第九十回 お題:「人」
チャンプ作品
まーろっく ◆lsOpIv6P8M  
647 名前:ぼたん雪    上 投稿日:05/03/06 16:41:17 ID:bMXTMtuR

ぼたん雪が降ったので 気象台は廃止された 
ぼたん雪が降ったので 軍隊が動員された 
ぼたん雪が降ったので 首相は演説して強がった 
ぼたん雪が降ったので 人々は不安とあきらめをかきまぜた 

ぼたん雪が降った夜 おれは注意ぶかく 
ぼたん雪の結晶をつかまえた 
冬が終わる 日付がそこには記されていた 
おれはぼたん雪を 内ポケットにしまうと 
なにくわぬ顔で 繁華街にでかけた 

阿片のけむりで私服をまいてから 娼窟へ 
大連生まれの混血女は 青灰色の目をしていた 
大陸の雪原で おれは白いオオカミとたわむれた 
首を噛み 爪をたて 粉雪をはねあげて 
内臓を貪られる快感ときたら! 
永久凍土の国でも この女となら生きていけるだろう 
おれはアパートの片隅の トランクを思った 

ぼたん雪が降りやんだ朝 
大橋の上は死者 死者 死者の行列だ 
緑色の敵対国の兵隊が橋を占領している 
おれはアパートに帰れない 
川原に捨てられた白黒テレビからは プロパガンダ放送 
 冬を家族と過ごした死者たちの 
 天国へのUターンラッシュが始まりました 
 党は鉄道輸送力を増強し 同志たる死者を… 





648 名前:ぼたん雪    下 投稿日:05/03/06 16:56:28 ID:bMXTMtuR

大連生まれのあの女も 死者の行列のなかにいた 
ばかな! おれのトランクをもって楽しげに歩いていく 
女に近よろうとしたおれを 銃の台尻が打ちすえる 
青灰色の目を はじめておびえが走った 
野太い汽笛が早朝の空にあがる 
その汽車の行き先がおれは恐ろしかった 
黒煙の尾を引いて墜落してゆく 双発機は 
ぼたん雪をばらまいていた 飛行機なのだろう 

おれは街へ走った 
カーキ色の足が ばかに美しい歩調で行進している 
肺病病みの難民たちが コンビニエンスストアを襲う 
伏せろ! 砲弾だ 
だれもぼたん雪のことなど 忘れてしまった 
おれは女があきらめきれず 踏み荒らされた娼窟へ向かった 
女の部屋には射殺された 白いオオカミが横たわっている 
女が壁に画鋲でとめた ぼたん雪は 
血を吸って 濡れそぼっていた 
    *        * 
おれは大道芸の一座に入って 
南へ南へ 歩いている 
兵隊に媚びを売り 難民をなぐさめながら 
ときどきオオカミになる夢を見る 
ちんちくりんなおれの背広の 胸ポケットには 
ひからびた赤いぼたん雪がのぞいていた 

 

チャンプ作品に対する批評

園川 ◆nWfXpQxHHM
3点
日清、日露戦争の事は全然知らないという事を断った上で。 

黙示録だろうか。戦争の記憶というより、戦争のイメージを借りた何か。 
コンビニエンスストアの存在から、主人公が現代人だということは確実。 
近代の記憶?とも取れるがそこまで拡大して考える根拠が僕には見つからないので、 
これは主人公一人きりの見た、彼の世界という事になる。3連目、 

1. 阿片のけむりで私服をまいてから 娼窟へ 
大連生まれの混血女は 青灰色の目をしていた 

2. 大陸の雪原で おれは白いオオカミとたわむれた 
首を噛み 爪をたて 粉雪をはねあげて 
内臓を貪られる快感ときたら! 

3. 永久凍土の国でも この女となら生きていけるだろう 

4. おれはアパートの片隅の トランクを思った 

青灰色の女の目から大連の雪原の幻想への移行が自然で、大変上手いと思う。 
狼との戯れは女との戯れの比喩でなのだと思うが、それだけでなく自立したイメージとしての存在感も強く、 
世界を大いに拡げている。3で幻想から帰ってきてその感想を述べる。1.の現実と同じ位置に戻る。ここもスムーズ。 
さらにすぐ次の行で記憶の中にアパートの様子を探る。あとついでに、1だけを見ても、2行のうちに娼窟への移動を行っている。 

場面や話者の視線の移動が緻密で、そこに織り込まれた現実の描写、幻想の描写、さらにはそれらの位置関係の正確さ、 
等が大変豊かな世界を作りだしている。全編に渡ってそうで、読むのが面白い。 

展開される物語や配置される言葉の一つ一つの意味を考えたり、そういう解読めいた行為に積極的に走らせる力があると思うが、 
そういう事よりやはり、複雑だが一貫した叙述の糸に沢山の言葉が乗っている、絢爛な織物の様な言葉の世界に無心に惹きこまれた。 

ななほし ◆lYiSp4aok.
2点
 ぼたん雪は真っ赤に血を吸うほどの存在感がないのが……残念。 

Canopus ◆DYj1h.j3e. 
2点
ぼくがすごい面白いと思ったのは、キーワードであり、話の中心でもある「ぼ 
たん雪」のイメージが、どうしても掴み取れなかったところ。そう、中央にぽ 
っかりと穴があいたまま、レトロチックにエキゾチックに話が進んでいくんで 
す。そんな空虚さに身を任せる快感、魅力が、この詩にはありました。 
多分、パラレルワールドとしての世界を描いたと思うんだけど、世界描写の不 
徹底さが気になるところ。大連、双発機、コンビニ、そしてぼたん雪は、こと 
ばとして、共存し得るものなんだろうか。 

大木人 ◆hMyRGSodPk 
2点
有無を言わせぬ説得力というべきか、詩人の確かな力量を感じる強い詩です。 
出だしの「ぼたん雪が降ったので〜」という繰り返しで、読み手は詩の世界に一気に引き込まれてしまいます。 
終盤まで詩全体の寓話性が損なわれることなく展開されていて、完成された詩だと感じました。 

ame ◆yUHAxrOw2c
2点 
自分の趣味とは少しずれた詩だけども、物語描写はすごい上手だと思う。 
少し気になるのは、この詩の締めとして持ってくるのが「赤い」ぼたん雪であること。 
それから1連目のリフレインがどこにもあとで関わってこないこと。 
これが気になって、2点となりました。 
 

 

 

 

 


 

準チャンプ作品
ame ◆yUHAxrOw2c
613 名前:落ちてくる 1/2 投稿日:05/02/26 21:35:25 ID:V9srDDP8

イキモノに似た木彫りの置物と 
たくさんの鈴の音のなかで 
五月蝿い発電機が目立つ広場に 
好き勝手な遊びを止めて人が集まる 
彼らが遊ぶその向こうに空が落ちてくる 

日付のない方言詩が 
好き勝手に読まれて威厳をつける 
文字を付け足したり並べ替えたりすれば 
カレンダーの数字から先に読み出される 
子供たちが遊ぶ向こうで今日も陽が落ちてくる 

表紙のない本の群れの中から 
明日の天気予報にも満たない 
予言書のラクガキが見えてきて 
僕らが傘を振り回す 
雲ばかりの山の上から雨が落ちてくる 


 空が落ちてくる 
 空が海に落ちてくる 
 誰かが石を放り投げても水を切れなくて 
 砂の上にできた小さな仮宿も 
 次の日にはとうに消えていた 



614 名前:落ちてくる 2/2 投稿日:05/02/26 21:36:42 ID:V9srDDP8

はるか昔たった二人の男が 
腰掛けた石を後に奉りはじめ 
彼らが知らないうちに人は集まり 
次々と松葉杖を放り投げた 
女性が一人で泉のある洞窟を出て 
空が落ちるのを見つめている 

昔々のある日 西の国の蝶に間違えなかった人のうち 
祭りを楽しみにした幾人が 
空が崩れ落ちるのを心配しながら 
酒と肴を持って遊び尽くした 
船の上で遊ぶその向こうに月が落ちてくる 

三時半に鳴らされるメロディーが 
子供たちの行き先を変えてみた 
遊びはこれでおしまいだと目を瞑って 
大人たちは寝床につく 
わずか支えた柱のある箱の中で  
誰かの空から緞帳が落ちてくる 


空の向こうから緞帳が落ちてくる