マサやん2
マサやん2
『せぇーの!』
『せぇーの!』製作委員会
「行くぜ、アキっち」
「おう、いつでも来い」
簡単に作ったマウンドから、俺がゴムボールをオーバースローで投げ込む。
すると、アキっちは自分の腕でボールを当てた。
思った以上にボールは飛んで、リューちゃんの頭上を越えて雑木林の手前に落下する。
「わはは、もらったー」
長打を放ったアキっちが笑いながら一塁ベースから二塁ベースへと向かう。
そう、俺たちは三角野球の真っ最中であった。
現在、攻撃しているのはアキっち。投手は俺、リューちゃんは守備だ。
リューちゃんからボールが返ってくる頃には、アキっちはホームインしていた。
アキっちは長打力もある上に足も速い。
「うおっ、速いなぁ」
「あっはっは、これで一点追加だ」
実はアキっちの攻撃は、さっきからずっと続いていたのだ。
俺とリューちゃんが交代して投げているのだが、アキっちはことごと
く打って確実に点を重ねていった結果、今の得点で十五点目となる。
しかし、そんなアキっちもカズくんが投手の時には手も足も出ない。
ならばカズくんが投手をやればいいのだが、そのカズくんが今日はまだ来ていない。
「参った、降参だ」
俺がボールを放り投げて言う。
それにリューちゃんも賛成する。
どうやら、このままアキっちの攻撃が終わらないのではないか、という俺の考えと同じなのであろう。
現に、二人してまだワンアウトも取れていない。
「わはははは、完全勝利だな」
アキっちが高々と勝ち名乗りを挙げた。
それから俺たち三人は、カズくんが来るのを待つために境内で暇潰しをしていた。
と、そんな中、
「……腹が減ったなぁ」
アキっちが言った。
そう言えば、今日はまだ何にも食べてなかった。
気付いてから、急に腹が空いてきた。
「なあ、マサやん。食料が残ってないか調べてきてくれ」
アキっちに言われて、俺は基地に戻って一番奥に仕舞ってある食料箱を調べた。
食料箱には、いつもなにかしら食料が入っているはずだ。
ところが、箱の中身は空だった。
何時の間にか、食料は底を尽いていたようだ。
「駄目だ。何も残ってないな」
戻って報告すると、アキっちは困ったような顔をして腕を組んだ。
俺たちは今、金を持っていない。当然、食料を買うことはできない。
「うーん、どうしようかなぁ」
俺も一緒に考えようとした時だった。
リューちゃんが俺たちを呼んだ。
呼ばれるままに向かうと、リューちゃんは神社の賽銭箱の前に立っていた。
「どうした、リューちゃん?」
「ちょっと、これを見てみなよ」
リューちゃんが賽銭箱の中を見るように促す。
アキっちと同時にその中を見る。
すると、賽銭箱の中には沢山のお金が入っていた。
十円、百円、中には五百円や何と千円札まで入っているのだから驚きだ。
「うわっ、凄ぇ金じゃん」
「えらく儲かってんだな、ここ。やるなぁキレボウズめ」
「ここって、凄い神社だったんだね」
それぞれ驚きの表現で賽銭箱を見つめた。
と、その時アキっちが何か閃いたように手を叩く。
「そうだ、ここの金をパクって食料を買おう」
「あ、それ良いな」
アキっちの案に、俺が賛成する。
だが、リューちゃんは反対だった。
「それは駄目だよ。賽銭を盗んだら怒られちゃうよ」
「良いじゃん、良いじゃん。バレなきゃ大丈夫だって」
「そうだよ。だって、ルパンみたいで面白そうじゃん」
「お、良いね。んじゃ、俺ルパン」
俺のネタにアキっちが乗る。
「うわっ取られた。だったら俺は五衛門」
「んじゃあ、僕は次元だ」
するとリューちゃんも乗ってきた。
なんか自棄みたいに感じるが、まあそれは気にしないようにする。
かくして、賽銭入手作戦は始まった。
「さて、どうするかな」
そうだ、とにかくこの賽銭箱から金を取り出さないと話にならない。
賽銭箱の大きさは、俺たちの身長の半分くらいだ。手を伸ばせば金には手が届く。しかし、それを塞いでいるのが木の格子だった。
「木の枝で救い上げるってのは、どうかな?」
俺が策の一つを言うも、
「でもなぁ、それって時間かかりそうだな」
方法が難しいので敢えなく却下。
「だったらガムテープでくっつけて引き上げるってのは?」
「良い案だと思うけど、どうやってガムテープを用意するんだ?」
それならば、というリューちゃんの意見も、却下になりそうだ。
俺たちは、良い案が浮かばないまま、賽銭箱の前で腕を組んでいた。
「……お前ら、そこで何しているんだ?」
そこに、背後で聞き慣れた声が聞こえてきた。
一瞬、神主のハゲ坊主かと思ったが、そうではない。
後ろを振り返ると、そこにはカズくんが立っていた。
「だから、そこで何してるんだ?」
カズくんが聞いてきたので、俺が説明する。
腹は減ったが金が無いので食料が買えない、ならば賽銭を少し頂戴して食料を買おうかということを全て話した。
事情を判ってくれれば、カズくんも賛成してくれるだろうと期待した。
しかし、返ってきたのは賛成の言葉ではなく、厳しい言葉だった。
「なに馬鹿なことやってるんだ。止めるんだ」
「えっ、なんで? だって食料が……」
「なんでもくそも無い。賽銭盗むってことは犯罪だぞ、犯罪」
「……犯罪」
いつに無いカズくんの剣幕に、俺は勿論アキっちもリューちゃんも驚きを隠せない。
「罪を犯したらなぁ、警察に捕まるんだぞ。そしたら親とかに凄い迷惑がかかるんだ」
カズくんがこんなに怒るところなんか、今までに見たことがない。
多分、アキっちもリューちゃんも同じだろう。
「だから、そんなことは止めるんだ、判ったな?」
カズくんの言葉に、俺たちは素直に頷く。
今頃になって賽銭を盗むということが、とてつもなく大変なことなのだと思い知った。
俺は、急にどうしようもない気持ちになった。
アキっち、リューちゃんも顔を暗くしている。
そんな様子をみていたカズくんが、俺たちに話しかけてくる。
「それで。なんだったっけ、腹が減ってるんだって?」
今度は一転して、優しい声だった。
いつものカズくんの声だった。
俺たちが頷くと、カズくんは「仕方無いなぁ」と呟きながら、
「よし、なら俺が奢ってやるよ」
その一言で、俺たちの顔に笑みが出る。
カズくんを先頭に、俺たちは食料入手の場である白木商店へと向かった。
「もう、二度とあんな事しちゃあ駄目だぞ」
そこで、アキっちは「うまい棒」のタコヤキ味を、リューちゃんはチーズ味を、そして俺はキャラメル味を、それぞれカズくんに奢ってもらった。
カズくんはカズくんでロッテのブルーベリーガムを買って噛んでいる。
腹が減っている俺たちは、すぐさま「うまい棒」に噛りついた。
当然、俺のはキャラメル味だから甘ったるい味が待っていると思っていたが、
「……あれ?」
ふいに声を出てしまった。
何故なら、そんなに甘い味がしなかったからだ。
食べ慣れている訳だからではない。
気の所為かも知れない。
だけど、感じるのだ。
キャラメルの甘い味の他に微かにする、塩味。
そう、その甘いはずの菓子は、確かにしょっぱかった。
恐らく、アキっちとリューちゃんも同じだろう。
多分、この味は忘れないと思う。
その日、俺が基地に行くとカズくんがいた。
カズくんは何かを睨み付けながら渋い顔をしていた。
「あれ、カズくん。どうしたんだ?」
声を掛けると、カズくんはようやく俺の存在に気付く。
「おお、マサやん。おはよう」
「おはよう。いったい、どうしたんだ。そんな顔してさ」
「……実はな」
そう言って、カズくんは段ボールの床の上にあった一枚の紙を拾い上げて、俺に見せる。
見覚えのある紙だった。
一月分のカレンダーを小さくしたようなもので、そのマス目には薄く日付が印刷されている。
そして、一番上に書いてある文字が、この紙の名を表わしていた。
ラジオ体操記録帳。
そう、夏休みの朝の定番といえば、やはりラジオ体操。これはそれの出席表であった。
「これが、どうかしたの?」
「今日の分が抜けてるんだ」
最初、何のことを言っているのか判らなかったが、表の内容を見てようやく理解する。
見るところ、現在カズくんは今日の二十五日まで出席のスタンプが押されている。
俺たちのところでは、学校の校庭に集まってラジオ体操をし、解散の時にその日の分のスタンプを一個押してくれる、というものだ。
全部スタンプを集めれば、何かが貰えるという訳ではないが、やはり自慢できるし、なによりカッコイイと思う。
そしてカズくんの言う通り、カズくんのスタンプカードには二十五日、つまり今日の所だけスタンプが押されていない。
「今日はたまたま朝から用事があって行けなかったんだよ。でも、そういうのってさ、物凄く悔しいんだよな」
「ああ、判る判る」
カズくんがしっかり者で真面目な性格ということは誰もが知っている。
だから、ラジオ体操の出席にこだわっても不思議じゃない。
ましてや、今まで順調にスタンプが貯まっていたのに一つだけ抜けてしまったのならば尚更だ。
そういう相槌を打っている俺だが、恥ずかしい話、実はまったくといっていいほどラジオ体操には顔を出していない。
大抵寝坊してしまうもんだから、スタンプといえば初日と二日目しか押されていない。
「あーあ、密かに皆勤賞狙ってたのになぁ」
返したスタンプカードを床に放ってカズくんは天を仰いだ。
なんとも悔しそうな表情だ。
いや、実際に悔しいのかもしれない。
「うぃーっす」
「おはよー」
その時、勢い良く基地に入ってきたのはアキっちとリューちゃんだった。
「あれ? カズくんはなんであんな顔をしてるんだ?」
カズくんの顰めっ面を見て、案の定アキっちが聞いてきた。
「実はさ……」
俺は、これ迄の経緯を二人に話した。
カズくんはラジオ体操の皆勤賞を狙っていてスタンプを集めていたが、一日だけ用事で出られなかった、ということを簡単に説明した。
「ああ、なるほどなるほど。判るなぁ」
アキっちが腕組みしながら頷く。
しかし、俺が言えることではないがアキっちもまちまちにしか出席していなかったのを思い出す。 二〜三日前に見せてもらったのだが、まるでテストに出てくる虫食い問題のようだった。
「う〜ん、悔しいなぁ」
まだ悔しさが解消されないらしい、カズくんはもう一度唸った。
「どうにかならないもんかなぁ」
腕を組んで、再びスタンプカードと睨み合う。
いくら睨んでも、二十五日の欄にスタンプはつかない。
でも、その気持ちは判らなくもない。
「……あ」
そこに、リューちゃんが唐突に声を出した。
「どした、リューちゃん?」
アキっちが向き直る。
「そういえば、ラジオ体操のスタンプ係って僕のお父さんだってことを思い出したんだ」
「それがどうかしたのか?」
「だから、お父さんが出席のスタンプを持っているってことなんだよ」
「え、それってつまり」
頭になにか閃いた俺は口にした。するとリューちゃんが頷く。
「うん。こっそりスタンプを持ってきて押しちゃえばいいんだ」
「そんなこと、出来るのか?」
アキっちが身を乗り出してリューちゃんに聞き返す。
なんか面白い匂いでも嗅ぎつけたのだろうか。
「スタンプはいつもテレビの上に置いてあるんだ。だから多分、大丈夫だと思うよ」
それを聞いていたカズくんが、さらに渋い顔をした。
どうやら今度は「どうすればスタンプは増えるか」というより「勝手に持ち出して、そのスタンプを押しても良いものなのだろうか」という内容に変わっているようだった。
根が真面目なだけに、こういうことに対しては物凄く考えてしまうのだろう。
しかし、意外な方法で、しかも簡単にスタンプが増えるという誘惑には勝てなかったようだ。
「……リューちゃん、お願いできるか?」
カズくんがリューちゃんを見ると、リューちゃんは「まかせてよ」と言った。
「おお、リューちゃんカッコイイぞ」
アキっちが囃し立てる。
「じゃあ、見つからないように取ってくるね」
そう言い残して、リューちゃんは基地から出ていった。
三十分後、ようやくにしてリューちゃんが戻ってきた。
手に小さな物を握り締めていた。おそらく、それがスタンプだろう。
「おお、でかしたリューちゃん」
リューちゃんの帰りを今か今かと待ち望んでいた俺たちは迎え入れた。
その中でも、アキっちが一番嬉しそうだ。何故だろう。
「じゃあ、押そうか」
リューちゃんがスタンプを持ち直してカズくんに言った。
「うん。頼むよ」
カズくんがスタンプカードをリューちゃんの前に差し出す。
リューちゃんがスタンプカードの二十五日の欄にスタンプを押し当てる。
すると二十五日の欄に、くっきりとスタンプの印が刻まれた。
「おおー」
一同、訳も判らず感嘆の声を出す。
「良いじゃん、良いじゃん」
「ああ、ありがとな、リューちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
カズくんの礼に、リューちゃんが笑顔になる。
「どうせなら、俺達のスタンプにも押さないか?」
そこにアキっちが提案する。
「折角、スタンプがここにあるんだ。使わなきゃ勿体無いじゃないか」
「そういや、そうだよなぁ」
思わず、アキっちの思惑に俺が乗る。
「うーん……それはどうだろう」
リューちゃんの顔が途端に曇る。
「なんで?」
「だって、アキっちのはてんでバラバラじゃないか。それに全部押すって無理だよ。ましてやマサやんのなんかもっと無理だと思う」
リューちゃんも、意外とこういった行事には積極的な方で、ほぼ毎日出席している。
朝に強いというのは、なんともうらやましい話だ。
リューちゃんは、スタンプを押すことに反対したが、ここまできたらやるしかないだろう。
「よっしゃ、決定ということで、俺今からカード取ってくる」
「じゃ、俺も」
アキっちと俺は、スタンプカードを取りに家へと戻った。
「じゃあ、押すぞ」
まずは、アキっちのカードから押していくことに。
歯抜け部分の空欄が次々とスタンプ印で埋められていく。
「次はマサやんだな。カード出してくれ」
俺のカードをアキっちに渡す。
やはり、初日と二日目だけしか押されておらず、あとは今日まで空欄が続いている。
「じゃ、行くよ」
アキっちがそう言うと、俺のスタンプカードにすごい早さでスタンプを押していく。
トントントン、とまるでドラマに出てくるサラリーマンが書類の束にハンコを押しているみたいだった。
もしくは高橋名人級の十六連射を真似したものかもしれない。
あっという間に、俺のカードにもスタンプ印で埋め尽くされた。
「ほいっ、一丁あがりっと」
こうして二人のカードにもスタンプが押されて、四人全員がラジオ体操に全日出席したことになった。
あくまでもアキっちと俺は、明らかな反則だけど、とりあえずは万事オッケーだろう。
「よーし、これでもう心配事は無くなった。遊ぼうぜ」
アキっちが明るく言う。
……心配してたのか?
「そうだな、遊ぶか」
カズくんもアキっちに続いて基地を出る。
リューちゃんと俺が出ようとした時、俺があることに気づく。
「なあ、リューちゃん。あとそのスタンプを元あった所に返すだけなんだけど、大丈夫なの?」
「うん。お父さんは仕事だから夜まで帰ってこない。多分、大丈夫だと思うよ」
「そうなんだ。それなら気をつけて戻しておいてよ」
「判ったよ」
これで大丈夫だと、ある意味確信に近いものが俺の中にあった。
アキっちではないが、これで心配が無くなったと思った俺たちは、いつも通り日が暮れるまで遊んだ。
しかし、次の日。
スタンプカードに勝手に印を押したということがバレて俺とアキっち、そしてスタンプを持ち出したリューちゃんが、それぞれの親に叱られたのだ。
何故、バレてしまったのか。
リューちゃんはお父さんに判らないように持ち出した後、元の場所に返したはずだ。
まさに完璧だった。
ところが、これには俺たちには思いもよらない大きな落とし穴があった。
実はカードを押していたスタンプには、日にちが変えられるように仕掛けがあったのだ。
つまりどういうことかというと、俺たちが空欄に押したスタンプには二十五日の印が沢山押されているということになる。
その日、俺たち三人はこれ以上ないくらいにこってりと絞られて遊ぶどころじゃなかった。
今回、もっとも得をしたのはカズくんだった。
出席出来なかった二十五日にだけ二十五日の印を押したのだから、当然何も言われなかった。
明日からは、残りの日くらいは真面目に起きてラジオ体操に行こう。
反省というわけではないが、何故かそう思った。
その日は、なんとなく……本当になんとなくだが、基地に行く足取りは重かった。
何故かは判っている。
それでも、今日は絶対に行かなくてはならない。
俺たちの、あの秘密の基地に。
いつもより倍の時間をかけて神社に着く。
そこにはカズくん、アキっち、リューちゃんが既にいた。
「おう、マサやん」
「遅いよ」
「早くこっちに来いよ」
いつものように、皆が迎えてくれた。
でも、このように朝っぱらから会えるのも今日までなんだと思うと、心なしか気分が乗らない。
「どうしたんだよ、しょぼくれた顔して」
「マサやんらしくないね」
それは顔にも出ていたらしい、カズくんが心配して声を掛ける。
「なんでもないよ。なんでもないんだけどね」
しかし、これ以上皆のテンションをいたずらに下げても意味が無い。
「夏休みも今日までなんだなって思うと、さぁ」
俺は、ついに言った。
すると、三人は思い出したように口を開く。
「あっ、そうだったっけか?」
「そうだよ、明日からまた学校だよ」
「すっかり忘れてたな」
俺の一言が引き金になってしまったのだろう、三人の顔も困ったような表情をしている。
「ごめん。でもさ、どうしても気になっちゃって」
ついつい、悪い気になってしまったので俺は素直に謝った。
「バーカ、なに謝ってんだよ」
「そうだよ、マサやんが謝ることないよ」
アキっちとリューちゃんが言ってくれる。そしてカズくんも、
「第一さ、夏休みが終わっても学校で会えるじゃないか」
「そうだね。そういえば、そうだった」
思えば、勘違いをしていた。
学校が始まることで、もう皆とは会えなくなってしまうのではないかという不安を勝手に持ってしまっていたのだ。
でも、それは違うということを知って、俺は不思議と嬉しくなった。
「じゃあ、話がまとまったところで……遊びますか」
アキっちがテンションを上げようとして、わざと気楽に言う。
前にも思ったが、こういう時のアキっちは、本当に助かる。
「そうだね、なにして遊ぼうか」
こうして、俺たちは遊ぶことにした。
今日で夏休みが終わるから、という訳ではない。
でも、今日はとことん遊んだ。
缶蹴り、三角野球、チャンバラ、など色々。
遊びのネタが出尽くすまで、俺たちは遊びまくった。
そして、俺たちがクタクタになる頃には、日は暮れようとしていた。
「ふえぇ、疲れたなぁ」
「もう、動けないよ」
基地の中で大の字になりながら、それぞれが疲労の音を口にする。
しかし、皆の顔は満足に満ち溢れていた。
俺も、今日はもう体力の限界まで遊べて満足だった。
「……明日から学校か」
カズくんが呟くように言った。
「そうだね、こうやって朝から遊ぶことは出来ないもんね」
「ちっくしょう、ずっと夏休みだったらいいのになぁ」
アキっちがボヤく。それには俺も賛成だった。
でもカズくんに「なに言ってやがる」と突っ込まれて苦笑した。
同じ考えだった俺も思わず笑みがこぼれた。
「あっ、じゃあさ、ここってどうなるの?」
ふと、リューちゃんが、この基地のことを話題に挙げた。
「そうだなぁ、どうしようか」
皆、口にはしないが大体は判っていた。
「ならさ、また、ここに集まるってのはどうだ?」
「あ、それ賛成」
「僕も」
カズくんの提案に、アキっちとリューちゃん、そして俺は賛成の意を表した。
「無くならないって、ここはよ」
カズくんが、起き上がって右手を皆の前に差し出した。
その動作の意味を俺は直ぐ様理解した。
多分、アキっちとリューちゃんにも判ったはずだ。
残った俺たちは、次々とカズくんの手に自分の手を重ねていく。
「へへっ、良いな、コレ」
「うん、なんか良いね」
それぞれ、気恥ずかしいなにかを感じながらも置いた手は、しっかりと力が入っていた。
「じゃあ、またここで会おう」
カズくんが言った。
俺たちが応じる。
こうして、この基地に再び集まることを約束して俺たちはそれぞれの帰路についた。