| ふたつの柱時計 とある街中にこじんまりとした時計屋があった。そこでは男の老人がひとりで店をきりもりしている。そこへひとりの客が現れて「あれをください。」と壁にかかっているひとつの柱時計を指差した。その柱時計はいびつでおかしな形をしているがどの時計よりもひときわ魅力を放っていた。しかし老人は横に首を振った。「あれは売り物ではないんですよ。」 店を閉め椅子に座る老人。視線の先にはあの時計があった。瞳の奥であの頃のことを思い出していた。 降りしきる雨の中、白髪混じりの初老の男が道を歩いているとガラクタのごみの中にその時計はあった。ぼろぼろに壊れ果てていたその月の形をした柱時計は捨てられた子猫のように、そう、「私を拾ってください。」と今にも言わんばかりに男を見つめていた。男はその時計を大事そうに両手で抱えると自分の店へ持って帰った。 店にはおびただしい数の時計があり、その中には太陽の形をした柱時計が店の一番奥で壁にかけられていた。月の形をした時計は修理され、その横に一緒に並べられた。 ある日のこと、店にやってきた客が月の形をした時計にひかれ、それは売られていった。主人が太陽の時計に向かってこう言った。「またお前もわしと同じでひとりぼっちになっちまったな。」数日もしないうちにまた同じ客が現れ柱時計を手に持ち、怒りを浮かべて「動かなくなった。」といい、返品して帰っていった。ネジを巻きなおしたり、わるいところはないかとひとつひとつ部品を調べなおしたがまったく異常はなかった。そしてまた太陽の形をした柱時計の隣に並べられた。 太陽は全く売れないのだが、月は売られては返される、返されては売られる、といったことが何度も繰り返された。もう何年続いただろうか? 真夜中のこと、何かが地面に叩きつけられるようなガシャンという激しい音がして、眠っていた主人が駆けつけると太陽の時計が壁から落ち、見るも無残な形になっていた。ひと目で修復は不可能だと判った。壁には月の時計がその時刻を示したまま止まっていた。 椅子に腰をかけた老人が何かを見つめている視線の先には、そう、あの太陽と月がひとつに修復されたいびつな時計。老人はにっこり微笑むとゆっくりとまぶたを閉じていった。遠のく意識のなかでかすかに聞こえてくるものがあった。 君と僕は柱時計 形は違うけど同じ時を刻んでいる でも本当は重なり合って一緒にひとつの時を表したい・・・・ おしまい |