堕ちてゆく魂は
沈んでゆく小石のように
音もなくそれは静かに
荒廃という文字を刻んでゆく
頽廃といった悲劇的な感傷すらなく
自分でも気づかないうちに
いまのまにか
自分がだんだんつまらなくなってゆく
そんな気がして・・・
All Makes Me Cry
すべてはみんな僕を悲しくするばかり
友はみんな
僕から遠ざかり
情け無く
回想なんかに耽っていると
妙なもので
過去をみんな
黒く塗り潰してしまったはずなのに
彼女が遠くの方で
手を振っているのに気づくのです
暗黒の中に一点のしみのように
白く浮いては
遠ざかるむなしさのかなたで
僕をみつめていました
やさしさは時として
思わぬ人に逢いて
忘れていた安らぎの影を見つけた時
初めて逢った人のどこかに
昔感じた
あつい誘惑のかおりと
人知れず漂う
哀愁のぬくもりと微笑み
いつ逢えるかも知れぬ
君の面影に
今僕は
あの頃に帰る
蒼き永劫の旅は
もうずいぶん日々を数えました
でも何もないのです
ただ不毛の暗い砂漠が続くだけです
毎日毎日歩いているのに
何も見えて来ないのです
暗い世界の中で
どうしたわけか
もうずいぶん前に過ぎたはずの
道標なんかを見つけたりするのです
不思議なくらい
時間の流れというものを感じないのです
一体僕は
何をしているのでありましょうか
秋は夢想の季節
誰もみな詩人になり
心地よい風に安らぎを覚え
ひとりうつむいてみてはまた
大いなる青空を仰ぐ
何故かしら
忘れ去ったものを想い出すかのように
ひとり蒼馬の化身の如く
赤とんぼが飛んでゆく
不思議なことです
もう雪も降った冬というのに
どこへ飛んでゆくのでしょう
きっと春を探しているのですね
仲間はみんな死んでしまい
たったひとりでどこへ飛んでいくの
きっと淋しい旅なのでしょうね
僕には何もできないけれど
元気で飛んでゆくんだよ
そしてもし
もしも春が見つかったら
僕にもおしえておくれ
なにもその春の国へ
行ってみたいというんじゃないんだ
心も身体も冬になってしまっている
こんな僕にも
せめて
春の国があるんだということを
秘めておきたいから
ゴッホの自画像を見ていると
世の中なんてそんなもんだよと
僕に語りかけているような気がしてくる
1890年7月
オ−ヴェルシュルオワズで
自殺するに至まで
ゴッホの生涯は
なんと悲惨な人生であったことであろうか
孤独と放浪と迫害の人生であった
哲人ルソ−の生涯よりも
もっと孤独で
悲しみに満ちていたであろう
一枚の絵も
世に認められることもなく
狂人として危険人物として
死んでいった男の描き残した自画像は
セザンヌ ルノア−ル
あるいは印象派画家の天才たちの描いた
美しい絵画よりも
はるかに僕の胸に
切実とせまってくるのだ
さよならの向こう側
ぼんやり佇むベンチの上で
背中で躍る入日影
去り往く時を惜しむよう
頬づえ重く別れ知る
「さよなら」だけを置き去りにして
まぶたの下の泣きぼくろ
哀しいおんなと人は言う
僕のこころに泣きぼくろ
哀しい雨が降りそそぐ
あの人待てど切なくて
ひとりぼっちの夜ばかり
涙をためて泣きぼくろ
ひたすら想う恋しさよ
煙草のけむり見上げれば
ほのかに浮かぶあの人の
右目にひとつ泣きぼくろ
かんばせ想う今宵かな
僕はまもなく21になろうとしている
不思議な夢でも見ているように
時の流れに無造作に流されて
漂うこともなく僕は何も知らずに
21になろうとしている
失われた時空間の空洞を
腹一杯かかえたまま 僕は
いつのまにか21になろうとしている
ぼうっと空を見つめていて
気づいてみたら
夕焼けに染まっていたような僕の歩み
いったい僕はどうして歳をとるのだろう
ふにゃふにゃのからっぽの過去
蒼い青春 淋しい思い出
もう僕は二度とあの頃には戻れない
あの透明なハイティ−ンの世代には
旅人よ
君が僕であった時代はもう過ぎた
僕はまもなく
21になろうとしている
愛は確かに永遠だったけれど
恋はまばたきもつかのまのこと
二万日の人生すらも
むなしさのの露の如く
ひと夏の夕立の中に消えてしまう
数ある星もまたこの瞬時にも
消えて行ってしまう
十六は苦痛の涙で流れ
十七はとまどいの中
十八は孤独の小石
みんな消えてゆく気持ちの中で
夜の一人身はいつも雨
古い木造の校舎が
ビルのような
冷たい建物に変わってゆくように
暖かいものやさしいものが
みんな冷えて行くような
そして僕だけが
場違いな所で
くすぶっているような・・・
みんなみんな変わってゆくんですね
それがごくあたりまえのことなのに
あたりまえであればあるほど
哀しいことなのに
誰もそんなひま人の悲しみなど
相手にしちゃいられない
みんな立派すぎて・・・
夜の一人身は銀河に流れ
白き星々を見つめては
忘れ去ったものを夢に見てしまう
眠れない時を数えて
街の朝を迎える頃
過ぎ去った人々を
ひとり数えて
またひとり
とり残されては
またひとり
だけどいつか時が経てば
今夜のこともきっと忘れてしまう
そして僕はただぼけっと
明日という日を迎えるだろう
「青春」なんて陳腐だぜ
僕はもう21にもなってしまった
暗く閉ざされた僕の心
誇大に膨れ上がったプライド
そのナルシシズム
理想というよりは夢想に近いロマンチズム
現実の眼を一向に持たない極度の理性主義
絶対美ばかりの女性観
繊細と呼ぶには
あまりに激しすぎる神経癖
そして何よりも
根源的悪を総括すべきエゴイズム世界観
僕はだめな人間です
神様
僕はもう21歳にもなります
でも何もないのです
生というものに憧憬らしきビジョンが
見えて来ないのです
毎日毎日がぼんやりと放心したように
でもそれでいて
はっきりと時間の流れだけは
確信しながら
うつろに過ぎてゆきます
神様
僕みたいな
劣等感という文字が
そのまま服を着て歩いているような人間は
幸福というものを感じる大脳神経が
もはや
退化してしまっているのでは
ないでしょうか
僕はもう何年もの間
幸福感なんて
感じたことはないのですよ
いつも心のどこかに
わけ知らぬ怯えがあってね
何故か
僕はもう
生というものにひどく
疲れてしまったみたいです
謙虚に生きて
やさしく生きて
ひとりぼっちでいられたら
それでいい
この世に
何も望むまい
誰にも
愛を望むまい
昼下がりから夕暮れにかけて
空がしだいに黄昏てゆくのを感じながら
ぶらぶらと
街の雑踏の中を彷徨い歩くのが好きだ
誰もがみなそれぞれの人生の中で
この一瞬を過ぎてゆこうといている
「平凡」という
恐ろしく画一されたレ−ルに流されて
人はみな何を感じ
どこへ行こうとしているのか
時の過ぎゆくままに
そして最後には
「死」という断崖に落ちてしまうまで
人々はどれだけの物語を
その生涯の中に
刻み込むことができるのであろうか
ざわめいた夕闇の街角に佇んで
僕は遙かなる天空に輝く
ヴィ−ナスの星を仰ぎ見た
哀しみの向こう側
ショ−ウインド−に映る自分の姿
ひとりぼっちの沈んだ瞳
見つめ返すもうひとりの自分は
雑踏と喧騒の世界で
サイレントタイムズの中にいた
僕の心に堕ちてゆく魂がひとつ
僕の心に眠りつく野望がひとつ
僕の心に終わりを告げる諦観がひとつ
物語は単調な歩みを始め
空は文字どおり空虚なるブル−
すべての時は動き始めた
すべての鼓動は動き始めた
何もかもが動き始めた
ありとあらゆるものが動き始めた
ひとつの回転がふたつめの動力となり
ふたつめの回転がまた
みっつめの動力となり
そしてすべては動き始めた
氷は解け水は流れ川は潤い
魚たちは海へ向かい始めた
もう誰もふり返らない
もう誰も気づかない
光は満ち虹をつくり
もう何もかもが活力に溢れ
芽がでて花は咲き乱れた
ほんの一滴の氷のかけらから
水は川となり川は大河と化した
もう誰もふり返らない
もう誰も気づかない
みんな流れ去る大河の中に朽ち果てた
僕の孤独は打ち砕かれ
僕の思想は川底にひれ伏し
僕の時間は無残にも粉砕された
僕の苦悩は太古の果てに去り
僕の青春はもはや伝説と化してしまった
そして
何もかもが動き始めた
川上をふり返ると
あわや僕は
時の流れに押し潰されそうになった
ブスがえらそに通りを歩く
女の中の下層民よ
化粧の下には何がある
見るも無残な醜いブタよ
僕に嫌悪を与えるな
僕の心に汚れた傷を与えるな
誰もお前に愛などやるか
一途な心もないくせに
醜いあいそをふりまくな
孤独の僕に禁物なのは
醜い女と悲哀の言葉
言葉にすれば
嘘になりそで
僕は黙って
唇噛んだ
どうせ誰にもわかりはしない
僕の心の傷口なんか
流す涙は僕のもの
誰の頬にも流しはしない
静かに怒りを滾らせて
僕の心を濡らすだけ
すべてのものが疲れを呼んで
孤高の沈黙に安らぐ夜
為すものすべて作り笑いの中で
血肉を削って愛想をふりまき
偽りの親交を司る毎日
もうこんな卑屈な生き方はやめにしよう
僕の誇りはどこへ行った
仮面の顔を剥ぎ落とせ
そうさワ−グナ−を聴きながら
孤高でありなよ弱虫の僕
強く孤独に耐えてみな
独りぼっちの夜景を見つめて
忘れた矜持を想い出しなよ
時が過ぎれば同じことさ
明日は胸にワ−グナ−を秘め
孤高の自分に酔いしれればいい
お前は醜い俗人ではない
華麗で偉大な天才なんだ
静かな僕の心の胸に
激しき動悸を目覚めさせ
生きてる時の短さを
教えておくれ
過去の夢よ
恋という名の情熱に
駆けゆく時を追い越して
深けゆく夜も忘れさせ
甘美に酔わせよ
初恋の人よ
飛んでゆきたい
今はもう
忘却の果てに
眠った時代に
僕の心は藪の中
僕にもさっぱり見えはせぬ
他人に笑う僕の顔
不思議な顔の他人です
顔は僕には違いはないが
心の裏は演じきれず
僕はやっぱり他人です
嫌なことを幾度も重ね
本当の僕が呆れ顔
自分という名の他人であれば
さほどに悩むこともなし
とどのつまりは藪の中
他人づらして僕であれ
戸惑いの中
僕にはサンタクロ−スは現れない
淋しさの中
僕には安らぐ暖炉もない
哀しみの中
僕には歌える歌もない
夜空に輝く星たちよ
聖なる河を流れ落ち
哀れな我身に光を与えよ
戸惑いの中
イエス様はこたえはしない
ハッピ−クリスマス
祈りはどこへ
北島 悄平