第九十五回 お題:「世界」
チャンプ作品
湯姉耕二   
296 名前:でじたるわーるど 投稿日:2005/04/29(金) 10:59:00 ID:uPuLNwUH

幾筋もの河が湾へと流れ込んで行く 
テラスから見える貨物船 
夕焼け空をバックにして 

読みかけの小説 
空になったコーヒーカップ 
忘れ物の懐中時計 

この街では時間は離散的に過ぎて行く 
コマ送りの人生 
コマ送りの日常 

高々有限個の瞬間を 
生まれてから 
死ぬまで 

速度は引き算で 
加速度は引き算のまた引き算 
ニュートンの力学はここではもっと複雑 

あるとき私は恋をしていなかった 
でも次の瞬間には少し恋していて 
その次はもう恋に落ちていた 

あなたと過ごした時間の割合が 
綺麗な分数で表せるなんて 
少しだけ素敵だと思う 

けれども途切れ途切れの愛の言葉は 
いつも悲しく木馬だけを揺らしている 
 

 

チャンプ作品に対する批評

MUJINA ◆iXws.WGCLY
3点
 完成度で言うと、今回のピカ一。客観的な評価だけなら、チャンプ候補と言っても 
いい。タイトルに沿った流れが緊密な構造を形作っている。そして、ラストの木馬の 
叙情的な幕引き。文句ひとつつけられない構成だからこそ、逆に因縁をつけたくなるのが、 
天邪鬼の性でして。確かにソツなくまとめられているんだが。作者さんはとても頭がいい人 
なんだって思う。でも、その理性というかなあ、定規で測ったようなつくりかたが、逆に読んでて 
冷めてしまう。落語で言うと、うまいんだけど、大爆笑できない三遊亭こうらく 
(漢字が思い出せない。笑点でピンク色のひと)ってとこかな。 
単に私の主観がひねくれているだけなので、作者さん、どうか気になさらずに。 

園川 ◆nWfXpQxHHM 
3点 
隠喩がない。直叙的表現でありながら、詩と数学の紋切り型的言辞 
の束が描写を日常の平面から中吊りにし、抒情的風景を消毒している。 

>けれども途切れ途切れの愛の言葉は 
>いつも悲しく木馬だけを揺らしている 

最終連、木馬が突然異世界から召喚され、 
数学と詩語の出会いから成るこの作品の多層構造を完結させる。 
最小限の言葉で最大限の効果を得るこの手法が、 
この作品に相応しい、極薄い皮膜を張り合わせたような厚みを実現する。 
もう一つ、隠喩でもイメージでもないから意味を論理的に理解できる。 
普通に読める。芸術品というより手元に置いて愛玩する工芸品。 
これは凄い。これは欲しい。こういう物品的作品はフェティシズムを刺激する。個人的に好み。 

ヒゲルド ◆tuIUmOeA..
2点
この詩もとても好きです。 
まずは視点の勝利だと思います。 
次に数学(物理か)の理論を無理なく取り込んだ完成度の高さと、それを一対一の恋愛 
という局面に憎らしいほど見事に応用した構成、そして特に後半部の洗練された比喩の美しさ。 
いやもうまったくワタクシ感服した次第でございます。 
唯一難を述べるならば、デジタライズされた世界(恋愛)をやや肯定した後のラスト、「けれども」 
という力の無い接続詞一語で、簡単にネガティブに締めてしまったことに少々違和感を覚えました。 

ななほし ◆lYiSp4aok.
1点 
 詩を書こうとしているのを感じる。 
 
葉土 ◆Rain/1Ex.w 
1点
回想の仮想世界でしょうか? 
1,2連目が”終わらないバカンス”。 
全体がゆるやかな哀愁で彩られていて、いい感じです。ですが、どことなく写真をそのまま水彩画に 
落とし込んだような薄っぺらさがあります。どこかにそうでない世界を違和感として入れて欲しかったような、 
いやこれは個人的な願望ですね。。 

Canopus ◆DYj1h.j3e. 
1点
ことば遣いにセンスを感じるし、映画の一こまのような風景に恋愛感 
情と数理的概念を絡めて、なんともカッコいいです。ただ、速度を複雑にする 
なら、それはディメンションの変化にすべきだと思うし、「綺麗な分数」に至 
っては、ただただ???でした。 

 

 

 

 


 

準チャンプ作品
清掃局の者 ◆6P3vWUZtcI
346 名前:トリエステ 1/2 投稿日:2005/05/03(火) 21:22:13 ID:0DlL4n3c



クロムモリブデン製の球体が潜航する 
徐々に 闇の渦が軋む 
潰された 
記録ノートとビスケット 

望遠鏡の中の 二重星が 冷たさの粒子を計測する 
ように 
頭の中を覗き込む 水 水 
水は色を見ない 

球の中心には 孤独の反響が消失する 
真空の特異点があります 
世界で一番深い海に 
まだ あなた達は 許しを得ることができません 

セザンヌの描く 水墨画には 
月の手前に 丘と木が生えています 
私はともかくも 海へ近づこう 
まずは浜辺へ出ようと決めて 
バックパックを揺らし 歩き続けました 


347 名前:トリエステ 2/2 投稿日:2005/05/03(火) 21:23:10 ID:0DlL4n3c

一台のセダンが止まって 
白人夫婦が 
泣いています 
何を言っているのか分かりません 
私は首を振りました 
女は口を歪ませながら 
―― A R E  Y O U  O K ? 
ゆっくりと発音しました 

海底には五角形の魚がいるんだろうか 
私は写真を撮るのです 
早く行かなければ