ヘルペスウィルス
ヒトを宿主とするヘルペスウィルスは八種類知られており、いずれも多彩な疾病を起こす。SARSの原因はコロナウィルスの新型であるが、これは風邪の原因として知られているヒトコロナウィルスの変異によって生じたものでなく、動物由来であると考えられている。このような宿主域の変化はRNAウィルスでは必ずしも稀なことではない。ワクチン導入以前に常在的に流行を繰り返してきた麻疹、風疹、流行性耳下腺炎などのRNAウィルス感染症も、ヒトが都市を形成し、ある規模以上の人口(おそらく数十万以上)が密集して住むようになって初めて、ヒトの病気とすることが可能となった。すなわち、何らかの動物を自然宿主としていたこれらのウィルスがあるきっかけでヒトに感染し、変異と選択を繰り返すうちにヒトのウィルスとして適応、定着したものと考えられる。
ヒトのヘルペスウィルスは、ヒトが類人猿から現世人類に進化してきた過程において、宿主であるヒトと共に進化したものである。従って、ヘルペスウィルスと宿主であるヒトとの関係はきわめて長く、ウィルスと宿主の相互関係は安定したものといえる。現在、ヒトを宿主としたヘルペスウィルスは単純ヘルペスウィルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウィルス2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウィルス(VZV)、エプスタイン・バールウィルス(EBV)、ヒトサイトメガロウィルス(HCMV)、ヒトヘルペスウィルス6(HHV-6)、ヒトヘルペスウィルス7(HHV-7)、カポジ肉腫関連ウィルス(HHV-8)の八種が知られている。
ヘルペスウィルスは一度感染すると、その個体の生涯にわたり持続感染を起こし、宿主の状態のよりウィルスの増殖の程度が変動する。感染性のウィルスがまったく検出されない潜伏状態から、ウィルスが持続的に排出される慢性感染の状態まで、様々な様式をとりうる。いずれも致命的な病気を起こすことは稀である。水痘を除き流行が問題となることはないが、医療技術(臓器移植、骨髄移植、がん化学療法など)の発達、AIDSの出現、老年人口の増加は、日和見病原体としての重要性を再認識させつつある。ヘルペスウィルス群の特徴の一つはDNAウィルスであり、かつエンベロープを有するということである。ウィルスDNA複製、カプシド形成が核内で行われる他のDNAウィルス(パピローマウィルス、アデノウィルスなど)はエンベロープを持たない。
HSVによる疾病
HSV-1とHSV-2による感染:口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、ヘルペス脳炎、角膜ヘルペス。
VZV:水痘、帯状疱疹。
EVB:伝染性単核症、バーキットリンパ腫。
HCMV:間質性肺炎、CMV単核症。
HHV-6:突発性発疹、脳炎・脳症。脊髄炎、髄膜炎。慢性疲労症候群?
HHV-8:カポジ肉腫。
HSV感染症の治療と予防
抗ヘルペス薬
アシクロビル(ACV:ゾビラックス)が開発されて、治療効果、安全性が確かめられている。
ワクチンの開発:HSVに対するワクチンは感染防御効果があるほどのものは開発されていない。VZVには有効な生ワクチンが開発されている。その理由はVZVがHSVと異なり、主に飛沫感染で伝染し、またウィルス血症が発病に至る過程に必須なため、中和抗体が感染防御、発症阻止に効果的であると考えられている。