人工弁とは?

人間の心臓は2つの心房と2つの心室から成り立っています。全身の血液が心臓の右心房に戻り、右心室から肺へ送られます。肺を通り酸素を多く含んだ動脈血は左心房に流入した後、左心室に入り全身の臓器に送り出されます。心臓から血液をスムースに送り出すためには駆出される血液が一方向にしか流れないように制御する必要があります。この役割のために心房と心室の間および心臓から肺もしくは全身に血液を送り出す入り口部分に心臓弁がついています。

  特に、左心房と左心室の間ある「僧帽弁」と左心室と大動脈の間にある「大動脈弁」は非常に重要です。僧帽弁と言う名前の由来は西洋の僧侶が使っている帽子に形が似ていたたためと言われます。 左心房から左心室へ血液が流れる時に僧帽弁は開き、左心室が収縮して大動脈へ血液を駆出する時に僧房弁は閉鎖して左心室から右心室へ血液が逆流するのを防いでいます。また、左心室から大動脈を通じて血液を全身に送り出す時には大動脈弁は開き、左心房から左心室に血液が流れる時には大動脈弁が閉じて送り出した血液が左心室に逆流するのを防ぎます。

 こうした重要な役割を担う心臓弁も様々な疾患によりその機能が十分に果たせなくなる事があります。その原因としてリウマチ熱や感染性心内膜炎、先天的な心臓弁の形状異常、心臓や大動脈の拡大による機能不全などが挙げられます。こうした疾患により、血液の通り道である弁口が狭くなる狭窄症と心臓弁が閉鎖せずに血液の逆流を起こしてしまう閉鎖不全症となることがあります。狭窄症になると血液が流れ難くなるため肺や心臓がうっ血状態となり呼吸機能障害や狭心痛が起こります。閉鎖不全症では左心房や左心室の拡大が生じ、呼吸機能障害に加えて運動時の動悸・息切れが起こるようになります。  

  心臓弁疾患の治療として薬物等により心臓のポンプ機能を回復させる内科的治療では心不全が改善しないか心臓機能が低下していくような場合に手術が必要となります。手術により心臓弁を修復する事で再び元通りの機能が果たせない場合、心臓弁を切り取り、機能を代替する人工心臓弁にて置換を行います。人工心臓弁は特殊なカーボンでできた機械弁とブタやウシの組織を化学処理した生体弁とがあります。

  心臓弁膜症の手術では心臓を止めて直接病変のある弁を見て手術をします。このため手術中に心臓や肺の働きを代行してくれる人工心肺装置を補助手段として使用します。手術中に心臓を止めますが心筋を保護する液体を心臓に流しますので数時間心臓を止めておいても通常、心臓の働きは損なわれず手術が終わると心臓はまた元のように動き出します。

 

人工弁の種類

 

1)生体弁
生体弁はブタ又はウシ半月弁を利用するため、それを支える3本のステントが弁座に対し垂直に立っており、流入血流はカラードプラ法では弁座に対し垂直に1本の主流となって流入する。代表例としてHancock弁、Carpentier-Edwards弁、Ionesc-Shiley弁などがある。生体弁の利点は1.セントラルフローが得られより生理的な流入動態が期待される。2.溶血を起こしにくく、血栓弁になりにくい。3.そのため通常抗凝固療法が不要である。4.人工弁の音が聞こえない。5.三葉弁なので弁機能不全が起こってもただちに致命的にはなりにくい。などがあるが、半面欠点として1.異物反応による弁破壊が生じるため耐久性があまりない(5-10年前後)。2.弁のサイズが大きくないため(動脈弁輪は房室弁輪より小さい)血行動態の改善はさほど十分とならない。があげられる。最近の加工型生体弁(Free style valve)は耐久性が格段に改善されており、大動脈弁位でも使用される。大動脈弁位の生体弁はステントがwireでできており大動脈壁に重なり、一見人工弁が入っているとわからないような例もある。

 

2)傾斜デイスク型一葉弁
機械弁のうち金属弁を傾斜させて人工弁とするタイプはTilting disk弁と総称される。生体弁に比して良好な血行動態を維持でき、耐久性がよい(20年以上も期待可能)ことが利点でその半面、常に抗凝固療法が必要、人工弁音が大きいことなどが欠点としてあげられる。Bejork Shiley弁は人工弁の止め金が中心から偏位した部分にあり、そこから弁を吊り上げて人工弁を傾斜させ、開閉するタイプである。したがってデイスクは弁座に対し斜になって開放するため(最大60度)、弁座に対し斜になった主流と副流の2本の流入血流となって観察される。同様のタイプのOmniscience弁は開放角度最大80度となっている。このタイプの人工弁は血栓弁をよく生じるため使用されなくなってきている。

 

3)ケージドデイスク型一葉弁
今はほとんど使用されなくなったCaged ball弁で有名なStarr Edwards社のdisk弁がこのStarr-Edwards disk弁である。左室内に突出する構造物が少ないため乳頭筋などが温存できる利点がある。X字の金属製の篭(Strut)の中で弁を垂直方向にカタカタ動かして流入させる特異な構造となっているため弁座に対し平行な人工弁とその間から蟹の爪のように流入するフローが特徴的である。同様の構造の弁としてKay-Shiley弁, Beall-Surgitool弁, Cooley Cutter弁があるがStrutはX字でなく、それぞれ前2者はゲタの歯状、後者はX字の中心が欠けた形である。

 

4)穴付き傾斜デイスク型一葉弁
Medtronic社製のMedtronic hall弁は屈曲したシャフトを穴付き弁が滑って移動するため弁座に対し直角に弁開放可能であり、非常に大きな有効弁口面積を確保できる利点がある。動画で見ると弁葉が左室内へ飛び込んでくるようにも見え、弁座に対し垂直の弁とその間を抜ける2本の主流が特色である。また、弁閉鎖時には弁座の直上にシャフトの反射エコーを認める。この弁は中心に穴があるため、収縮期にはその穴から逆流がみられる。これは弁の穴につこうとする血栓を洗い流す目的があり、人工弁不全ではない。

 

5)二葉弁
二葉弁の代表はSt. Jude Medical弁である。この弁は2つの半月型の弁葉が内向けに弁座に対しほぼ垂直に(最大開放角は85度)折れるように開放する。その動きは横から見るとバスケット選手の足の動きににておりpivotと呼ばれる。特色は閉鎖時にV字型になることと、開放時は弁座にほぼ垂直の短い2つの弁葉が観察され、2本の主流とその間に1本の副流が観察されることである。これは傍胸骨断面でよりよく観察可能であるが、心尖部断面では1-2本の主流として観察されることが多い。また、閉鎖時の弁形態も心尖部断面では弁座の下に高輝度エコーが出現するように見えることが多い。SJM弁は二葉弁のため人工弁機能不全が生じても致命的になりにくく、特筆すべき血行動態をもつため1977年の登場以後愛用されている弁である。Pivotの軸であるcavity部分から生理的な逆流を認める。同様の弁としCarbomedicus弁(開放角78度)、Edwards TEKNA弁(開放角73度)、ATS medical弁, Bicardon弁がある。

 

 

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