マサやん1
カズくん1
リュ―ちゃん
マサやん1
マサやん2
アキっち
カズくん2
終わりに
『せぇーの!』
『せぇーの!』製作委員会

「……暑いなぁ」
「暑いって言うな。言ったら余計に暑くなるんだから」
 俺の呟きに、カズくんが返す。
 今日はいつもより暑く感じる。
 日差しを避けるように基地へ逃げ込んだものの、中は蒸していて外より暑かった。
 明らかに失敗だ。
 ただじっとしているだけでも汗が噴き出してくるのだから、たまったものじゃない。
 他人からしてみれば、我慢大会か何かしているのではないかと思われても仕方が無い。
「マサやん、何か面白い事を言ってくれよ」
 カズくんは俺に笑い話を促してくる。
 せめて笑って暑さを吹き飛ばそうという考えなんだろう。
 面白い事好きな人間が必ずしも面白い話が出来るとは限らない。
 だけど、俺は何とか煮詰まっている頭をフル回転させて面白いことを言おうとしていた。
 そこに、
「おーい。カズくん、マサやん」
 基地の外から聞こえてきたのはアキっちとリューちゃんの声だった。
 すぐに二人が基地の中に駆け込んでくる。
 走ってきたのだろうか、肩で息をしている。
「おう、どうしたんだ?」
 額から流れる汗を腕で拭いながら、アキっちが話す。
「あんまり暑いからさ、俺、神社の回りに何か無いか調べてたんだ」
 興奮しているアキっちの口ぶりに俺は勿論、カズくんも頷いて聞いている。
「そしたら、凄ぇもんを見つけたんだ。何があったと思う?」
 なにを見つけてきたのだろうか。
 勿論、判るはずもなく、俺たちは首を横に振った。
 すると、アキっちは大発表でもするかのように言った。
「なんと、池を発見したんだ」
「池?」
 カズくんと俺の声が、思わずハモった。
「そう。神社の裏に大きな池があるんだよ」
 それは、本当に大発表だった。
 何故なら、俺たちが作った基地の近くに、そのような場所があった事なんて気付かなかった。
「だから、これから泳ぎに行かないか?」
 こんな暑い日に、池を見つけた。
 となれば、泳ぐという発想に行き着いても可笑しくはない。
「いいな、それ」
「よし、行こうか」
 そうなれば決まるのは早い。
 俺たちは基地を出て、池へと向かった。
 神社の裏、林の影に隠れた所にそれはあった。
 なるほど、これならば気付かなくても仕方がない。
「これは凄いな」
 思わず俺が呟く。
 池の大きさは学校のプールか、それ以上くらいはあったからだ。
「よっしゃー、一番乗り」
 そう喚いて最初に池に飛び込んだのは、アキっちだった。
 続いてカズくん、俺と次々に池に飛び込んでいく。
 水着なんて当然あるわけもなく、皆パンツ一丁だ。
 水は限りなく透明に近く綺麗で、思いのほか冷たかった。
 さっきまでサウナ同然の場所にいただけに、なんとも生き返った気分になる。
「うひー、気持ち良いなぁ」
 そう言いながら、俺の前を通りすぎるのはアキっちだった。
 まるで魚みたいにスイスイと泳いでいる。
 アキっちはクラスの中で一番泳ぎが得意だ。
 そういえば、中学に上がったら水泳部に入るって言ってたっけ。
 その後をカズくんがクロールで追いかける。
 とりあえず俺は背泳ぎで気楽に泳ごうとした。
 しかし、メンバーが一人足りないことに気付く。
 それはすぐに判った。
 視界の端に、リューちゃんがいた。
 まだ服を着たままで岸に立ち尽くしている。
 何故か冴えない顔をしているように見えるのは、俺の気の所為だろうか。
「おーい、リューちゃん。お前も入れよ」
 俺が声を掛ける前に、アキっちがリューちゃんに呼びかける。
「ぼ、僕は……いいよ」
 しかしリューちゃんは池に入ろうとしない。
「もの凄く気持ち良いから、入ってこいよ」
 カズくんの勧めでも、やはり入ろうとしない。
 一体、どうしたのだろうか。
「おい、マサやん。ちょっと手伝え」
 と、そこにアキっちが言い寄ってきた。
 言われるままに、俺はアキっちの後に付いていく。
 岸に上がってリューちゃんを挟むように立つ。
 そこで、アキっちが考えていることに気付く。
 面白い事が好きな俺にとっては、ここまで来たら止められない。
「それっ、いくぞ」
 アキっちの合図で俺も動く。
「やめろよぉ、やめ……うわっ」
 服を脱がせたリューちゃんを、俺とアキっちがいっしょに抱えて池へとなだれ込む。
 大きい音と水飛沫が周囲に広がる。
「よっしゃ、作戦成功」
「イェイ」
 アキっちと俺がハイタッチをする。
 しかし、いきなり目の前で暴れているリューちゃんを見てアキっちが、
「ほら、見ろって。リューちゃんも喜んでいるぞ」
「どうだ、気持ち良いだろう?」
 だが、リューちゃんは何も言わずにただただ水の中でもがいていた。
 なんか、様子がおかしい。
「もしかして、リューちゃん……泳げないんじゃあ」
 異変に気付いたカズくんが呟くように言った。すると、リューちゃんが助けを求めてきた。リューちゃんは、溺れていたのだ。
「おいおい、マジか?」
「リューちゃん、しっかりしろ」
 パニック状態になったリューちゃんを俺とアキっちで助ける。
「おい、大丈夫か?」
 溺れさせた張本人が言うのもなんだが、俺が声を掛ける。
 カズくんもアキっちも心配そうな顔をしている。
「……僕、カナヅチなんだよ」
 リューちゃんが言った。
 これで最後まで池に入るのを渋った理由が判った。
「なんだ。言ってくれれば良かったのに。そうすれば、この二人も無茶はしなかっただろうさ」
 カズくんがそう言って、俺とアキっちを注意する。
「ごめんな、リューちゃん」
 二人して謝って許してもらうことで、この場は丸く納まった。
 その後、俺たちは夕方近くまで池で遊んだ。
 しかし、次の日。
「あれ、リューちゃんはどうしたんだ?」
 基地に入ってきたものの、中にはカズくんとアキっちしかいなかった。
「ああ、まだ来てないな」
「昼までには来るんじゃないかな」
 二人がそう言うので、俺もリューちゃんが来るのを遊びながら待った。
 ところが、昼になっても三時を過ぎても、リューちゃんは基地に来なかった。
「どうしたんだろう。リューちゃん来ないな」
「ちょっと心配だな。よし、リューちゃんちに行こう」
 俺とアキっちの不安を知ってくれたカズくんが提案し、皆でリューちゃんの家へと向かった。
 すると、リューちゃんは風邪をひいてしまったようなのだ。
 どうやら昨日の水浴びが原因らしい。
 だったら、原因は俺たちにある。
 見舞いをすると「だから言ったのに」とリューちゃんは呟いていた。
 俺とアキっちは申し訳ない気持ちになったが、風邪自体はそんなに大したものではないようで、一日二日寝れば治ると、リューちゃんのおばさんが言っていた。
 リューちゃんもそんなに責めなかったので、それで俺たちは救われたような気がした。
「それじゃあ、明日来られたら来てくれ」
「待ってるからな」
 俺たち流に励ましてリューちゃんの家を出た。
 外はもう薄暗くなってきている。
「それにしても、リューちゃんがカナヅチだったとはなぁ」
「そうだよね。俺も昨日初めて知ったよ」
 歩きながら、アキっちが言った。
 そういえば、昨日までリューちゃんがカナヅチだったってことを皆は知らなかった。
 意外といえば、意外だ。
「まあ、いいや。明日、リューちゃんが来たら遊ぼうぜ」
 アキっちが、今度は一際大きな声で言う。
 少し複雑な雰囲気を吹き飛ばそうとしているのだろう。
 こういうときのアキっちの機転は助かる。
 カズくんと俺は、その言葉に乗るよう元気良く返した。
「それじゃあな」
 そう言って「解散の十字路」の右側に立ったのはカズくんだった。
 リューちゃん家から自分の家に帰る時は、この十字路で別れる。
 だから付いたアダ名が「解散の十字路」
 カズくんは右路でアキっちは前路、そして俺が左路だ。
「うん、バイバイ」
「また明日な」
 そして、俺たちはそれぞれの帰り道へと解散した。

 余談だが、何故かその晩に俺も風邪をひいた。
 一日遅れ、というのも可笑しな話だが、とにかくひいた。
 しかし、次の日にはすっかり治っていた。
 三六五日、毎日半袖半ズボンというスタイルのお陰だと、俺は思いたい。
 そして後日、基地に改装計画が立ち上がった。
 ダンボールの壁部に幾つか窓のような穴を空けて風通しを良くしたのだ。
 これで、サウナ問題は解決された。

 でも……暑いものは、やっぱり暑かった。