非浸潤がんの治療

非浸潤がんの治療

非浸潤癌は乳管内にとどまる癌で,廻りの組織に浸潤して血管やリンパ管に入る能力がなく,遠隔転移を起こしません.そのため完全切除できれば100%治癒可能な癌です. 非浸潤癌を放置した時の自然経過ははっきりわかっていません.しかしこれまでのデ−タと臨床試験結果(NSABP B17)の類推より,臨床的に明らかながん(しこりや血性乳頭分泌を伴うもの)の多くは浸潤癌の前段階で時間と共に浸潤していき,マンモグラフィ−検診で見つかる症状のない非浸潤癌には一生そのままの潜在癌が多く含まれているという意見が多数です.

治療法に関しても現在まだ確立はされていません.腋窩郭清や腋窩照射は不要と考えられており,また抗がん剤,ホルモン療法も不要と考えられています.乳房温存手術をした場合,放射線照射により乳房内再発が約半数になることが知られています.治療法については病理組織学的な悪性度や乳房内の広がりを考慮して1.局所切除のみ,2.局所切除+放射線照射,3.単純乳房切除術の3つが行われています.10年生存率はほぼ100%です

★参考資料 非浸潤性乳癌の自然経過(natural history)はよくわかっていない。

乳癌は非浸潤性乳癌と浸潤性乳癌の2種類に分類できる。非浸潤癌は、乳管内にだけ増殖し、まわりの組織に浸潤して血管やリンパ管に入る能力はなく、遠隔転移をおこさない。したがって完全に切除できれば、100%治癒可能な癌である。中には、しこりとして触知できないで、乳頭からの血性分泌物だけが症状のこともある。昔は、乳癌全体の約1%にしかみられない稀なものだったが、欧米ではマンモグラフィ検診がおこなわれるようになってから発見率が増加し、現在では乳癌全体の約15%をしめるようになっている。非浸潤性乳癌の治療において一番問題となるのは、非浸潤性乳癌の自然経過がはっきりとわかっていないことである。

直感的には、非浸潤性乳癌は浸潤性乳癌の前段階であり、時間がたつと浸潤性乳癌へと移行すると考えられる。乳房内において浸潤性乳癌と非浸潤性乳癌の発生する部位がほぼ同一であること、非浸潤性乳癌の好発年齢が浸潤性乳癌より約5年若く、浸潤能力を獲得する時間差と考えられること、非浸潤性乳癌が切除後に再発した場合、半数は浸潤性乳癌となって再発してくることなどの間接的理由による。しこりを作ったり、乳頭血性分泌をきたすような臨床的にあきらかな非浸潤性乳癌については、浸潤性乳癌の前段階と考えるものが大多数である。ところが、マンモグラフィ検診などでみつかった臨床的に明らかでない非浸潤性乳癌については、必ずしも浸潤性乳癌へと移行するとは限らないと考えられているのである。もちろん浸潤性乳癌の前段階のものもあるだろうが、非浸潤性乳癌のまま大きくなるものや、中には大きくならずに生涯放置しても問題ないものもあるのではないかと考えられるのだ。

乳癌以外の原因で死亡した女性の剖検結果では6%−18%に潜在的な非浸潤性乳癌が発見されるという報告がある。また以前には乳癌をきたした場合、反対側の乳房にも乳癌があることが多いという考えのもと、臨床所見がなくても予防的に反対側の乳房を切除したり生検することがおこなわれていた。その結果15−30%の癌が潜在することが判明した。しかし、実際には両側乳癌をきたす確率は5−15%であり、やはり生涯放置しても臨床的に明らかにならない癌があると考えられる。最も多い報告では、顕微鏡で調べたところ反対側の乳房に非浸潤癌が48%見られたというものもある。核異型度の低い性質のよいタイプの非浸潤性乳癌は25−30年放置しても約40%しか浸潤癌にならなかったというデータもある。

これらのことは、乳癌検診の意義についても重要な関連がある。マンモグラフィにより非浸潤癌を見つけることで、浸潤癌に移行する前の早期治療が可能となり乳癌死を減少させる場合もあるが、逆に、生涯放置してよい非浸潤癌を無理にみつけて、乳房の傷と心理的ストレスを与えるだけに終わるというケースもありうるからだ。このように、同じ非浸潤性乳癌といっても非常に多様性があることが認識されている。治療もひとまとめにせずに、個々の非浸潤性乳癌のタイプに応じておこなうべきだ考えられるようになってきている。

★参考資料:非浸潤性乳癌に対する最適の手術法は確立していない。

温存手術を施行した場合には、照射により乳房内再発が約半分になる。

温存療法が乳房切除術と同等の治療成績があることが証明されているのは、普通の浸潤性乳癌についてのことである。非浸潤性乳癌の治療は、単純乳房切除術が基本とされてきた。理論的には、非浸潤性乳癌は切除してしまえば、完全に治癒可能である。したがって、癌の遺残がおこりうる温存手術をおこなうことが、浸潤性乳癌の場合よりもかえって問題となるのである。しかも、非浸潤性乳癌は乳房内で広範にひろがる傾向があり、乳房内に複数の病変をきたすという意見もあり、部分切除をした場合、癌の遺残をきたしやすいのだ。

また、放射線照射に対する感受性も、非浸潤性部では悪くなる。温存手術のあとに、放射線照射が必要かどうかも議論となっている。浸潤性乳癌の標準治療として乳房温存療法が確立しているのに、早期の段階といえる非浸潤性乳癌では乳房切除術が必要だというパラドックスがあるのである。過去の経験から、非浸潤性乳癌に部分切除のみを施行して再発した場合、その半数は浸潤性乳癌として再発してくることがわかっている。理論的に完全治癒可能だったものが、致命的なものとなる可能性が出てくるのだ。大部分は浸潤性乳癌となって再発してからも、手遅れとはならず治癒可能であるが、慎重にならねばならない。非浸潤性乳癌での温存治療の成績を無作為化比較試験で調べた報告として1995年に発表され1998年に更新されたNSABP-B17と呼ばれる臨床試験がある。(J Clin Oncol 1998;16:441) 

約800例の非浸潤性乳癌症例において、部分切除のみ施行し病理学的に完全切除とされたもの(断端陰性)を、照射併用群と照射省略群にわけて8年経過観察したものである。照射併用群での乳房内再発率は12%、省略群では27%と有意差が認めらた。したがって、非浸潤性乳癌に温存療法を試みる場合、照射併用が必要と結論している。

 このNSABP-B17に対する批判も多くみられている。この試験が開始されたのが1984年と古いこともあるのだが、非浸潤性乳癌にもいろいろなタイプがあること、つまり多様性があることを考慮せずひとまとめにして扱っていることがまずあげられる。非浸潤癌の大きさも半分近くで不明なことや、断端陰性の評価が甘いことについても批判がある。非浸潤性乳癌のタイプを考慮した治療方針の指針として、カリフォルニアVan NuysのSilversteinらが提唱するVan Nuys indexがある。(Lancet 345;1154:1995)

非浸潤癌を治療するにあたり、その大きさ、切除した際の断端の余裕(充分にとりきれているか、ぎりぎりか)、組織学的異型度(顕微鏡でみた際の癌の顔つきの悪さ)の3要素につきそれぞれ1−3点のスコアをつけ加算することで点数化をするものである。3−4点の場合には局所切除のみ施行、5−7点では局所切除と放射線照射、8−9点では乳房切除術と点数に応じて最適な治療方針が決められるというものである。過去のデータから妥当とされた分類法であるが、本当に有効かどうかは、今後の結果をみる必要がある。Silversteinが新たに1999年5月に発表した報告(N Engl J Med 1999;340:1455)によると、断端の余裕が1cm以上あった93例には、放射線照射をしなくても局所再発は平均8年の経過観察で2例しかなく、その場合局所切除単独で充分だろうと主張している。

アメリカでは、1992年に治療された非浸潤性乳癌の治療法は、44%が乳房切除術、30%で局所切除、23%で局所切除+放射線照射がおこなわれていた。乳房切除術が施行される割合がまだまだ高く、もっと少なくなるべきだと考えられている。

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