乳癌術後の補助療法について
1.乳癌術後の全身補助療法 早期の乳癌(ステージ1.2)でも、手術、照射の局所治療だけでは、遠隔再発をきたすことが多く、術後補助療法がおこなわれることが一般的である。遠隔再発をきたす原因として、乳癌が発生初期から全身にひろがる傾向があり、画像等ではわからない微小転移(micrometastasis)が診断時すでに存在するためと考える全身病理論と、不充分な局所治療が遠隔転移の原因になると考える理論がある。微小転移と不充分な治療の両方が再発に関与しているという意見が最近では主流である。
2.全身補助療法の適応 局所治療だけでも治癒する可能性が高い場合には、補助療法を受けても副作用の面からかえって損をする。1998年の国際会議では、10年無再発の確率が90%以上と予測される場合には、補助療法は不要としている。具体的には、35歳以上の1cm以下の乳癌で、リンパ節転移陰性かつホルモン受容体陽性で異型度の良いものである。それ以外のものには、補助療法が勧められている。
3.全身補助療法の効果 ホルモン受容体が陽性の場合、タモキシフェンを5年間のむことにより、再発率が47%、死亡率が26%相対的に減少する。多剤併用化学療法(抗癌剤治療)により、閉経前では再発率35%、死亡率27%、閉経後では再発率20%、死亡率11%相対的に減少する。絶対値でいうと、例えば70%の生存率の閉経前患者の場合、多剤併用化学療法により死亡率が8%減って78%の生存率となる。
4.全身補助療法の内容 ホルモン療法と抗癌剤治療がおこなわれる。ホルモン受容体陰性例では抗癌剤投与がおこなわれる。抗癌剤の内容は、CMF,AC,CAF,CEF等が代表的なものである。標準量を投与しないと効果が減ずるとされる。CMF4週毎2回6サイクルとAC3週毎4サイクルが同等の効果とされ標準治療とされていたが、1998年にAC-Taxol療法がAC療法よりも成績が良いことが大規模臨床試験の途中経過で示されたため(18カ月経過での無病生存率がAC86% vs AC-T90%)、米国ではリンパ節転移陽性例ではAC-Taxol療法が標準となってきている。3週毎にAC4サイクル、Taxol4サイクル計8回行なうが、脱毛、神経障害、筋肉痛などの副作用が強い。なおCMF療法では、小規模だが3サイクルと6サイクルで差が無かったというドイツの臨床試験がある。 ホルモン受容体陽性例では抗癌剤投与後タモキシフェン5年内服が標準とされる。閉経後症例やリンパ節転移陰性例では、抗癌剤+タモキシフェンとタモキシフェンで大きな差は無いため、場合によりタモキシフェン投与のみでも良いとされる。閉経前、受容体陽性例では卵巣摘出も有効である。LH-RH analogueといい、月に1回皮下注射することにより閉経状態となり卵巣摘出と同等の効果を示す薬剤も開発されている。臨床試験の途中経過では、抗癌剤と同等以上の成績もでており、いずれ選択枝のひとつになると考えられている。
5.全身補助療法の副作用 タモキシフェン内服により子宮体癌の発生が約4倍となり血栓症の発生も増加する。抗癌剤治療では嘔気、脱毛などの投与中の副作用の他に、心臓の障害、白血病の発生などがごく稀にある。しかし、乳癌再発を減らすという利益の方が明らかに大きいため、副作用をおそれて補助療法を受けないのは合理的でない。
6.終わりに 今の所、最良とされる補助療法を施行しても、相対死亡率は約1/3しか減少しない。残念ながら運命の2/3は変えることができない。残りの1/3をどこまで治療で変えるかーつらくても一番治癒する確率が上がる方法を選ぶか、ある程度の治療をして後は運命に任せるかーは、個人の人生感によって決めるべきものと思われる。