熱帯小児医学・途上国小児医療へのお誘い

 

わが国の小児医療は近年目覚しい進歩を遂げました。とくに、かつて小児医療そのものであった急性疾患への対応は日常的な医療の領域で行われるようになり、現在「小児医療の多極化」が進行しています。

ひとつは未熟児・新生児医療で、全国で周産期救急システムが稼動しており、産まれた未熟児をあわてて周産期センターへ搬送する時代はすでに終わり、未熟児出産が想定される場合には「母体搬送」が行われ、未熟児の出生と同時にケアが開始できるように配慮され、救命率の顕著な上昇を認めています。

他のひとつは、高次医療の導入です。白血病完治のための治療法として幹細胞移植がどれほど重要であるかは、移植導入前後の寛解・治癒率を比較すれば一目瞭然です。現在では骨髄移植のみならず臍帯血移植、とくに幹細胞を選別して投与する方法が行われています。また慢性炎症性疾患の代表である全身性エリテマトーデス、若年性関節リウマチ、皮膚筋炎などの膠原病も、早期徹底治療が予後の著しい改善をもたらすことが明らかとなり、積極的に免疫抑制薬を用いあるいは血漿交換療法を併用することで再燃を著しく減らすことができるようになりました。

さらに最近の小児医療の特徴は、社会との連携を深めることにより予防医学を推進していこうとする傾向がでてきたことです。小児科一次医療機関(小児科開業医)ではプライマリ・ケアに徹すること、同時に予防接種の推進、母子保健・学校保健への参画、幼児教育・乳幼児保健などは小児科医でなくてはできないことは明らかになってきました。また社会的に24時間小児診療体制が求められるのは、子どもの急性疾患は時間を選ばずに発するからです。突然の発熱、下痢、けいれんなどに遭遇した母親の心配は言語に絶しますが、その相談を含めての診療が必要で、これは小児科医以外にはできないことです。他方これら急性疾患・家族への対処と同時に、約7%混じる重症例をいかに選別し入院加療を行うかという問題もあり、また少ない小児科医が疲労困憊せず充分に力を発揮できる小児科独特の救急体制の確立が緊急の課題になっています。

ところで、視野を少しだけ海外へも転じてみると、とくに私たちの属するアジア地域ではまだまだ乳児死亡率は著しく高く、子だくさんの根本的な理由のひとつになっています。依然として感染症による急性疾患が死亡原因の一位を占めています。また結核菌の浸潤が高度で、小児期においてもBCGがまったく無効である地域です。しかし疾患に国境はないはずです。ましてや子どもに差別があってはなりません。わが国の小児科医の医療技術はわが国の子どものためのものだけであってはいけないはずです。経済、政治、行政、歴史などいろいろな問題もからんでいます。が、私たち小児科医が一歩を踏み出せば事態は変わるはずです。今回JICAの要請を受けてタイ国国際寄生虫対策アジアセンタープロジェクトに当科の友野医師が参加します。友野医師は、先年2年間にわたりロンドン大学熱帯医学修士コースを学び、卒業してきた新進気鋭の小児科医です。今回のプロジェクトは東南アジア地域では比較的医療事情の進んでいるタイ国との共同事業であり、カンボジア、ラオスなどの医療過疎である周辺諸国の小児保健を担う人々の研修をタイで行うもので、まさにこれからの小児科医が関わっていく途上国医療の典型です。2年後には再び当小児科へ戻って一般診療に従事しますが、このタイ・プロジェクトの進行状況に応じて再度、再々度タイへ出かける予定でもあります。

当小児科ではこれを機会に、臨床研究班にあらたに「熱帯小児医学・途上国小児医療研究班」を設置致します。今後もJICAと、このタイ・プロジェクト推進役を担っておられる慶応大学寄生虫学講座 竹内 勤教授との連携を強め、近代日本の開国の地である横浜から新しい小児科学である「熱帯小児科学・途上国小児医療」を発信していく所存です。

全国の医学生諸君、21世紀を期して花開くであろう「熱帯小児科学・途上国小児医療」にあなたの可能性を賭けてみませんか?横浜市立大学小児科学講座が新しい小児医療の基地として活躍の場を提供しようと思います。一歩を踏み出しましょう!

 

2001年1月

横浜市立大学医学部小児科学講座

教授 横田 俊平

 

 

 

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