今日の1冊タイトル

「図書館の神様」表紙 「図書館の神様」  瀬尾まいこ

マガジンハウス  2003年刊 / 小説
一見、穏やかな、のんびりした筆致だが、実は凄いスピード感がある。
主人公・清と体育教師・松井が、海辺の料理屋で食べる細いもずくのように、つるつる入ってくる文章だ。

清は高校で国語の講師をしている若い女性。現在不倫中。
部活の顧問は文芸部。部員は垣内くんただ一人だ。
話はこれといった盛り上がりもなく、はらはらするような事件も起こらない。
だけど、一度手に取ったら止まらないのはなぜ?

たしか山岸凉子の漫画で紹介されていた逸話で、
神は、最初の人間を100パーセントの金で作った、というのがあった。
それに土を混ぜることで、金の純度はどんどん落ちるが、強度は増すのだ、というような。
この清を見ていると、ふとそんな話を思い出す。
清は、子供のころからひどいアレルギー体質で、
肉も甲殻類もダメ、辛いものや刺激物を摂ると頭痛や鼻血に悩まされた。
それが、「いつだって正しくあることに一番重きを置いた(4p)」高校時代に起きたある事件を機に、
なんだかちょっと投げやりな人生のサイクルに陥ってしまっていて、
気づけば少しずつアレルギーを克服し、いろいろなものを受け入れることができる体になっていた。
ずっと描いていたものから、外れた道を歩き始めた私からは、次第に清さも正しさも失われていった。
どんどんいい加減に投げやりになった。
不思議なことに清さや正しさを手放す代わりに、
私の身体は少しではあるけれど、強くなっていった。身体と精神は逆方向に動くのだろうか(9p)
登場人物が、形而上的な言葉で語る場面が多いわりに、ちっとも説教臭くないのが魅力だ。
作家が、背伸びせずそのままの立ち居地で書いているからだと思う。(2004.05.16)

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★★★★★★★以下、ネタばれの極私的な感想です★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


清の不倫相手の浅見さんって、ううわああ〜って声が漏れるくらいイヤだ。
まず「臨機応変」ってことがまったくできない人なんだと思う。
それから、臭いものにはフタっていうか、君子危うきに近寄らずっていうか、使い方が違ってたら勘弁してください、ホントに嫌なタイプ。
身の回りのことを、常にコントロール可能にしておきたがる、コントロール可能だと思い込んで疑わない、そういう人。
自己評価がちょっとそれはないだろいくらなんでも、というくらい高い。早く言えば「勘違いくん」だ。
自分の手は汚さないくせにね。
わたしは浅見さんに何をされたわけでもないのにこんなに怒ってるのもどうかと思うが、とにかくそうなのだ。
パッと見は無神経な印象のある松井の方が何倍いいかわからない。
彼は妥協(受け入れること)を知っている。
自分の分もわきまえているだろう。
「おれは少し鈍感なところがあるからなあ」なんて思っているかもしれない。
そこで人は謙虚になれるのだ。
逆に浅見さんタイプは「おれは神経質だ」くらいのことは言いそうだ。

清の弟・拓実もいいけど、ちょっとつかみどころがなくて、
こういう人と付き合ってると、自分の方が悪人みたいに思えてくるだろうな、それもしんどいな〜。

そういうわけで(やっと結論)、この「垣内くん」は素晴らしい。
主張大会での彼のスピーチは、きりっとした少年の、声高らかな出航の宣言ってかんじ。

そんな垣内くんが、卒業式の後、走り寄ってきて「忘れてた」と言ったあと、お礼を言う場面、
清が、垣内くんにとって自分は1個の通過点に過ぎないと思う場面、そこに胸がちくっと痛んだ。

「センセイの鞄」(川上弘美)のセンセイが、“女性が描く理想のおじいさん”だったら、
垣内くんは、同じく理想の男子高校生なのだろう。
どっちも、いそうでいない。

オススメしてくれたMiyazakiさんに感謝の1冊でした。