原文参照 : Brain's defences breached (BBC)
脳は、物質交換をするための孔がみられず相互に密接に結合した膜で血管と区切られており、血液中を循環してくる異質物から守られています。この構造が血液脳関門と呼ばれるものです。限られた物質のみが細胞受容体の働きによって通過することができますが、逆にいえば、直接脳に注射でもしない限り、治療用の遺伝子や薬剤を脳に送り込むことは事実上不可能、ということです。
今回、ロスアンジェルス・カリフォルニア大学で、リポソームと呼ばれる脂質性球体状態構造物で遺伝子をカプセル化し血液脳関門を通過させる技術が開発されました。リポソームは、免疫システムが作り出す抗体と同様の物質を含むポリマーで覆われており、この抗体様物質の存在が細胞受容体を欺き、治療用遺伝子などを脳内へ効率的に運び込むことができます。
現在までのところラットやアカゲザルにおいて効果が確認されており、他の霊長目の動物やヒトにも同様の原理が応用できるようです。研究室内における試験では、パーキンソン病のラットに、脳の正常作用に必要な伝達物質を合成する酵素の生産を促進する遺伝子を含むリポソームを注射し、著しい病状の好転を観察しています。また、マウスを用いた別の試験では、このリポソーム利用技術で脳腫瘍の増殖を抑えることができることも判明しました。
また、リポソームにおける有害な副作用は観察されておらず、この技術によりパーキンソン病の治療が行えることはかなり確実になっています。もちろん、これらのリポソームは脳以外の器官にも遺伝子を運搬してしまいますが、研究者側で遺伝子を活性化するか否かをコントロール可能なため、病巣部分でのみ作動させることができます。
ただし研究チームでは、この技術を臨床に応用するためには更なる研究が必要で解決すべき問題も存在している、と話しています。イギリス・パーキンソン病協会では、脳の変性部に遺伝子を送り込む方法を提示した点に関しては大きな前進だが、より大規模な臨床試験の結果が公表されるまでは、遺伝子治療がパーキンソン病の進行を食い止めるのに有効かどうかに関して慎重にならざる負えない、とコメントしています。