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僕、未来来人(みきらいと)が交通事故に遭って死んだのは25歳の秋のことだった。 淡々と葬儀があげられ、その身体は消滅した。 絶望の淵に立たされ、とりとめのない気持ちで悲しみに包まれた母親がそこにいた。「らいと、らいと、目を覚まして、家だよ、いつもみたいに面白いこと言ってみんなをわらわせてよ。」泣きじゃくり、叫びつづけていた。 数日が経ち、いつもの日々が訪れようとしていたある日のこと、母とみ江は新聞を目にした。そこには"DNAによるクローン人間の復元に成功〜それは神への冒涜か〜"と書かれていた。とみ江はこれぞとばかりその研究所へ駆け込んだ。来人の部屋から採取した髪の毛一本を手にして。 研究所ではもちろんとりあってくれなかった。が、毎日通いつめるその姿を見て水口教授は根負けした。「研究の一環として極秘に進める。結果がどうであろうと私達に依存していただけますね。」とみ江は大きく頷き一任した。 「お母さんうまくいきましたよ。来人君のクローンが出来上がりました。どこからどう見てもお亡くなりになられた時のままの25歳の姿です。」 たった2週間で来人のクローンは完成した。姿形、しわからほくろまでそれはまさに彼そのものだった。 「来人、家へ帰りましょう。」とみ江はベッドに横たわる来人を抱き起こし家に連れて帰ろうとした。しかし、水口教授に拒まれた。「お母さん待ってください。彼は確かに来人君ですが、彼はただの殻でしかありません、心、すなわち記憶といったものが全くありません。生まれたばかりの赤ん坊に過ぎないのですよ。実は私どもの極秘研究はこれからなのです。」教授はヘルメットとパソコンを取り出した。「この装置はまだ未完成なのですが、これによって記憶を肉体に植え付けることができるのです。思い通りのお子さんに生まれ変われますよ。」とみ江は少し考えて結論をだした。「今までの来人をもう一度私が作り上げます。」その日から膨大な情報収集がはじまった。 来人の友人ひとりひとりに声をかけ、来人に関するみんなの記憶、そう、誰にも知られたくないはずの趣味まで探し出しては、コンピュータに入力していった。幼稚園、小学校ありとあらゆる関係をもった人々に対して何度も何度も足を運び、癖や、しゃべり方、一日の出来事を入力した。そして、死んだ日までの記憶を入力し終えた。もちろん事故に遭ったということは省いて。 「完成ですね。お母さん、さあ今から目覚めさせますよ。」とみ江はいてもたってもいられない気持ちで目を覚ますのを待った。 「う、ん?あれ?ここはどこだ?」 「来人わかるかい?お母さんだよ!!!」 「え?誰?なに言ってるんですか?」 「なにって私だよお母さんだよ!お・か・あ・さ・ん」 「またまたぁ。ご冗談を。家のおかんはそんなに老けた白髪のおばあさんじゃないよぉ。22の時に僕を生んだからまだ47歳だよ。びっくりさせないでください。」 そう、とみ江は情報収集したものはいいがその年月も計算に入れてなかったため30年 も経過してしまっていたのだ。もちろん教授は知っていた。 この現代の浦島太郎をさらに研究材料とするために。 おわり |