第九十三回 お題:「神経」
チャンプ作品
園川 ◆nWfXpQxHHM  
188 名前:神経 1/4 投稿日:2005/04/06(水) 13:35:08 ID:OJU4Erzh

1 試作 
a 

巨大な高架を支える橋脚の柱石に 
落ちている赤いライターを 
右折車線の窓外に見る 

 (あっちの崖でさ) 
 (うん) 
 (あの山の、海に突き出してる・・・) 

下校する高校生 ベビーカーを推す女を 
田舎の道で 
フロントガラスの向こうに見る 

 (一番大きい?) 
 (そこらしいよ) 
 (じゃあ、あれ嘘だったんだ) 
  
ガード下のうらびれた公園の脇に落ちる階段 
その真裏の支柱を背に車を停め 
買ってきたハンバーガーを食べる 

 (多分) 
 (あたし海いきたいなー、家やだ) 
 (あの崖のカーブ、海に突き出した・・・急な) 

夕暮れの空に カーステレオが鳴る 
ホルダーのシェイクに手をつける 
空席のナビシートには目を遣らない 

 (いこうよ) 


189 名前:神経 2/4 投稿日:2005/04/06(水) 13:36:05 ID:OJU4Erzh

 (海?)  
 (うん) 

夜 山麓を川沿いに抜ける国道を走る 
あの時と同じ景色 
もう一度 海へ 
  
 (行こうか) 

b 

川? 
うん 
川沿いなんだな 

 (黎明の野に鬱勃する森の影 
  遠景の稜線に朝陽が留まる 
  静止した分暁の空) 

暗いねぇ 
夜の山だから 
んー  

 (女は森へ その歩行に呼応し湧出する大理石が 
  彼女の蹠を受け止める 歩揺する長い黒髪は 
  その一揺れに束と落ちる) 

やばい眠い、危ない 
川がきれいだ        

 (女を追う 大理石の経路には 
  瘢痕に蝕まれた肢体の残片が 


190 名前:神経 3/4 投稿日:2005/04/06(水) 13:37:22 ID:OJU4Erzh

  縷々と連なり重なっている) 

見えるの? 
ううん 
ん? 

 (ウッドソールと大理石の衝突に 
  明滅する言葉らが、 
  足元に散る肉塊を整複していく) 

見えないけど 
どっち 
きれい 

 (歩一歩と 致命的な歩み) 

c 

透明な色石の渥美の肌に  
とりどりの華辞が彫金される 

 (ここはシルバーでなく 
  イエローゴールドで) 

削りだされていく浮文の肌に 
恍惚と浅笑する女 

 (ジルコニアを埋めて 半貴石がいい 
  濁った石が好きなの) 

肉体を失った言葉の幽霊が 
逸遊する この際涯 


191 名前:神経 4/4 投稿日:2005/04/06(水) 13:38:02 ID:OJU4Erzh


 (虚辞の海風がまた私の肌を磨く 
  この石も あの風も 一体誰の言葉なのだろう) 
  
圏点を打たれた黒髪が号してる 
シフォンの海 鉄の海畔 布と金属の海景 

 (でも、どうしよう) 
  


2 君へ 

脳神経を一本に抽象化できたとして、 
その縦断面を観察する。そんな詩を書きたかった。 

この抽象的脳神経は精神総体の隠喩であり、 
読み手は、言語化された知覚、記憶、夢などの精神現象を、 
この作に於いては意識から無意識のベクトルへ下降していく。 

妄執。 

試行は続く。 

いつか、あの女との海へのドライブを、 
記憶の捏造によって再開する為に。 
そして君と、 
意識の上に偽造した世界で再会する為に。 

そう思っている。 

 

チャンプ作品に対する批評

葉土 ◆Rain/1Ex.w 
3点 
不満もあるんだけれども、やっぱり技巧的な挑戦、幻想的な美、 
会話文のもたらす効果(耳元に聞こえてくる)という点でリードしてると思う。
 
Canopus ◆DYj1h.j3e. 
3点 
対話と情景描写がネガ、ポジと、反転を繰り返し、舞 
台を変えながら展開される、一風かわったアバンチュール。実はぼくは、 
『2.君へ』は必要だと思っている。ただ、『2.』の冒頭の2連が、ごっそり要 
らないんじゃないかな、と思う。いや、これは凄い詩です。タイトルは、もう 
ちょっとステキにしたかった。 

MUJINA ◆iXws.WGCLY
1点
妖刀で言葉を切り出す二字熟語の魔術師。

ゼッケン ◆DgT0G2eW4I
1点。 
実験した部分は自分への不器用な言い訳、こういう詩を書きたかったといいつつ、 
技巧的な試みも女への未練に収束する。 
理屈っぽい男の女々しさがさらに喪失の痛切さを物語る。 
という私の共感を除いても、情景の構成は群を抜いてると思う。 


 

 

 

 


 

準チャンプ作品(2作品同時受賞)
リーフレイン
221 名前:「海岸へ走る猫」1/2 投稿日:2005/04/10(日) 20:17:08 ID:IAIjwVMa

ウインドウにはショッキングピンクの斑点が不規則に浮かんでいる 
視線を動かしても、そのまま移動していく 
車の前に広がる灰色に濁ったスープ。 

奇妙な形にこわばってしまっている指を一本づつ折り曲げる 
力をこめて握り締めると 
目の前の世界が見知った風景に戻る 
歯を食いしばりすぎて、奥歯がまた少し砕けた。 

曲が終わった。 
癇に障るオブジェのようなDJが かたかたと流れてくる 
運転からそれた気を正面に戻した。 

この街には猫が多い 
海が近い 
猫は不思議と海岸に向かって道を横切っていく 
黒い猫、茶色い猫、まだらな猫が 
踊るように道を横断し、運の悪いやつが轢かれていく 
ぶちまけられた中身に、朱色のゴムひもが見えた 
くずれた豆腐。 
2度、3度と轢かれるうちに、黒っぽい煎餅に変わる 
ひかびかになった毛皮。 




222 名前:「海岸へ走る猫」2/2 投稿日:2005/04/10(日) 20:18:36 ID:IAIjwVMa
「海岸へ走る猫」 2/2 

猫は海に惹かれるのだろう 
人も同じだ。 

神経になぜシナプスがいるかといえば、 
生き物も、生き物のシステムも、情報そのものを直に受け取ると 
オーバーフローしてしまうという話がある。 
あえて、受け渡しというクッションをはさみこみ、 
情報を曖昧に薄め、あるいは受け取りやすい形に作り変えるという操作を 
無数の箇所で行っている。 

システムの安全性確保のために精度を落とし、 
システムの変異性を確保するために、思いがけない事が起こる要素を保持し続ける。 
つまり、自己変化することのないシステムは結果として恒常的な生存が期待できない。 

猫が、道路の脇からこちらを見ている。 
視界にまたピンクの斑点が浮かび始めた。 
濡れそぼった猫の群れが、浅黄色の海を泳いでいくのが見える。 

 

soft ◆soft/e/9Do 

 

226 名前:痛覚神経 投稿日:2005/04/11(月) 17:53:14 ID:8CJw2XYM

パクッと食いつく 
鼻の下と上唇の間に 
何か鋭利な物が貫通したのを 
僕は確かに感じるんだ 
この水よりも遥に冷い何かを 


魚には痛覚神経がないという 
心地よく泳いでいてふと目の前に餌が現われた時 
魚達は何を躊躇するだろう 
釣り上げられた魚はまだ何が起こったかわからない 
地面に置かれた魚 
周りを見る事を許されたその片側の目で 
初めて空を見るのだ 

無限に続くようで 
しかしどこかに限りがあるような 
あの空を見るのだ 


息絶えてなお開いたままの目は一体何を見続けているのだろうか 


僕は気付く 
このままでは外へ連れ出されてしまう 
血が吹き出ようともこの糸を断ち切らなければならない 

僕はまだ空を見たくない 
痛みを感じない僕はきっと 
死ぬ事さえわからない 
死ぬ事さえ気づけない