乳癌治療における放射線療法の役割
1、浸潤癌の補助照射 非浸潤癌で温存手術がおこなわれた場合、照射を加えることで、乳房内再発が約半分になることが2つの臨床試験(NSABPB-17、EORTC-10853)で証明されている。そのため、原則として術後照射が薦められているが、径2-3cm以下の小病変で、1cm以上の余裕(margin)をもって切除されている場合には、照射の省略を考慮することも可能と考えられている。全例に照射が必要かどうかは議論の多い所であり、今後のデータの集積が期待される。
2、浸潤癌の温存手術後の補助照射 乳房温存療法においては、補助照射が必須とされている。乳房照射により乳房内再発が約5分の1となる。高齢者の小腫瘤においては、タモキシフェン投与で照射の代用とする試みが実験的におこなわれている。手術後に、照射と抗癌剤治療のどちらを先におこなうかについても議論がある。副作用が増えるため、同時に施行することは少ない。照射を先行した場合、局所再発は少なくなるが、抗癌剤を先行した場合より遠隔再発が増加するというデータもあり、米国では、局所再発のリスクが高くない場合には抗癌剤を先行する傾向にある。抗癌剤治療による照射の開始の遅れが5−6カ月以内であれば、問題ないと考えられている。
3、乳房切除後の補助照射 乳房切除後に胸壁や領域リンパ節に照射をおこなうことで、局所再発が約3分の1となる。生存率は変わらないとされていたが、最近の報告では、補助照射によって、生存率も向上することが明らかとなってきた。心臓血管への副作用があり、特に左側照射後に心臓死が増加する傾向が指摘されているが、過去の古い照射法が原因と考えられている。径5cm以上の場合や腋窩リンパ節転移が4個以上あった場合には、乳房切除後に照射をおこなうのが標準とされる。照射野は胸壁が主であり、領域リンパ節、特に内胸リンパ節照射の必要性については盛んに議論がある。現在内胸照射の意義を試す臨床試験がおこなわれている。
4、照射の方法 温存療法では乳房全体に1日1.8-2.0グレイづつ、計45-50グレイの照射が標準である。切除部傍に16-20グレイの電子線を部分的に追加照射(ブースト照射)することもおこなわれる。ブースト照射の必要性についての結論はまだついていない。腋窩非郭清時や郭清不充分時には、腋窩にも照射する。腋窩郭清後の腋窩照射は、上肢浮腫が増加するためおこなわれない。腋窩リンパ節転移が多い場合〔通常4個以上〕鎖骨上リンパ節領域にも照射することが多い。前述のように内胸リンパ節領域照射の必要性については非常に議論があるが、リンパ節転移が多い場合には、内胸照射もおこなわれることが多い。
5、放射線照射の合併症 照射中の早期合併症として、倦怠感、乳房皮膚の熱感発赤、肥厚、浮腫などがあるが軽度のことが多い。手術の程度にもよるが、上肢の浮腫も照射により増加する。晩期におこる合併症として、腋窩、鎖骨上リンパ節領域を照射した場合、腕神経叢障害により上肢のしびれ、軽い麻痺が約1%におこることがある。通常は軽度で回復することが多い。平均12カ月後、約2%で肋骨骨折がおこる。約2%で、照射性肺炎が2−6カ月後におこり、乾性咳、微熱をきたすことがある。一過性で自然回復することが多い。約10年経過後から、照射誘発性の血管肉腫が発生することがある。発生は幸い稀である。前述の如く、晩年〔10年以上経過後〕に心臓血管障害が増加することが統計上判明している。このため一時、放射線療法の有用性が疑問視された時期もあった。乳癌死を減少させることができても、心臓死が増加するため、さしひきのメリットが無いとされたからだ。しかし最新の統計(Lancet 2000:1757-70;355)によると、老人やごく早期の症例以外では、照射による利益の方が大きいと判明している。