2 永遠の緑炎

 フィルは、高等法力の授業、全てを終え、重要な資料である重厚な法力書を、今日とったノートとともに苦労しながら、何とか片腕に抱え込み、『永遠の緑炎』を目指す。
かつて、古代賢者がその足取りに、この地に残した、消える事のない緑色の炎を祭った場所。
――もうリースは来ているだろうか。

 法院の長い石段にたむろしている集団の中に、今年最高の法力を持っている、べナットという男がいて、フィルに、声をかける。
 「よお秀才」 とべナット、「元気してるかい」
 「ああ、元気だよ」 軽く会釈し、フィルは続けて何か喋ろうと思ったが、べナットの隣にしらない女の子がいたので、結局止め、石段を登っていく。

 石段を上りきると、60フィートほどの塔がみえ、そのてっぺんには、圧倒的な熱量を持った緑色の炎が燃え上がっている。
中心には卵形のオブジェクトがあり、それがこの膨大な熱量を生み出している。わずかながらに賢者の石が含まれた貴重な石であり、数千年前古代賢者が内在する力を現界へと導いた。
結晶化された賢者の石ではないが、これほどの力を内在させているのだ。かといって、今は賢者の石を結晶へと精製する技術は存在しない。

 フィルの学ぶ無限法力のひとつに、精製を実現する方法が存在しているらしいが、太古に廃れた技術らしく、知りうるなかで、最も古代の賢者ですらその方法を見つけることができなかった。
ただ、単純に賢者の石が内在させている力を引き出してやる事はできる。
もしも、結晶が存在していれば、純粋エーテルと呼ばれる力を、思うがままに操る事が出来るのだが――。

 緑炎の塔の下の石で作られたベンチにリースがいて、フィルに気づき立ち上がる。
 「ごめんなさいね、呼び出しちゃって。忙しかったかしら……」
フィルは荷物を置き、おもいきり伸びをしながらいう、
 「いや、いいよ。そんなにかしこまらなくても」
二人でベンチに座ると、フィルは低くなった太陽の光に目を細め、
 「きょうはどうしたの……」
 「ええ」 リースは、ため息まじりで返事をすると、視線をどこか果てしないほうにやり、
 「あたし最近、このまま取り返しのつかないことが起きるんじゃないだろうかって、不安になるの」

 フィルはあやうく、そんなに不安で、どうしても未来が知りたきゃ呪法師にでも聞いたほうがいい、と言いそうになったが、ちょうど学校の終了を意味する鐘が鳴った。
リースの目は真剣そのものだったので、もっと親身になろうと思い、こういった。
 「明日からの実践訓練の事かい、そりゃあ、危険だし、初めてだろうから不安になるのが当たり前だよ」
午後の風がリースの黒い髪を躍らせる、考え深げにリースは耳に髪をかけながら、
 「それだけじゃないの、何か動きがおかしいのよ、あたしは戦闘法師だけど、少しだけ予言の法力があるらしっくて――ねえ、フィル、あなた何かきがつかなかった……」

 フィルは少し考えをめぐらせ、自分には、予言の法力が存在してないと――説明しようとしたが、何かが心の隅にひっかかっており、それは、きっちり境界を引くことのかなわぬ問題な気がして、
 「なんだろう……、僕も確かにこれから何かしら変化が始まる気がするけど」 果たして、微妙な気持ちの揺らぎなど、考えてもらちがあかないので 「そんなに大きな波が来るわけでもなさそうだよ」とだけ言っておいた。

 そう、とだけつぶやき、リースも沈みかけた太陽に目をほそめた。どこからか飛んできた巨鳥が、ぎんぎん響く声を発しながら、太陽を横切っていく。

 しばらく巨鳥の行く末をみまもったあと、「これをもらって欲しいの」
リースが差し出したのは、小さな銀色のピアスだった。
 「友達のあかしよ、もし何かあっても――わたしの事忘れないでね」
フィルは手のひらに受け取ると、きっと何もないさと、頷いた。
 「僕からもこれを……」
いつも付けているペンダントを差し出す。
これは、毎夜、夜の虚空に浮かぶ気を集め、溜め込めつづけている、ちょっとした耐魔の効果がある。 しかし、リースは受け取ろうとしない。どうしたんだいとフィルがきくと、「つけてくれる」 ひとこと、そう言って髪をかきあげた。フィルは、ピアスを、急いで左耳にはめると、人にペンダントをつけるという、なれない行動をしようと、体を伸ばした――。

 一瞬何が起こったのかはわからなかったが、フィルの唇には、リースの軟らかい唇が押し付けられており――
しばらくは現状を把握できなかったが、すぐに体を引いたリースは興味が別に移ったかのような態度で固まったままのフィルからペンダントを取り上げると、自分でつけてしまい、「いつまでも――友達でいてね」
そういって、振り返りもせず、フィルを置き去りにしていってしまった。

巨鳥の不快な声はもう聞こえない……。




ディル山に向けてへ進む




トップへ戻る