歌集「漂うが如く」
北島悄平
・流れゆく時のぬくもりふと想う
君去り部屋午後の陽だまり
・なぐさめの街のネオンに冬の雨
ひとり彷徨う傘もなきままに
・我が宿命誰も知らない悩みの巣
明日も孤独の旅路のみかな
・通りゃんせ僕の心に通りゃんせ
どうせ涙は見えはすまいて
・恋という一夜の酔いの戯れに
朝風むなし残像の君
・青春の夕凪ながれ雲ながれ
ひとり見上げる空涼しかな
・恋やぶれ泣いて涙の雨となり
傘なき君は我に宿るか
・すぎゆけばあとに残りしむなしさを
風と語りてひとり佇む
・夜風すぎ去りし足音とおねに響き
蒼き月夜の悲愴が帰る
・沈みゆく小石のゆくえ誰が知る
深遠時を忘れ去る頃に
・毎夜なるこの精神の墜落は
孤独の唄の旋律だろをか
・さよならの季節に君は口紅を
新たな世代に消えてゆく今
・とめどなく流れて消える面影の
君の姿に似る花もなく
・知らぬまに曇る硝子の外は雪
街をつつんで北欧の夢
・淋しさに背中丸めてうつむけば
そぼ降る雨に泣く我を知る
・悲しみは足踏み影踏み中休み
哀れ果てなき我が苦悩よな
・想い出にならぬ時間の空洞を
むなしさまじりに虚像で満たすか
・翔べよ自我蒼くすさんだ過去なれど
我が青春はまだ尽きぬはず
・憂愁にふさぎて我にもたれよる
君のうなじは白き悲しみ
・人生は行く末先も夢の夢
後の祭りを今は語らず
・夕空にひときは清き明星よ
人待ち顔の我を照らして
・今はただ路上の石をぽんと蹴り
なんとかなるさと思うだけかな
・ふりむけば白き天馬も駆けるよな
忘れられない夜があるのに
・白い雪くるくる舞って落ちる雪
その美しいままで散る雪
・自由とは不幸の河の渡し船
一刻ちがいでうたかたの果て
・貧しさは心にあれど見えざりし
ゆえに悲しき生き様を生く
・笑えども息だけすぎて闇にけむ
つまりはおのれのはかなさを知る
・哀しみを傘に隠れてつぶやけば
泣いて流れる六月の雨
・過ぎ去りし日々を惜しんで佇めば
陽炎舞って我と戯むる
・淋しさに心静かに目を閉じて
ひとり聞き入る夏の夜の雨
・老いぼれて心廃れて夜長唄
歌詞も忘れて口つぐむ夜
・我独り無限の宇宙に我独り
数なき人に我独りなり
・冬枯れの一人見上げる大熊座
小熊をつつむそのあたたかさよ
・大空を鳥の如くに飛びたいと
素直な君の心いずこに
・頬を撫ですぎ去る風にあの人の
やさしい香り思い出すままに
・美しの人を恋してなお強く
我を魅いる君がいとおし
・過ぎし日のあこがれ胸に映しては
生きる辛さに影は長かり
・眼を閉じて闇の時計の声聞けば
沈む我身は石となりけむ
・空の果て一人見上げて何想う
虚しさ越えてこだまする青
・あこがれのまだ見ぬ人の面影に
心ほのかに眠る少女よ
・ときめきは心に秘めし人の手に
かすかに触れし時の戸惑い
・君のため偽り事と知りながら
素知らぬ顔で偽りをなす
・しんとした世の安眠の月の夜に
汽笛は遙か遠く奏でる
・初恋は明神橋の白き腕
もたれてかわす幼日の夢
・疲れ果て死の誘いさえ来る夜に
夢に懐かし君が現る
・風の旅知らぬ国より生まれては
いずこに流れ消えてゆくのか
・旅立ちの夢ばかりみて目が覚める
想い出だけの日々よかなしく
・溜め息はいてつく空気に波をたてて
止まった時に虚しく消え逝く
・笑い顔虚像の中の幸福は
恐れ脅えた道化師の唄
・人知れず空を仰いで懐かしむ
根雪の街のあてなき旅路を
以上 五十首