第八十六回 お題:「かお」
394 名前:病室508(内科) その1 投稿日:05/01/15 20:34:34 ID:+jgtwHzd
廊下に向けて置かれた鏡
窓枠のない壁に向かって睨むあなたの角膜に
アルベドを気にしないで映された左右がない風景と
色の薄い虹彩
目の前の壁には鏡がはめ込まれ
ベッドから見えるその映像は反対側の斜像
ちょうど天井の角に当たった視点が行き場をなくして
ただ眠気を誘うようにできている
人が少なくなった部屋の中で気温は一定のまま
窓から飛び込む明るさは適当に制限され
カーテンに囲まれた人影はふらふら動いたり止まったりで
いずれにしろその人の顔も知らない
身体の前に洗面台と壁と鏡
立ち上がったここは5階の高さで
早朝にうるさく鳴き続ける例の鳥たちと同じ位置で
立ち止まっている
向かいのベッドから窓に向けて
意味なき唸りを投げつけた男の子供が
雪って勝手に白くなるものダネ、と言った
どのような顔をして言ったかは知らない
鏡の向こうに存在する外が
今日も吹雪で荒れている様子
灰色の雲から生まれなかった灰色の雪と
書き足して絵にしてもよかった
395 名前:病室508(内科) その2 投稿日:05/01/15 20:34:59 ID:+jgtwHzd
その虹彩の内側に投影された彼の倒立像
その中の鏡の部分からまた左右を取り違えた人間が生まれ
その顔の2つの眼に映る鏡
車輪を転がす音はあちらこちらから聞こえ
この部屋の中で止まっては動き出すのが見える
彼らそれぞれ勝手に物語を作り出してはそれに浸り
色の付き過ぎた未来を吐き出すのだ
常に見下ろす風景しかない窓の視線
誰もが雨の日には同じように同じ向きで傘をさすので
いつも顔なんて見えっこない
誰もが雪の日にはてんでばらばらに傘をさすが
何れも顔なんて見えっこない
他に顔なんて見えっこない
入り口付近に立つ自分の
視線の突き当たりはただの鏡
その鏡の中から浮き出ることもなく
常に視界の中で顔のないあなたは存在する
チャンプ作品に対する批評
MUJINA ◆iXws.WGCLY
1点
世界から隔絶された病室という空間が舞台。これは、実話と捉えてもOKだけど、
むしろ、作者自身の心象の態様を病室に喩していると見るほうが詩として成立するだろう。
鏡を媒介として視線が乱反射する。けれど視線の先には人の姿が映しだされることはない。
あるのは、カーテン越しの人の影だったり、車輪の音だったりという、世界の、他者との
微妙な距離感が、なんとも、まだるっこしい。見える色も白や灰色のモノトーン。
色=意味の付きすぎた世界を拒絶する作者は、他人の顔を見ず、ひたすら内部に自閉して
ゆく。ウーン、これって、作者の心象というより、他人とのかかわりを拒否して籠もってゆく
現代人の内部世界だな。ともあれ、この作者の作品、ひたすら写実的なようでいて、
実は視線が鏡の屈折で自己の内面に返って行く、というクセモノなんだな、これが。
ななほし ◆lYiSp4aok.
1点
なぜ顔がないあなた。と、呼びかけるのだろう? この詩が鏡なのかな?
Canopus ◆DYj1h.j3e.
2点
迷ったけど、2点差し上げる。たまたまタイトルは『病室』だけど、
おそらく作者にとっては、舞台が病室でもどこでもよかったんだろうね、そん
な、焦点をぼかしてぼかして創りあげた浮遊感。
準チャンプ作品(4作品同時受賞)
MUJINA ◆iXws.WGCLY
373 名前:輪唱しないで歌うガマガエルのうた/1匹目 投稿日:05/01/11 00:12:14 ID:H7eo/CkQ
その男の顔のまん中に貼りついているガマガエル
大きなイボのあるガマガエルが
膨らむ膨らむ
ふくらんでゆく
bohoowoo――!
一気に萎んで空気を吐き出す
そのたびに隣りの乗客が顔をそむける
ガマガエルの息は臭い
またどこかで
したたかに呑んできたのだろう
いや 呑まなくても臭い
たとえば手鍋で魚を煮詰めたときに出るアクのような
水に棲む生きもの特有のにおいを
その大きなふたつの穴から吐き出す
374 名前:輪唱しないで歌うガマガエルのうた/2匹目 投稿日:05/01/11 00:28:14 ID:H7eo/CkQ
そのガマガエルの飼い主
電車の中で寝息をたてている背広紳士
彼は社内では口八丁手八丁で鳴らしている
自他ともに認める話術の名人、らしい
けれど彼がひとつ嘘をつくごとに
ピクリ また ピクリ
ガマガエルは痙攣するように
手足を震わせる
そのことに彼は気づかない
ことに
艶やかなアマガエルの姿を見つけようものなら
飼い主の意思とは無関係に
ぎこちなく手足をバタバタ動かす
そして
ゲブリ ゲブリ
臭い息を吐きながら
アマガエルの方へ這い寄ってゆく
目の前の美しい稜線
ツンと尖った頂点と
その下のめくるめく光沢を帯びた窪み――
見ているだけですっかり上気してきて
ガマガエルは得意気にうたを繰り出す
ホットケーキをつくるみたいに
ボウルの中で
フワフワ フワフワ
ボクのをいっぱい泡だてて
たっぷりキミにかけるのサ
375 名前:輪唱しないで歌うガマガエルのうた/3匹目 投稿日:05/01/11 00:39:58 ID:H7eo/CkQ
ひとくさりフレーズを歌いあげたあと
アマガエルの方をチラリと横目づかいで見やる
ねぇ ボクと一緒に歌わない?
誘いをかけてから次のもうワンフレーズ
しかしアマガエルも慣れたもの
その尾根の高さはプライドの高さ
おいそれとは乗ってこない
シンクロナイズドスイマーのような細い稜線に
ひとつ皺を寄せると
ピョンとひとっ跳びでガマガエルの頭を飛び越えて
どこかへ行ってしまうのだった
自称ジゴロの背広氏
自分がどうしてふられたのか
首をかしげるばかり
手前のガマガエルが
その粘膜の下のたくらみを
雄弁に語っいるとはつゆも覚えなし
というほどのお天気ものであった
リーフレイン
391 名前:トルソー 投稿日:05/01/15 11:19:18 ID:dyl3O+mo
そのトルソーには顔が二つあった。
好奇心に満ち、明るく優しい右の顔
見通したようでありながら、にやりと笑い、
幻想へ堕ちていく人間を誘いこみ、嘲笑するような左の顔。
二つながら、魅力的で、コインの裏表であるような気がした。
やっとのことで立ち上がり、ドアをあけて歩き出すと、
「やあ、それで本当にお前は満足なのか? 俺はあっちのお前の方が好きだ。」
どぶでのたうっている間は、優しく手を差し伸べ、
身体を引き起こした瞬間に、踏みにじる足。
所詮、見世物でしかない。
世界のすべては冗談ごとで、面白がせてくれればいい。
そして左に、より魅了されてしまっている自分もまた、
左の顔がある。
キャラメルのおまけのサイコロ3回ふって、
今日の天気は雨、雨、雨。
寝転んだ道路のコンクリ ひんやり硬い。
綱渡りの綱がふらふら揺れて、天秤棒をもて踊る。
ふうわり歌う子守唄、
ねんねん良い子はくびらずに、かあいい良い子はおとなしい
金銀細工の更紗の布を、シャレンと広げて雨あがり。
左の顔がにんまり笑い、
まだだ、まだだと煽りたて、スキップしながら案山子が走る。
手に握り締めたキャラメルが、とろとろ溶けてつぶれた蛙。
ぼろぼろ零れる藁のくず。あれあれ、あれは大事な思い。
みるみる変わる、石の顔。
思わず止まったその先は、二手に分かれた別れ道。
足を置くのはどの石の上。
(名無し)
397 名前:ギャラリー 投稿日:05/01/15 23:59:11 ID:I35aO5SB
鏡を見ないで自分の姿を
紙に描く事は難しい
例えば友達とか恋人とか
親とか周りの人ならば
目の前に居なくてもすらすらと
鉛筆を滑らすことは出来るのに
僕はそれを
自分の事を見れていないからだと思っていた
自分の事を大事に出来ていないからだと
思い込んでいたんだ
僕の美術館に
これまで描いてきた
たくさんの肖像画が並んでいる
笑っているもの
怒っているもの
悲しんでいるもの
ある人は笑っているものしか無ければ
またある人は怒っているものしか無かったり
そしてそのコレクションの中に
僕のものは無いのです
398 名前:ギャラリー 投稿日:05/01/16 00:01:56 ID:X49SfQ6p
ほら今夜また1つ
新しい作品ができあがって
この間捨てた絵のあった場所に収まる
僕はそれをいやらしい顔で眺める
悪くないと思った
きっと僕には自分の絵を
描いている暇など無いんだ
あっちの絵を捨て
こっちの絵を掃除し
また改めて素材を求めて
狂ったように流れていく
自分の絵を描こうとした事はあったんだ
でもそんなものを飾ってしまったら
いつまでもそればかり眺めてしまうだろう
最期の最期に
飾ろう
このギャラリーの中心に
とびっきりの笑顔を
その為に今日を生きる
(名無し)
402 名前:ナルシストの呻き 投稿日:05/01/16 16:57:59 ID:LxLbfNvB
鏡を見ながら「齧りかけたパン はみ出してCRY」って呟く。
なあ〜んつってね。カッコいい事言ってみたかっただけ。
だってあまりに空は暗いし唇厚いし目は腫れてるし風は強いし夢はないし耳は赤いし鼻の穴大きいし一重瞼だし金は無いしおでこは広いし歯並び悪いし。
どうしようもないことだし、生まれ持ったもんだから仕方ないっていやあその通りなんだけどね。
だけどたまにはいい気分なりたいじゃん。現実忘れてさ。
ま、よけいに空しくなるなんだろうけどさ。
「滲む夕焼け 延びた影に思い耽ろうか」
なんつってね。唇歪んでるよね。
どうしようもないよね。
もう寝る。