(CMF療法)について
乳がん手術後の補助化学療法としてCMF療法はAC療法とならんで現在国際的にもっとも標準的な方法です。
方法は1回40分程度の点滴を4週間につき2回を1サイクルとして6サイクル行います。つまり約6ヶ月間に12回点滴を行います.
(3種類の薬剤を点滴します)
C;Cyclophosphamide 600mg/m2
(シクロフォスファミド)
M;Methotrexate 40mg/m2
(メトトレキセート)
F;5-FU 600mg/m2
薬剤開発の歴史
CMF療法は1960年代、イタリア(ミラノ国立腫瘍研究所)で研究され、1976年その有効性が科学的に立証された方法です(N.Engl.J.Med 1976).
また1998年には全世界の臨床試験の総合分析(メタアナリシス)により、ある条件の患者さん(例えば50才以下,リンパ節転移陽性など)の全身再発率と死亡率を25-30%低下させることが証明されました(Lancet 1998)
現在乳癌の抗がん剤治療のもっとも標準的な方法としてAC療法とならび推奨されています(1998年国際コンセンサス会議).
なおシクロフォスファミドは経口で用いる方がより標準的ですが,ミラノグル−プは点滴タイプを新しい標準的CMFとしており,我々も現在点滴タイプを用いています.
【CMF療法の回数の問題】
1サイクル VS 無治療 ; 1サイクルの方がやや成績が良い
6サイクル VS 1サイクル ;6サイクルの方が圧倒的に成績が良い
(ルードビッヒ研究グループ)
6サイクル VS 3サイクル 6サイクルの方がやや成績が良い(1996年国際研究グループ、無再発生存率で 58% VS 53%)
6サイクル VS 12サイクル 生存率は同じ(ミラノ国立腫瘍研究所)
このため6サイクルが標準治療となっています。
【CMF療法の副作用】
吐き気、食欲低下が点滴後2-3日起きることがあります。(かなりは吐き気対策で予防可能です)脱毛により髪の毛が約20%程度減りますが、最終的にかつらが必要になることは普通ありません。またあとで必ず元通りになります。
具体的日程
例えば7月10日から始める場合は以下のような12回の通院が必要です。
外来にて点滴(約40-60分)を行います。
第1サイクル 7月10日、 7月17日
第2サイクル 8月7日、 8月14日
第3サイクル 9月4日、 9月11日
第4サイクル 10月2日、 10月9日
第5サイクル 10月30日、 11月6日
第6サイクル 11月27日、 12月4日
抗がん剤治療の理論的背景
術後補助化学療法(Adjuvant Chemotherapy)
治癒の可能性のある患者さんに、治癒を目標として行います。このような患者さんにとってがんが治癒する以上のQOLはないと考えられています。
なぜ抗がん剤は有効か?
抗がん剤はがん細胞を殺したり,その増殖を抑えることでがんを抑える働きがあります.特にがん細胞が細胞分裂をして増殖している時がもっとも有効です.急性白血病,悪性リンパ腫,小児がんなどでは,抗がん剤だけでがんが治癒する場合が多く見られます.
なぜ抗がん剤は効かないか?
多くのがん(=成人固形がん)では診断がつく頃には、細胞分裂をしているのはがん全体の中のごく一部の細胞だけで,大部分のがん細胞は休眠しており序々に増殖スピードが落ちてきます(ゴンペルツ増殖)。休眠しているがん細胞にはあまり薬剤の効果がないため,抗がん剤だけでがんを治癒させることは困難になります.
術後補助化学療法の理論的根拠
手術や放射線により主病巣を治療すると微少な転移巣が増殖を始めるという現象が見られ,ここで抗がん剤を併用することでがんの完治をめざそうというのが手術後に行う補助化学療法の理論的な根拠です。乳がんや大腸がんではこうした治療法の有効性が確認されています.しかし,症状がでるような全身再発を起こした場合は,抗がん剤で延命効果はみられても,完治することは稀です.
抗がん剤の歴史
抗がん剤はそもそも毒ガス(マスタードガス)の研究からスタ−トしてます.1915年,第一次世界大戦中にドイツ軍によって実際に使用されたこの毒ガスは皮膚に激しいびらん性の障害をきたすと共に,造血器や消化管に対する激しい副作用が知られるようになりました.マスタードガスを水溶性に改良したものがナイトロジェンマスタ−ドであり(1935年)、この薬剤の造血臓器系に対する作用を利用して1942年にはエ−ル大学で臨床実験が始まり、1943年には悪性リンパ腫に対し効果があることが示され化学療法の歴史が始まりました。シクロフォスファミドはナイトロジェンマスタ−ドの流れをくむアルキル化剤のひとつです。
抗がん剤はなぜ副作用があるか
抗がん剤はがん細胞を殺したり,その増殖を抑えたりする働きがあるわけですが,同時に正常な細胞にも障害を与えてしまいます.このため常に副作用がつきものです.ガンを叩くために薬により患者さんの正常な肉体も障害をうけるわけです。
抗がん剤治療の基本原則
多剤併用療法
あるがんに有効性が証明されている抗がん剤がいくつかある場合,一つだけを大量に投与すると特定の副作用が集中してしまい致命的なことになりかねません.そこでいくつかの抗がん剤を組み合わせて使うと,副作用が分散されかつ,効果は単剤の時より増します.このため抗がん剤治療はいくつかの薬を組み合わせて使うのが原則であり,薬の頭文字を並べてCMF療法とかCEF療法というふうに併用療法の名前をつけています.
投与と休みを繰り返す(間けつ投与)
抗がん剤は1回投与または2週連続して投与したら3週間程度休むというのが一般的です.そして,こういうサイクルを数回繰り返します.抗がん剤を投与するとがん細胞にも正常細胞にもダメ−ジを与えますが正常細胞(特に血液細胞)は3週間程度で回復します。一方がん細胞は回復できず,そこで次の抗がん剤が投与されるわけです.こうしたことを数回繰り返すと効果は最大になります.しかし普通は,ある回数以上やっても副作用が増すばかりで効果は頭打ちになってしまいます.
抗癌剤投与の方法は科学的な評価で決められる.
理論や実験でいくら正しいと思われても,実際の患者さんで,有効でなければまったく意味がありません.このため様々な抗がん剤の投与方法が計画され(臨床試験),それにより患者さんの生存率の向上か,延命効果が科学的に証明されたものが新たな標準治療になります.しかし,この科学的評価に耐え得る臨床試験は,日本ではほとんどなく,欧米のデ−タを追従しているのが現状です.
国際的な乳がんの抗がん剤治療の基本原則、
1.多剤併用
2.間歇投与
3.数ヵ月以内の投与期間
4.薬の強度の重要性
治癒可能な乳がんの抗がん剤治療の実際
再発の可能性が10%以下の患者さんの場合、術後補助療法の現実的な効果はわずかと考え通常は勧められません。それ以外の患者さんの場合は何らかの術後補助療法を行うのが標準です.これにより乳癌の死亡率が相対的に25%低下することが知られています.例えば手術/放射線治療だけで60%の確率で治癒する人は補助療法により40%×0,25=10%治癒率が上昇し,70%の確率で治癒することになります.
(絶対値では10%上昇)
治癒が期待できない乳がんの抗がん剤治療の実際
治癒が期待できない場合,つまり明らかな遠隔転移がある場合,治療の目的は延命と症状の緩和が目的となります.生命の危機がある場合は原則として抗がん剤治療が選択され、さしあたり生命の危機がない場合や無症状の場合は原則としてホルモン療法から治療を始めることが標準です。
一般に乳癌が遠隔再発をきたした場合、治癒することは非常に稀です。しかし、再発後も長期生存する場合もあります。 M.D.Anderson Cancer Centerからの報告では、アドリアマイシンを含む抗癌剤治療をおこなった再発例1581例の平均生存期間は22カ掘年生存率12%、10年生存率3.8%でしたが、抗癌剤治療が著効 (CR)した263例では平均生存期間は42カ靴任△蝓年生存率37%、10年生存率17.5%でした。治療が著効した場合には長期生存も期待できるということです。
【抗がん剤治療を受ける方へのアドバイス
どんな治療もそうですが,それぞれの治療法の良し悪しとは別に,個々の患者さんに治療の適応があるかどうかが重要です.また適応が微妙な場合もしばしばあります.このため過去の臨床試験の結果(Evidence)を根拠にして合理的に(損得を)考えなければなりません.根拠のない過大な期待を前提にして治療にトライするは合理的とはいえませんし,一方で抗がん剤治療を受けないことがファッションのようになっても不幸なことだと思います.抗がん剤治療は手術と違って、何サイクルも行うわけですから、実際に治療を1-2サイクル受けてみて、それから治療を継続するかどうか考えるのも合理的な方法だとおもいます。特に症状のある方の症状緩和を目的とした治療を考える時、有効な方法です。副作用はかなり個人差があります.このため例えば仕事についてもそのまま継続できる人と,点滴をする日を含めて2-3日休んだ方が良い人がいます.ただ長期にわたって休職する必要は特にありません.
【副作用対策】
【吐き気,嘔吐】
抗がん剤が胃,脳に影響することにより生じます.投与直後から,あるいは数時間してから症状が出現し,1日でおさまる場合もあれば2-3日続くこともあります.
CMF療法は抗がん剤治療の中では、吐き気の程度はマイルド(強い順に5段階の中で第3段階)といわれ、対策をしないと30-60%程度の患者さんが吐き気を自覚します。これに対する治療として、現在セロトニン拮抗剤であるグラニセトロン(商品名カイトリル)とステロイドホルモンの併用が最も有効と考えられています(Journal of Clinical Oncology 1998年2月号754-760)。いくつかの方法がありますが我々も、この2つの薬を軸に対策を立てています。
急性期(24時間以内)の吐き気対策
■点滴の20-40分前に、グラニセトロンとデキサメサゾンを点滴
これが現在標準的な方法の1つで、これにより24時間以内の吐き気はほぼコントロールできると考えられています。
慢性期(24時間以降)の吐き気対策
慢性期でのセロトニン拮抗剤の内服は現在まだ確立していません。3-4日間のステロイドホルモンの内服には、一定の根拠があります。メトクロプラミド(商品名プリンペラン)を内服する場合もあります。
いくつか症状を和らげるアイデアがありますから試してみてください.
■食事を少量ずつとり満腹感を感じないようにしましょう.
■ゆっくり食べたり飲んだりしましょう.
■脂っこいもの,消化の悪いものは避けましょう.
■食べ物を冷やしたり,さましたりすると臭いに悩まされずにすむようです.
■リンゴジュ−ス,グレ−プフル−ツジュ−スを冷やして飲んでみてください.
■氷を舐めてみると良いかもしれません
■食後は椅子で休みましょう.1時間ぐらい横になるのをやめると,吐き気が緩和されるようです.
■吐き気が生じたら大きく,ゆっくり呼吸をしましょう.
■おしゃべりをしたり,音楽を聴いたり,映画などを見たりして気を紛らわしまし
ょう.
【脱毛】
CMF療法での脱毛は比較的軽度(20%程度の)です。あまり気にしなくても大丈夫ですが、念のためいくつかの注意点をあげておきます。(脱毛は頭部だけでなく身体の全ての部分に生じます.そして治療が終われば再び生えてきます.これらのことは投与前にほぼ予想できます。通常は治療を開始して2週間後ぐらいから脱毛が始まり、最初のうち多く抜け、だんだん落ち着いてきます.)
■刺激の少ないシャンプ−を使いましょう
■柔らかいヘア−ブラシを使いましょう
■低い温度でドライヤ−を使いましょう
■髪を染めたりパ−マをかけるのをやめましょう
■髪をできれば短めにしておきましょう
【白血球数の低下】
白血球数が下がることは、抗がん剤の副作用としてもっとも多いことの一つです.白血球数が低下すると体の抵抗力が低下します.特に白血球数が1000以下になると細菌感染の危険が増します.38.5c以上の発熱は重要で,主治医に連絡をとると共に適切な処置を受けましょう.(抗がん剤を投与して1-2週後が最も白血球数が低下します。)一般的に注意すべき点として,このような危険がある時期に歯の治療などの外科的処置を受けるときは,必ず主治医に相談しましょう.
CMF療法以外の術後補助化学療法
(これらの方法はすべて一時的ですが完全な脱毛をともないます)
AC療法 アメリカでCMF療法とならび用いられている治療法で効果はCMF療法と同等
A-CMF療法 イタリアの臨床試験でCMF療法以上の効果が示された方法
CEF療法 カナダの臨床試験でCMF療法以上の効果が示された方法
AC-タキソ-拯屠 アメリカの大規模な臨床試験でAC療法以上の効果が途中経過で示されている方法
AC療法はCMF療法と同じ基準で用いられますが、その他の3つの治療法は治療に伴うリスクと効果の分析から現時点ではリンパ節転移4個以上の再発のリスクの高い人の場合に考慮されます。
【AC→タキソ-拯屠,砲弔い董
この方法は抗癌剤の臨床試験の中でも世界最大規模のCALGB9344試験(症例数3170名)に用いられた方法です。この試験では現在の乳癌術後化学療法としてCMFと並んで国際標準であるAC療法とAC→T療法とを比較しました。そして以下の中間結果が発表されました(1998年,ASCOの抄録より)
1 術後補助療法でアドリアマイシンの投与量を60mg/m2以上に増加させる必要はない。
2 AC療法に引き続いてタキソールによる治療を行うことで無再発生存率、生存率ともに改善する。
3 AC療法に引き続いてタキソールによる治療を行うことで心臓への毒性がAC療法に比較して増すことはない。
この研究の成績は1年半経過時点での報告であり、結論というには時期尚早です。
18ヶ月における無再発生存率 AC単独 86%
AC→T 90% (p=0.0077)
しかしながら、リンパ節転移4個以上、ホルモン受容体陰性、閉経前という条件を満たす患者さんのこれまでの治療成績(CMF またはAC)は満足できないものであり、またこのAC→T の有望な中間成績から、我々もこの方法(アメリカでは98年から標準的治療に組み込まれている)を患者さんの意志を確認しながら採用しています。
AC→タキソール療法の具体的スケジュール
A: アドリアマイシン 60mg/m2
C: シクロフォスファミド 600mg/m2 3週毎4サイクル
これに引き続いて
T: タキソール 175mg/m2 3週毎4サイクル
すなわち3週毎に
AC AC AC AC T T T T(計8回)を繰り返し、合計3×8=24週(約6ヶ月間)で治療が終了します。