鍼灸治療には,実にさまざまな流派や術式があります。そして今日まで統一的な治療理論を出していないということや,それぞれの理論や流派で十分治療ができてしまうということで(もちろんその使う理論に精通した鍼灸師でないとダメなのですが),統一見解がなかなか出せないという事情(東洋医学と西洋医学だけを例にとっても融合させる理論を創るのはもう少し先のようです)により,何が正しいのか?という疑問が常に患者さんにはあるようです。私自身もこのような質問をよくうけます。これには,あの鍼師の先生がいうことと,また別の先生が言うことでは全く違うことを言うのでよくわからないということのようです。そしてこれらの状況が,鍼灸治療が一般の人にわかりずらく疑問視される大きな原因の一つなのではないかと感じています。そして私の日頃の説明下手の反省の意を込めて書いてみようと思います。
今回は最も大きな分類として東洋医学的な鍼灸治療と西洋医学的な鍼灸治療というように簡単に分けてそれぞれの治療理論の特徴を簡単にまとめてみました。これにより,あの先生は東洋医学の理論で治療するのだなとか,また西洋医学の説明が多いからきっとその方面の治療をするのだろうとかとわかっていただければ少しは鍼灸の治療がわかりやすくなっていただけるかもしれません。
鍼灸の治療方式には大きく分けて二つあり,東洋医学的な治療理論にそって治療を行うやり方と,西洋医学的な理論にのっとって行う治療とに分けられます。
どう違うのか大雑把に言うと,西洋医学的な治療は現代医学の解剖学・生理学・病理学をもとにして,医師が行う診察方法と同じ診察方法で患者さんを診察し(鍼灸師は法律でレントゲンや様々な理化学的検査などは行なえませんのでその他のできる範囲の診断方法,主に全身所見で診断します),その診断結果から西洋医学的な治療理論で治療します。
以上のように大きくわけると鍼灸治療には,これら二つの治療理論があるのですが。これらはなかなかわかりずらいと思いますので具体的に言いますと,例えば胃潰瘍になったとします。お医者さんでは胃潰瘍という病名です。検査法法も血液検査から始まり確定診断は内視鏡検査で決まります。そして外科手術で胃を摘出したり,薬物療法として胃酸過多で胃が荒れているときは胃酸をおさえる薬などで治療するという方法をとります。精神的ストレスによるものなら精神安定薬なども投与することもあるでしょう。このようにお医者さんでの治療理論には,先程いったように西洋医学の解剖,生理,薬理,外科,内科学などを根幹としています。
これと同じように西洋医学の鍼灸だとどうなるのか?まず胃を支配している神経と同じ神経が支配する皮膚や筋肉に鍼を刺してゆくという治療になります。
例えば西洋医学の解剖学と生理学で人体を診て,胃に入る神経は脊髄から出る神経のうち胸の下の方からでてくる神経によって支配されていることがわかります。そして胃に行く神経が出てくる付近の背中を押すとその部分に他の部分よりも強い痛みが感じられたり,またその同じ神経で支配されているお腹の神経支配領域(皮膚や筋肉)に痛みが出るなどというからだの変化があらわれます(西洋医学で関連痛という)。そしてその変化のあらわれた部分に俗に言うコリが生じます(鍼灸やマッサージでは硬結と呼ばれる)。その部分に鍼を刺すという簡単にいってしまえばそのような治療法です。しかしこれにはお医者さんと同じ解剖学や生理学をはじめとした西洋医学の理論と知識が詰まっています。この鍼刺激により筋肉の緊張がとれて身体はリラックス(筋肉が弛緩)し,またそれと同時にその鍼の刺激が同じ神経が支配する胃に対して自律神経を通じることによって作用を及ぼす(生理学ではこの原理を体性-内臓反射といいます)という治療法なのです。この治療理論は,解剖学・神経生理学など西洋医学に則した理論による治療となります。図参考
次に東洋医学の鍼灸だと四診という診察方法を中心として診察してゆきます。まず目で見る診察を望診といい,舌ベロの状態や全身の皮膚の状態(血色・カサツキ・シミ・うぶ毛の発毛状態など)でからだ全体と病気の部位を目で見て推察してゆく診断法があり,そして患者さんの声や体臭などから病態を探る(聞診)ということで身体の状態を診て。さらに問診はそのまま西洋医学と同じようなものであるが患者さんに聴いてゆく内容が東洋医学の理論に沿ってのことなので,その問診の中身や要点は西洋医学と少し異なる聞き方になるのですがさまざまなからだ全体の調子を問診で聞いてゆきます。最後に切診とは西洋医学でいう触診にあたり,経絡の流れにそって手で触れながら気の流れやツボの状態をみたりお腹を触りながら状態を診て,脈を診るということをざっとしてゆきます。この脈診や腹診は特に東洋医学の理論に沿った独自の見方になります。そしてその情報を総合的に判断し胃潰瘍という病名とは違った病証(証)というもので病気をみるという診断法方なのです(体質や病気の時期などさまざまなものを含めた大きな概念によるものである)。
そして,その証により治療をしていくのですが,先ほどの胃潰瘍を例にとりますと,胃の病証一つとってみてもいく通りもの病証があり,また西洋医学的には全く異なる病気でも人体をきわめてシンプルにみる(統一体とみなす)東洋医学では,病いや体の状態を西洋医学ほど細分化してみないため,異なる病気でも全く同じ治療を用いることはよくあることになります。このように東洋医学的治療では,胃に対する治療だけにとどまるのではなく全身を統一体とみなした治療になるのです。だから胃とは神経的には直接つながっていない場所にあるんだけれども,経絡という気の流れで繋がった遠く離れた場所にあるツボも使うということになります。
ざっとではありますが,このように診断方法をみても西洋医学と東洋医学で同じような事をするのですが,同じ鍼灸師が診察し診断決定する病気と病態は,その使用する鍼灸師が使う理論によりまったく異なる見方になることもあるんだということが少しはわかっていただけましたでしょうか?
そして実際の臨床での診断や治療現場においては,ある一つの治療理論を専門とし診断・治療する鍼灸師もいるし,病気によっては東洋医学と西洋医学の複数を組み合わせて使うこともあるし,さらに東洋医学の中にもさまざまな流派による独自な見方があり,それらを併用することも,また一つで行う治療もあるということになっているのです。(細かいこととなると鍼灸治療には多くの術式や流派があるので,とてもここでは書ききれないので省略させていただきます。また別の機会に詳しく書いくことで補足していこうと思います。なぜこうなったかは,病気を治療するということはとても難しいことなので試行錯誤のうちに,これだけたくさんのアプローチの仕方が出てきてしまったということではないか?そして何よりも苦しんでいる患者さんの病気を楽にさせてあげるためには理論より実践による結果を求めつづけ,さまざまな取り組みをしてきたという,多くの治療師の今日までの格闘の歴史によるものではないかと思います)
以上は,なぜ鍼灸治療はわかりずらいのか?ということを考えてみたときに私が始めに感じたことです。鍼灸がわかりずらく,また理解されずらい大きな理由の根本はここらへんにもあると思うので入り口として書いてみたものです。
最後に私自信の文章がわかりずらく大変申し訳ないですが,補足としていろいろな角度やテーマで捉え直すことで少しでもカバーしていけたらと思っております。 また一般の方,専門家を問わずさまざな意見や感想を聞かせていただければ幸いです。