第3部 手術

3月21日:手術
朝食後10時に診察室に呼ばれ、まずは肛門の触診と浣腸。座薬タイプのものを2本挿入。20分ほどでお腹から不気味な音が……キュルキュルキュルルルルルルルゥ〜〜〜〜。座ると同時に一気に脱糞……そして脱肛した。押し込むことができない。血が垂れている。ズキズキヒリヒリ。
「この状態で手術まで我慢しましょう」さり気なくいわれるが、この時点で痛みはレベル最高値を記録する。看護婦が点滴を持ってきて「小用を済ませてお待ちください」といったが、穴が痛くて力が入らず一滴もでない。日頃無意識に肛門を使っている事にあらためて驚く……。
1時45分、ナースコールで呼ばれ、ベッドごと手術室に運ばれる。パンツを脱ぎ下半身むき出しで手術台に乗せられた。身体を丸くするよういわれ麻酔を打たれる。背骨にチクッとした痛みがきた後、ズズンと重く鈍い痛みが走った。腹ばいにされ色々なコードをつけられ、医師が麻酔の効き具合を確認する。そして手術が始まった。
下半身は全く動かない。ジジィジジィと耳障りな音がする。レーザーメスなのか? ピッピッと心拍のモニタ音も聞こえてくる。怯えた顔をしていたのだろうか。看護婦さんが子供の話などをして励ましてくれるのが嬉しい。思わず彼女が天使に見えた。カチャカチャと金属音、引っ張られているのをなんとなく感じる程度で、実際に何をされているかは全くわからない。そのまま約30分で終了。痛みは全くなかった。患部を4つに分割して切り取った、という説明を受けつつ、切り取った“肉片”を見せてくれた。肉片は思いのほか小さなものだった。下半身の感覚はまったくないまま、再びベッドに乗せられて個室に戻る。
麻酔から醒めるには2時間ぐらいかかった。しかし……その後の痛みは、生まれてこの方一度も経験したことがないほどのモノだった。傷口に辛子を塗りこんだような、真っ赤に焼いた鉄の棒を突っ込んだような。大の大人が思わず悲鳴を上げてしまうほどの激痛だ。さっきもらった鎮痛剤を飲むと30分ほどで効いてきたが、それでもやや抑えられただけ。痛みが消えるわけではない。相変わらず、これまで味わったことのない苦痛が果てしなく続く。こんなことで本当に治るのか? 安静が一番というが、そもそも何もできるはずがない。何もする気が起きない。痛みで眠ることもできず、かといって煙草を吸う気も起こらない。シビンにおしっこをすることさえできないのだ。食欲もないのでどうでもいいことだが、今日は夕飯もでない。あとは7時にビスケットを数枚食べ、薬を飲んで寝るだけだ……。
夜9時、追加の鎮痛剤と睡眠薬をもらう。早く睡眠薬を飲んで眠ってしまいたいが、最初の鎮痛剤を4時に飲んだので、次に飲めるのが6時間後の10時。それから1時間あけないと睡眠薬は飲めない。何とか我慢して睡眠薬を……気が付くと朝になっていた。

3月22日:T字帯
体が起きると同時に、再び熱い痛みがぶり返した。
患部には“T字帯”という、いわゆる“ふんどし”を当てている。どのように使うかというと、まず生理用ナプキンのようなガーゼを肛門にあて、そのうえに紙おむつと呼ばれるペットシーツ(室内犬のトイレ、おしっこシート)をあて、それらが落ちないようその上からふんどしをするわけだ。ふんどし本体は、20センチ幅・長さ70センチの布風味の紙の端に1メートル強のヒモが付いたもの。このヒモを前で結び、布の部分を後から前にもってきてヒモに通す。とりあえずおむつは落ちないが、アソコはぶらぶらしている状態で、すぐに横からはみ出す。いわゆるヨコチンだ。女の人もこれを使うのか? とにかくカッコ悪いことおびただしいが、看護婦にとっては手間がかからず、介護しやすいグッズである事は確かだろう……もうすでに傷の確認やらで何回となく看護婦さんに手間をかけている自分としては、無論我慢するしかないという気分だ。
そうするうちに、少しずつ痛みが薄れてきたようだ。朝食後に飲んだ薬には鎮痛剤も含まれているので、自力で、ゆっくりとなら歩くことができるようになった。しかし小便は相変わらず一苦労だ。便器の前に立つ、したい気持ちは充分だ。しかし、力を入れるのが怖いのだ。少し力を入れてみるとツッーンと痛みが走る。それを必死で我慢して、もう少し力んでみる……だめだ。
汗を流して頑張っていると、後ろから「ガスも出してくださーい」と看護婦さんに明るく声をかけられた。少し腹の張りがある気がするのは、ずっとおならを我慢していたためか? それとも小便も自由に出していないせいなのか? 自力でできないようなら“器具を使う”といわれたことが頭をよぎる。カテーテル? うぉー、おぞましい。だましだましでも自分で頑張るしかない。
なんて痛みに弱いのだろうか。出産の痛みは男には耐えられない、とよく聞くが、これよりもっと痛いのか? 嘘だろう! 俺のほうが痛いはず! これこそが最上級の痛みのはず!
だが、それでもだんだん色々なことに慣れてきたみたいだ。小便のコツもわかってきた、力の入れ方が……違和感は残っているしキレも悪いが、この分ならじきに“おなら”もできるようになるのだろう。
気分転換に煙草を吸いに2Fにある喫煙所に行く。たばこの煙を思いきり吸い込むとクラーっときた。丸1日吸っていなかったせいだろうが、こんな気分を味わうのは何年ぶりのことだろう。その後、何回となく喫煙室に行く。
気分の悪い夢をみた。けつの穴を使い舟を漕いでいる夢だ。けつのヒダをオールにして漕いでいる。精神安定剤をもらいやっと眠りついた……が、すぐに痛みのため目が覚めてしまった。患部が燃えるように熱く、ズキズキと脈打つように痛む。鎮痛剤を飲んだが、痛みが薄れるのには30分はかかるだろう。そうか! 薬のおかげで動くことができたんだ! それに気づくと、最初の排便のための診察がいきなり怖くなってきた。薬が切れただけでこんなに痛いのに……。大便を排出するには、肛門を開き、付加をかけなければ絞りだすことはできないだろう。浣腸をするらしいが、浣腸は便をあまりやわらかくはしてくれず、出してしまうことだけに機能する薬剤だ。1日たった便は硬いに違いない。とほほ……。

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