
★内容に触れています!ご了承ください。
「くますけと一緒に」 新井素子 大陸書房 1991年刊 / 小説
「こころの傷を読み解くための800冊の本」でいわゆるアダルト・チルドレンものとして紹介されていた本。
わたしにとっては中学時代に友達に借りて読んだ「通りすがりのレイディ」、数年前に読んだ「おしまいの日」に続く3冊目の新井素子作品だ。
この手の独特の文体は、普通なら「うへえ〜」となってしまって苦手なのだが、新井素子だけは別。
いや、というよりも、この雰囲気の文体の創始者と言ってもいい作家なので、
やはりどんなものでも元祖には力がある、ってことなのだろう。
「くますけ」というのは、主人公・成美がかたときも離さず抱いている熊のぬいぐるみのこと。
両親をいっぺんに亡くした成美の唯一の話し相手だ。
2人の会話はもちろん成美の一人芝居なのだが、
くますけは、彼女が無意識のうちに抑圧している思いの薄皮にそっと穴を開け、それを少しずつ解放してくれる。
“両親を愛せなかった”という事実を、「それでもいいんだ」と認めてくれるのだ。
ところが、このくますけは、成美のダークサイドの代弁もしてくれて、他人に対する憎悪や殺意まで口にする「悪のぬいぐるみ」でもあるのだ。
このままでは、くますけが、孤児になった成美の面倒を見てくれている、母親の友達「裕子さん」夫妻を傷つけることになるかもしれない・・・という話。
独善的な作家が書いたら、とてもじゃないが読めない話になっただろう。
ナイーブな成美ちゃんと裕子さん、そして無神経なその他大勢、という。
そうなってないところが新井素子の大きいところだなあ、と思う。
(裕子さんの夫・晃一にしても、成美があまり好きではない「千葉のおばさん」にしても、
それぞれが善意をもった人物として描かれている)
最後の方で、裕子さんにも「くますけ」がいた(「なんなん」という名前の猫のぬいぐるみを大事にしていた)という事実が明かされるが、
彼女が「なんなん」を大人になった現在も保管してあるというのがポイントではないか。
作者は、大人になるための補助輪を決して否定せず、それを必要としなくなったとしても捨ててしまえとは言わない。
年齢がいくつであろうと「くますけ」が必要な日はあるのだ。(2004.05.14)
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