第七十八回 お題:「恩返し」
チャンプ作品
しいな まほろ ◆tYbIWmaS5o
306 名前:猫の恩返し(一) 投稿日:04/10/07 11:20:35 ID:f9we4SyM

道路の真ん中で轢かれている猫のうち 
生きているのを一匹だけ拾った 
威嚇するのにやすやすと 
車の助手席にのせられた 

紅茶みたいな色の猫だった 
傷はどこにもないのに立てないのは 
わたしがこの間失恋したのに似ていた 
毛布を敷きつめた段ボール箱に入れて 
逃げないようしっかりと蓋をした 

御飯を食べないので 
抱っこして顎の下を撫でてやった 
ミルクも飲まないので 
底に俯せた頭を撫でてやった 
そのうちひとりにしてやると 
皿の食事が減っているようになった 

名前はつけなかった 
この間別れたばかりの大好きだったひとの 
その名前さえすぐにはいえないほどに 
わたしは裸だったので 
わたしにはその時名前がなかった 
それでも猫という名前だけは消えなくて 
寝る前にはいつも笑顔で唱えるようになった 

猫、おやすみ 




307 名前:猫の恩返し(二) 投稿日:04/10/07 11:21:19 ID:f9we4SyM

猫はすぐに元気になった 
元気になったはずだった 
わたしに抱かれてゴロゴロと 
喉を鳴らすのだがそればかりで 
歩こうとしないのだ 
段ボール箱の上の分厚い本を除けて 
蓋を開いてみればいつでも隅っこでうずくまっている 
まだ元気じゃないの、猫? 
わたしの言葉が通じないように壁を見ている 
抱き上げても死体みたいに硬い 
ずっとおしっこをしていない 
それでも連れ出してみようと思ったのは 
食事がすべてなくなっているようになったので 

メスだとばかり思っていたら 
車にのせてよく見るとオスだった 
弱っている猫の二つ玉はしぼむものなのだろうか 
こんないい天気の日には 
猫もきっと歩くだろう 
死体みたいな毛に命よみがえらせて 
そしてお前の故郷だよ 
ほら 
お前の轢かれていた場所 
そっと頭を撫でてやる 
アスファルトに置いた猫は 
わたしの顔に恐怖の色を投げつけて 
飛ぶスピードで逃げて行った 
民家の裏に見えなくなった 




308 名前:猫の恩返し(三) 投稿日:04/10/07 11:22:10 ID:f9we4SyM

猫、猫 
お前に名前をつけておけばよかった 
世界中のどこにお前がいても 
わたしはただ一匹のお前を呼ぶことができたのに 

淋しい気持ちは束の間を襲う 
それを過ぎたらなんてことはない 
通り縋りの猫 

助けたかったから助けただけの猫よ 
ありがとう 

 

チャンプ作品に対する批評

ななほし ◆lYiSp4aok. 
1点
よくわからない所があるが、それでいいような気もする。癒しになって 
……それが恩返し? 意識するとき価値があり、意識なければ価値も無し?? 

イタチ小僧 ◆8rr1u/54T2
1点 
猫が適役。恩知らずな猫は本当に恩知らずか。じゃあ犬は恩って言葉の意味知ってるのか。 
世界は無意味だということを改めて教えてくれた猫にありがとうといえる強さ。 
失恋した君でもこれなら心配ないね。でも饒舌すぎるよ。 
ちなみに俺の飼ってた犬は、俺が死にかかってる時に近くを通りかかった知らない人と遊んでた。 

GON ◆rOo2fYBBKk
1点
原型は小説だけど織り交ぜた比喩と最終連で詩になっている。 
女性が私は裸だったとか二つ玉と言うだけでなんか雰囲気出る。ずるい。 


園川 ◆nWfXpQxHHM 
3点
素晴らしいなあ!!って感じ。破綻もない。過不足ない。
しかし猫との別れにもう1クッション事件があっても良かった。くれぐれもあざとくならぬ様。 

Canopus ◆DYj1h.j3e.
1点
猫は三日たつと恩を忘れるつーのは大ウソで、親子関係と師弟関係 
は、それはそれは大事にします。子猫がどうしてなつかなかったのか不思議で 
すが、それはお互いに通りすがりの関係であろうとしたのかなあ、と勝手な感想。 

Alnite ◆m3UVuKrnck
2点
話題性のあるタイトルにひきつけられて読んだ。 
ストーリーはおもしろいと思う。こういう心温まる感じ、嫌いじゃない。 
実際恩返しされてないのに恩返しされているようになっているのもまた良いと思う。 
ただ、どっちかというとポエムというよりスキットかな。展開はそんなに非凡じゃない。 

 

 

 

 


 

準チャンプ作品
脚立 ◆kT2/I1/dj.
351 名前:脱水少女 投稿日:04/10/12 05:11:58 ID:zdK/yh8S

僕といっしょに住んでる少女は、 
仕事もしないし家事もしない。 
彼女がなぜ一緒に住んでるのかはわからない。 
同棲してると言う風に世間では見られるかもしれないが、 
僕は彼女が住むのを許可した覚えはないし、 
そもそも恋人同士じゃないのだ。 
みだらな関係とかいう、そこまでいいものですらない。 
なんだかわからない状態で娘は住んでる。 

仕事もしない、家事もしない。 
食事はしてるのかわからない。 
すくなくとも見たことはない。 
寝るときだけ同じ布団で寝る。 
ただ眠るだけなのだけども。 

それでも彼女は一つだけ、僕の為にしてくれることがある。 
僕のうちの洗濯機には脱水機能がついていない。 
洗濯物がびしょびしょのままで放置されるのを、 
一生懸命しぼってくれる。 
ただそれだけの彼女はいわゆる脱水少女だ。 

脱水少女との生活で、なにも不自由することはないので、 
このまま続けていこうかと思う。 

僕に恋人ができるまで。