何年も前から死にたかった。
死にたいのには明確な理由があった。
でも未来を信じて、来月まで生きてみようとか、誕生日まで生きてみようと思って1日1日を生き延びていた。
自殺するなら飛び降り自殺と決めていた。
一瞬で済むし、失敗が少ない。
でも結局私は飛び降り自殺はしなかった。
代わりにある日私は睡眠薬・メジャートランキライザー・精神安定剤・抗鬱剤など手持ちの薬を60錠飲んだ。
日記帳に旦那と友人2人に感謝の気持ちを込めて遺書を書き、記念に何の薬を何錠飲んだのかもメモしておいた。
飛び降り自殺したいと思ってはいたけれど、自分が薬で死のうとするとは思ってもみなかった。
自分のしていることが信じられないまま、泣きながら1錠ずつ薬を飲んだ。
でも本当にこれで自分が死ぬと信じていたわけでもない。
死んでも死ななくてもいい。
プチ自殺がしてみたかったのだ。
そしてベッドに横になった。
気づくと私は相変わらずベッドに寝ていて、時間だけが1日後の夜だった。
旦那に聞くと、話し掛けると答えるけれど何を言っているのかわからない状態だったそうだ。
遺書を書いた日記帳はいつもしまってある本棚に置いてあった。
これじゃあ本当に死んでも遺書を読んでもらえなかったじゃないか〜!
それ以前から私は自分の腕に刃物に傷をつけていた。
いわゆるリストカット。
心の痛みはわかりにくいけれど、腕の切り傷ははっきりした痛みがあるからわかりやすくて好きだった。
但し私は刃物恐怖症だからスッパリ切るというわけにはいかない。
小さなナイフで猫にひっかかれた程度の傷をつけていた。
リストカットが癖になるのと同じように多量の薬物摂取によるプチ自殺も癖になった。
それからしばらくたって私はまた薬をたくさん飲み、プチ自殺をはかった。
プチ自殺・・・。
そう、ちょっとだけ死んだふりをするだけで本当に自殺するわけではない。
前回で60錠飲んでも死なないことはわかっている。
恐らく70錠、80錠でも死なないだろう。
飲む量を増やすことに抵抗がなくなった。
勿論増やし続ければいつかは運良く死ねるかも知れない。
但し吐かずにそんなに大量の薬を飲めるかは疑問だが。
今度は薬を飲んで、テレビの前の座椅子に横になった。
いつも私に冷たい猫がやって来てペロペロと私をなめた。
心配してくれているのか、眠っちゃいけないと言ってくれているのか・・・。
目が覚めるとまた1日後の夜で、私はベッドに寝ていた。
旦那に聞くとテレビの前で倒れて寝ていたからベッドまで引きずって行ったそうだ。
そのときにぶつけたらしく、お風呂に入ったら体のあちこちに青あざができていた。
さて、薬の大量服用によるプチ自殺には体に悪い以外にもう1つ重大な欠点がある。
それは死んでしまうならともかく、死なずに目が覚めた場合手持ちの薬が1錠もなくなることだ。
勿論薬は不正に入手しているわけではないからかかりつけの病院に行ってもらって来ればいいのだが、プチ自殺をするような気分のときには医者に行く気力などあるわけがない。
そんなある日、私はまたしてもプチ自殺をしたくなった。
しかし手元には薬が1錠もない。
夜11時過ぎに煙草がきれたときと同じ状況になったのだ。
人間は追い詰められると冷静な判断ができなくなる。
実は家に薬が1錠もなくなったわけではなく、今までプチ自殺には使わなかった薬が1種類だけ残っていた。
それはリタリン・・・。
プチ自殺の目的は何もかも忘れてしばらくの間死んでみること。
飲むと覚醒するリタリンはプチ自殺にはむかない。
しかし追い詰められてプチ自殺をすることしか考えられなくなっていた私は残っていたリタリン20錠を一気飲みした。
一気に飲んで初めて気が付いたが、リタリンは口に入れた途端にまるでアルコール度の高いウォッカが口に含んだ途端に蒸発してしまうのと同じように溶けてしまうのだ。
とてつもなく飲みごこちが悪い。
そしてやはり思った通り眠れない!
しかも心臓がドキドキして気分が悪いのに吐けないというひどくみじめな状態になった。
リタリンを欲しがる人は多い。
闇で売ればいくらかの儲けになったかも知れない20錠を私は一瞬のうちに全く無意味に使い切ってしまった・・・。
さて、この直後から私は本格的な鬱期に入り、プチ自殺ではなく本当に死のうと考え始めた。
それならさっさとマンションから飛び降りればいいものを、旦那が会社に行っている間に1人で死ぬのが寂しくて、私はわざわざ旦那にこれから飛び降りて死ぬと打ち明けたのだ。
そんなことを面と向かって言われて止めない人がいるわけはない。
果てしない話し合いの末、私は気分転換をかねて近所の病院に転院することになった。
旦那に付き添われて新しい病院に行った私は一言も話さず、医者との会話はすべて旦那が行った。
「薬をまとめて飲んだり、死にたいと言う」と旦那が言うと医者は「どんな薬をまとめて飲むんですか?」と聞いた。
旦那が「最近はリタリンを飲みました。」と旦那が答えると医者は「え?!それは珍しい。リタリンをまとめて飲むとどうなるの?」と聞いた。
鬱々ながらも私はもの凄く恥ずかしかった。
リタリンの一気飲みだけはしてはいけません!
眠れないし、気分は悪いうえに医者に笑われます。
この医者は一方的に薬を出すのではなく、患者と相談しながら薬を決めるタイプらしく「今までリタリンをもらっていたなら、またリタリンにする?」と聞いてきた。
しかし私はみんなが欲しがるリタリンをあっさり拒否した。
「リタリンを飲んでやる気を出してもやることがない。」と蚊の鳴くような悲しい声でつぶやいて・・・。
それに対して医者はあっさり「そうだよね。」と言った。
そんなに簡単に肯定しないでもっとなぐさめてくれ〜!
この初日の診察は入院も視野に入れての話し合いだった。
ただしこの病院には入院施設がなくどこかを探してくれるが、近所にあるのは分裂病中心の病院で、鬱病中心の病院は遠くになってしまうということだった。
1度入院して、という気持ちもあったが家から遠く離れた病院に入る決心はつかず、とりあえず薬を飲んで様子を見ることになった。
しかしここでもらったルボックスが体に合ったのか、私は究極の鬱状態から脱することができた。
だが、医者はじっと私の目を見てこう言った。
「鬱は再発します。再発防止のためには具合が良くなっても薬を飲むのを止めないことです。あなた、具合が良くなると薬を飲むのを止めるでしょう?」
だが、実はこの医者は間違っている。
私は具合の良いときはちゃんと薬を飲んでいる。
鬱が重くなると薬を飲む気力がなくなるのよ〜!
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