきましたが。ここで8020運動についてお話したいと思います。
日本人の平均寿命は80歳をこえました。今や世界一の長寿国になりました。
日本歯科医師会と厚生省では、これからの長寿社会に向けて、"80歳で自分の歯20本を残そう"
ということを目標にした8020運動をしています。
大人の歯が28本にあるのですが、これに対して、現在80歳以上の人たちの歯の数は平均5本弱です。
20本以上の歯を持つ人の割合は、わずかに8%です。
これでは、いくら長生きしても、快適な食生活は送れません。
自分の歯だけで"噛んで食事をする"には、自分の歯20本が最小限必要なのです。
このように、医療が発達し、平均寿命が飛躍的にのびたにもかかわらず、
歯の寿命だけが、なぜ伸び悩んでいるのでしょうか。歯の医療が遅れているわけではないのです。
むしろ、健康における歯科医療の割合は大きく増えているわけです。
では、なぜでしょうか。理由は単純です。
体の病気やケガならば、人間の体はばい菌を撃退する「免疫力」や
自然に治る力「自然治癒力」が病気を直すように働きます。薬もそれをたすけることができます。
ところが、歯には免疫力や自然に治す力もありません。ムシ歯が自然に治ることはないのです。
薬でもとに戻すこともできないのです。一度抜いてしまった歯は、もう生え変わることはないのです。
したがって、日頃より歯を大切に磨かなければなりません。

トップページへ
次のページへ