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1.原材料の起源および由来
深海鮫精製肝臓エキス(スクアレン)は、水深300〜1000mの深海に棲む深海鮫の肝臓から抽出したエキス(粗スクアレン)を精製したものである。鮫の中で深海鮫(アイザメ、ユメザメ、ヒラツノザメ、その他約50種)といわれるグループは、スクアル科(油鮫科)に属し、陸地沿岸、近海に棲息する鮫にはみられないきわめて大きな肝臓を有し、その重量は体重の17〜25%に及ぶ。肝臓の合油量は75%以上含んでおり、その90%がスクアレンであり、従来から肝油として摂取されていた。ヒトは摂取する野菜、果物の他、食品中より自然界に広く分布しているスクアレンを少量であるが摂取すると共に、生体自身も摂取した栄養素を出発物質として生合成しており、大脳、小脳、甲状腺、リンパ節、平頭筋腱、皮下脂肪、動脈壁内膜、皮膚、肺、心筋層、骨格筋肉、肝臓、膵臓、副腎、腹部脂肪、卵巣、子宮、睾丸、腎臓、摂護腺、大腸、胆嚢、赤血球等各臓器に分布濃度の多少はあっても存在している。
2.化学構造または組成
スクアレンの分子式はC30H50、6個の2重結合を有する化合物で、その化学構造はビタミンA(レチノイド)、ビタミンE(α、β、γ、δトコフェロール)と同様のイソプレノイド構造を有する化合物である。

3.物質の性状および特性
深海鮫肝油の性状および特性は、90%がスクアレンより構成され、残りの10%に油脂(トリグリセライド)およびスクアレンの1/2の構造を有するプリスタン、その他を含む。従って深海鮫肝油の特性は、スクアレン、プリスタンを主成分とする炭化水素とトリグリセライドとの混合物、その他として特徴づけられる。スクアレンは水に不溶性で6個の2重結合をもつ炭化水素で分子式はC30H50、分子量410.7の脂溶性物質で、沸点250℃(4mmHg)、凝固点-75℃、比重(Sp,gr)d415=0.8638〜0.8990、屈折率n015=1.4985、ヨウ素価360〜380である。
4.研究の現状および有用性
スクアレンは生体内では酢酸よりメバロン酸を経て生合成される。これは内因性スクアレンと称する。さらにスクアレンからコレステロールを経てステロイド・ホルモンの性ホルモン系(プロゲステロン、アンドロゲン、エストロゲンなどのステロイド・ホルモン)、副腎皮質ホルモン系(コーチゾン)、糖コルチコイド、電解質コルチコイド等のコルチコイド系、活性ビタミンD3等が生合成される。これら生合成系は酢酸よりスクアレンまでは酸素を必要としない嫌気性合成経路を経ること、スクアレンよりコレステロールに至る経路は酸素を必要とする好気性合成経路を経る。従来内因性生合成経路によってコレステロールが産生する場合、その主役を演ずるのはHMG-CoA(補酸素)であり、その反応速度が非常に速くてどのようなメカニズムによって産生されるのかよく分からなかったが、定説化された従来のコレステロール生合成経路だけではなく別の経路のあることが分かり、コレステロールがその代謝経路に遺伝子発現を抑制してコントロールしているらしいことが分かってきた。この新経路に関しての内容は省略するが、生体内におけるスクアレンノ役割は、栄養状態が悪くなった場合、またはリポ蛋白質少なくなった場合にコレステロールを増加させる可能性がある。この機構により生体内において必要とするコレステロールの量をコントロールしていると考えられ、そのコントロールセンターはHMG-CoAの後の部分に相当し、コントロールのメカニズムはコレステロールが遺伝子の発現を抑えコントロールするものと考えられている。
このように最近では、スクアレンの生理的作用が次第に明らかにされてきており、その主なものを列挙すると、@抗潰瘍作用、A抗腫瘍作用、B抗真菌作用における抗生物質との相乗作用、C免疫賦活作用、D肝機能改善作用、E細胞の分化・増殖機能促進作用、F酸素輸送機能の強化等々があげられる
この他スクアレンが単純にコレステロール合成の中間物質として存在しているとは思われない。また、血漿中のスクアレン量がコレステロール合成量を反映しているとする報告もみられる。コレステロール合成の素材となる他にも機能を有している可能性もあり、まだ多くの問題が残されている。スクアレンが非特異的に中性脂肪と親和性を有するとの考えもあり、スクアレンノ意義を考える上に重要なことである。
また、血中ではγ=0.973と強い相関がスクアレンと中性脂肪との間にあることが報告されている。血清リポ蛋白への分布では超低比重リポ蛋白(VLDL)に50.8%、低比重リポ蛋白(LDL)に25.6%、重比重リポ蛋白(HDL)に23.6%分布しているとされている。この分布はコレステロールの分布と異なって、LDL分画に少なくVLDLに多いことが注目される。また、中性脂肪の少ないHDLに多く存在している点は注目される。HDLは抗動脈硬化作用があるとされ、長寿家系ではHDLが増加していることが知られており、スクアレンがHDLに比較的多く分布していることは、HDLの機能におけるスクアレンの役割の検討が重要課題となる。
脂肪摂取でカイロミクロン合成が高まった時に、スクアレン量も増加することが報告されている。従来スクアレンの諸愁訴改善効果はスクアレンの空腹時摂取にみられ、食後には効果が低下するともいわれているので、カイロミクロン合成によるスクアレン吸収と中性脂肪の親和性による体内移動とは別の機序による影響も考えねばならない。
スクアレンの吸収量が増加すると血清総コレステロール、中性脂肪が増加するか問題であるが、肝疾患および高脂血症患者における検討では、総コレステロール、中性脂肪ともに優位な変動はみられていない。HDLコレステロールも有意な変動はみられてはいない。スクアレン摂取量が増加すると血中スクアレン濃度が増加することが報告されているが、コレステロール濃度とは関係がみられず、コレステロール合成率も一定していないとされる。
コレステロールの合成調整機構におけるスクアレンの役割が注目されるようになった。ラットの血清中にメバロン酸からのコレステロール合成を抑制する蛋白質が発見された。この蛋白質は「スクアレン引離し蛋白」と呼ばれ、アポHDLと類似し、スクアレンと非可逆的に結合される。また「ステロールキャリア蛋白」は、マイクロソームにおけるスクアレンの酸化と閉環を経てステロール合成の調整に関与しているとされる。HDLはこのステロールキャリア蛋白を抑制していることが報告され、またリポ蛋白の中でもHDLの遊離コレステロールが優先的に胆道系に排泄されており、HDLに動脈硬化防御作用が認められていることとあわせ、胆汁中にスクアレンが高濃度に含まれていることの意義が注目される。
生体膜修復のための材料としてのコレステロールがどの程度必要であるかは明らかではない。外因性スクアレンがどのように利用されているか明らかにされてはいないが、肝疾患の経過においてコレステロールと異なった血中スクアレン濃度の変動がみられることは、スクアレンが生体に必要な物質の素材であることから注目される。急性肝炎、肝硬変ではコレステロール濃度の低下がみられることが多く、肝疾患にスクアレン補給の意義が検討されることは大切であるし、スクアレン投与後の肝機能の有意な変動は認められていないが、GPTのわずかな低下傾向がみられている。一方、易疲労感などの自覚症状は改善傾向が認められたが、コントロールを置いていないためその効果の評価は困難であった。
蛋白、カロリー栄養障害時には皮膚表層のスクアレン濃度が低下しており、スクアレンのロウエステル比の低下も有意であり、栄養障害の程度を反映しているとされる。肝疾患を含む疾病時においてスクアレンの必要度が増加していることも考えられ、スクアレンの生体における生理的意義とともに病態時の役割に関してもさらに検討されることが必要である。ことにスクアレンと免疫、スクアレンと抗腫瘍の関係は種々検討されつつあるが、今後この方面の知見が明らかにされると、スクアレンの生体における生理的意義がさらに明確化されるものと考えられる。
(新食品開発用素材便覧 吉積智司・伊藤汎・太田明一・田村力 編)
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