第九十八回 お題:「美」
チャンプ作品
MUJINA ◆iXws.WGCLY    
617 名前:老人はなぜ死ななければならなかったか 1/5 投稿日:2005/06/05(日) 22:42:18 ID:MB3uOBoa

熟練工の手先でリズミカルに箆(へら)を使いながら 
「ま、これも通過儀礼ってもんだ」 
草むらで嘔吐する背中に声をかける 
「非番を駆り出されて、この手当てじゃあ、合わないけどよ」 
白髪まじりは大バサミで肉塊をつまみとると、清掃夫の手つきで 
ビニール袋に入れた 

――――――――――殺したのだ 



618 名前:老人はなぜ死ななければならなかったか 2/5 投稿日:2005/06/05(日) 22:47:49 ID:MB3uOBoa

緊急停止を告げるアナウンスが流れると、電車は傾き 
人人は前のめりになる 
車体が何かに乗り上げた 
 ガガガガガガガ―― 
異物が下を通過する振動 

 人身事故が発生しました 

次の駅を告げるときと寸分違わぬ車掌のアナウンスの声 
乗客の嘆声と舌打ちがさざ波のように広がる 

――――――――――お前が殺したのだ 



619 名前:老人はなぜ死ななければならなかったか 3/5 投稿日:2005/06/05(日) 22:56:06 ID:MB3uOBoa

 ただいま運転手が救出に向かっております。お客様はもうしばらくお待ちください 

「わたくし、他人に迷惑をかける人って最低に思いますわ」 
帽子に羽根をさした年配の婦人の金の前歯が光った 
「ヤラレタ。これで二度めだよ」 
「夕食まだなんだ。遅くなるけど作っといて」 
「もう、やってらんねーから、車で迎えにきてくれよ」 
携帯に向かって口口にぶちまける 

――――――――――お前が、お前たちが殺したのだ 




620 名前:老人はなぜ死ななければならなかったか 4/5 投稿日:2005/06/05(日) 23:05:54 ID:MB3uOBoa

老人はずぶ濡れで立っていた 
列車の接近を告げる警報機の音は、いつもより 
ずいぶんと小さく聞こえた 
一歩前に進める 
なぜか足は震えていなかった 
頭のがらんどうの中に言葉が紐に結ばれてぶら下がっていた 
奴らから浴びせられた言葉 
それが蝿でも飛ぶような不規則な動きで 
弧を描いて飛んでいた 
点灯するシグナルが無機質のように赤い 
その光が再び感情に火を灯した 
怒りでもなく悲哀でもない 
いったい何と名づけたらよいか、まるで検討がつかなかった 
とにかく、その感情をもう一度確かめねば 
通過する電車の矢印に目をやって 
老人は遮断機をくぐった 



621 名前:老人はなぜ死ななければならなかったか 5/5 投稿日:2005/06/05(日) 23:11:22 ID:MB3uOBoa

いま、ひとが死んだ 
電車の床の下に、轢死体が転がっている 
その紛れのない事実の上にあるこの空間で息を吸っている 
死臭はまったくしない 

――――――――――お前が殺した、お前が、お前が、お前が殺したのだ 
殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ、殺したのだ 
お前が 

僕は美しい詩を読みたくない 
ましてや 
美しいだけの詩など書きたくもない 
 

 

チャンプ作品に対する批評

ななほし ◆lYiSp4aok.
1点

シオン ◆poetsyov/2 
1点

おしっこ ◆Ti0PcEbhdw 
2点
老人が投身した理由は、事故後の車内の乗客たちによる身勝手な言葉や思いにある訳で、時間を反転させてる所が面白い。
老人はそんな社会の空気に殺されたのか?お前が殺したのフレーズも活きている。 

ヒゲルド ◆tuIUmOeA.. 
2点
1点にして「タンポポ」と差をつけようかと最後まで迷いましたが、この作品、 
巧い。圧倒的とは言えないまでも相当巧すぎて、1点の他の作品と並べるのが憚られました。 
導入部からこちらを詩の世界に引き込む構成力はダントツだと思います。 
好みで言えば嫌いなタイプの詩ですが、この方は言葉がどうしたらより迫力と重みを持って 
我々の前に呈示できるか、をよく知っている方のように思えます。多分。 


 

 

 

 


 

準チャンプ作品
(名無し)
622 名前:タンポポ:甲 投稿日:2005/06/06(月) 22:15:51 ID:YQZXzKiF

剥げた白色蛍光灯を 
ひとつひとつとかぞえつつ 
いつものように、列車のなかで 
草むしまぶしい川岸で 

人生にかかわることもなく 
こいびとにわずらわされる 
こともなく 
ああなんて 
くだらないうたを 
かくれて口ずさみ 
背もたれに寄りかかり 
どこかでだれかの真似をする 
そうこううんざり 
クソわらい 
僕は生きることを 
さぼっているんだ 

うごいていたとき 
なにかだいじなことを 
したかったんだけど 
すっかりわすれた 
痴呆の 
太陽を眺めながら 
目が血の気をなくして 
だんだんと沈んでいく 
あの感覚のなか 



623 名前:タンポポ:乙 投稿日:2005/06/06(月) 22:16:10 ID:YQZXzKiF

なにかだれかに 
どうでもいいことを 
教えたかったんだけど 
さけびすぎて 
もう喉がつぶれてしまって 
黄金いろのような 
だいじなことになってしまった 

ホルダーの飲み残しから 
こぼれた液体がズボンについて 
だれか、のように輝いて 

それら光のうずに埋もれて 
ぼくは生きることをさぼっているんだ 

ぶすな女をけとばして 
ひとりになってすぎてゆく 
季節は、そうだ 
にげているんだ 
どこへいこう 
つまらないから 
つまらないどっかへ行って 

とおくなる景色にむかい 
しまっていた笛をふいて 
ぼくは 
電磁の反響で分解してゆく