第八十四回 お題:「ギター」
チャンプ作品
 ◆ACMASyU/iM 
269 名前:メンソール・ギター・メンソール 1/2 投稿日:04/12/16 03:57:35 ID:JgJDI00F

何ド 
も弦の替え方を教えてもらったけど、君に 
何ド 
もそのやり方を忘れてしまう 
鼻歌ばかりが耳に残って 
容易く弦を操る両手の動きを 
紫煙フィルター越しに眺めていた 

睫毛にかかる前髪や 
その奥の伏せた瞳や 
中心にある整った鼻の造形や 
かかる息の温度 
メンソールを加えた唇に 
頼りない背中が 
EになってAになってDになってGになってBになってEになって 
を、繰り返し 
ソレラ全てが私の聴覚に伝わる 
のは、気のせいではなかった 
けれど、 



270 名前:メンソール・ギター・メンソール 2/2 投稿日:04/12/16 03:57:56 ID:JgJDI00F

そのうち 
もしも、を考えるようになってしまった私は 
弦の替え方を覚えることを拒絶した 
灰皿にメンソールが積もって 
抱えきれなくなるころに 
必ず切れ 
た、安物ギターの六弦 
は、 
ちゅう 
にんぐも効かなくなってメン ソォー 
ルルルルルルルルルルるるるルるるルルルルルルルルルる・・・ 
の変わりに埃を積もらせ 
た 

もシもきミがいなくなレばこのげんをかえるのはわたシシかいないか 
ララララララララララらララらららら 
らんらんらん 

らん 

結局ド・忘れしたまま切れた弦を 
そのままにして君はいないから 
せめてと吸い込んだメンソールの匂いで 
私のギターが静かに眠る 
そのたび密かな音を奏でて 
君が持っていたEとAとDとGとBとE 
も 
私の中で錆びていつか切 
レ 
る                   る           る。 

 

チャンプ作品に対する批評

Canopus ◆DYj1h.j3e.
2点 
ギターそのもの、というよりも、ギターを含んだことばと情感、といった印象 
だけど、独特のリズム感が心地よかったです。

葉土 ◆Rain/1Ex.w 
2点
独特のリズムがいい。 

MUJINA ◆iXws.WGCLY
1点
 変則改行に惹かれた。一行の長短や不規則な行の切り方は独特のリズムを生んでいる。 
それが、ギターというお題の音楽性をうまく引き出している。 
メンソールのほのかな香りが甘い恋の記憶と重なって陶酔を誘う―― 
というところなんだけれども、私はもうひとつ酔いきれなかった。途中の 
「るるる」「ららら」は技巧上のごまかしのように感じられて、酔いがちょっと 
冷めてしまったのかもしれない。「ソレら全て」「切レる」など、独特の仮名表記など 
いいところをたくさん持っている詩であることには違いない。 

 

 

 

 


 

準チャンプ作品
MUJINA ◆iXws.WGCLY
254 名前:新カタロニア賛歌―1 投稿日:04/12/12 14:26:20 ID:bZRU7Piz

乾いた土くれを巻き上げながら 
ファシストどもが駆け抜けた大地を 
風が吹く 
神がその容姿には不釣合いに大きな喉仏を震わせて 
低く口笛を吹く 
その息吹が風になるなら 
偶像崇拝を嫌う回教徒どもも踏み荒らしたこの地の神は 
さだめし顔のない神にちがいない 
驢馬が食む草ひとつかみさえ生えない荒野を 
従者ひとり連れ 
俺は旅をする 
サンチョパンサの弾くギターは 
間の抜けた旋律を奏でる 
調律が合っていないのはいつものことだ 
俺は穴の空いたポケットの底をまさぐって 
無くした1ペソ銀貨を探すのに忙しく 
調べに耳を貸そうともしない 
異郷の地にあって 
それがララバイの哀調を帯びているというのに 



255 名前:新カタロニア賛歌―2 投稿日:04/12/12 14:38:23 ID:bZRU7Piz

俺の行く手には 
魚眼レンズで覗いたような球形の大地 
あの千の丘を越えたその先に 
俺の目指す街がある 
そこに住む人々は 
完成の充実を知らない性癖の持ち主で 
住居はいつもあちこち作り変え 
訪ねるたびに玄関の位置が違っているという有り様 
だから子供も多い 
作りかけてはまた次の子を産む 
それだから気付いてみれば家じゅう子供だらけ 
ベッドやらソファーやら至るところ 
子供で溢れかえっている 
そんな具合で 
神様の住みかの教会も普請中 
クレーンのアームに負けじと 
阿弗利加の白蟻の巣にも似た黄褐色の尖塔が 
幾つも天を突く 
俺はその教会でこれまでの人生の 
ありったけの懺悔をしようと思う 
失くしたものへの悔悟と神のご加護をアーメン 


256 名前:新カタロニア賛歌―3 投稿日:04/12/12 14:52:48 ID:bZRU7Piz

塔の前に立つとき 
奴の弾くギターの和音は 
にわかに転調する 
物に憑かれたように 
従者は六本の指でアルペジオを爪弾くだろう 
珍しくも調律は天上の音階をピタリ探し当てている 
そして俺もこの地の神に劣らず不恰好な喉仏を震わせて 
場違いのカンツォーネでもひとくさり歌ってみるか 

音楽はときを育み 
ときは熟し 
全ての果実の実は熟し 
それを啄む鳥はあらゆる樹木に群がり 
その鳥を狙う猛禽類は空を覆い尽くして太陽を遮る 
銃を手にしたハンターたちの銃声が祝砲のようにこだまする 
女房たちは 
十本の手で子供たちをあやし 
別の十本の手で落ちた鳥たちを拾い集める 
その獲物で今晩のスープを作る 
鳥の足だけ上からはみ出した大鍋が湯気を立てている 
その足に混じってギターの糸巻きと指板が見える 
さっきから従者の姿が見当たらないところからすると 
鳥と一緒に煮込まれちまったらしい 


257 名前:新カタロニア賛歌―最終章 投稿日:04/12/12 15:03:27 ID:bZRU7Piz

いつもの癖で 
俺はポケットの中身を片手で確かめる 
いつの間にかポケットいっぱいに増えている銀貨の感触に 
愉悦を隠しきれない 
俺はファシスト髭の顔をくしゃくしゃにして笑みを浮かべながら 
天に向かってひたすら増殖する生命の塔を 
嘆息をまじえて見上げるだろう 
そして祈る 

神よ 
カタロニアの大地よ 
俺がこの地でもう一度人生をやり直すのを 
黙って見届けてくれ 
愛することの意味と 
愛されることの責任を見つけることができるなら 
俺はもう歌わない 
ギターも弾かない 
銀貨一枚握り締めて生きていければいい 
ナザレのイエスのように 
神よ 
お前は俺を見捨てずにいてくれるか 

顔のない神は笑っているのだろうか 
俺にはわからない