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リースが、『夜の巨人』の上空を飛ぶ鳥を見た夜、フィルは草原に居た。
フィルは、上空から毎夜降り注ぐ気を体に受けようと思い、顔を空に向け、両手を広げ呼吸を調えている。――星は美しく、心底フィルを圧巻とさせてくれる。
いまなお、心地よい風は緩やかに吹いていて――
しばらく星を眺めていたフィルはふと、異変に気がつく。夜の巨人の上空を、光り輝く翼をもった何者かが滑空しているのだ。眼を見張り眺めていると、そのまま、彼方に消えてしまった。あれだけの高度で、肉眼で確認できるという事は、とんでもなく大きい『何か』だ。
いったいあれは何だったのか……、フィルの未知への好奇心がドクドク動く。無限法力から来る、特殊な感の冴えによって、5つほど可能性を思いつく。ちょうどそのとき、人の気配を感じる。
振り返ると、頑健そうな体躯をした老人が立っていて、にこにことしながら上空を眺めている。――いつのまに、こんなそばまできたのだろう……フィルはいま、目を瞑っていても、草原中の草、一つ一つの葉脈を数える事ができるほど、研ぎ澄まされているというのに……
ごつごつの石のような手で、真っ白なヒゲをしごきながらこういう――
「また、インフェーブの時代がはじまるな……」
フィルは、わけがわからず、老人を無意味に眺めてしまう……いや、それだけじゃなく、この老人からは、目が離せない『魅力』が全身から溢れ出ている……
暮れ行く渓谷、雪ののった山脈などがもつ、特有のなんともいえない崇高さが、そのまま人間になったようだ――
「キミからも、その波を感じるが……」
フィルは、その言葉で我に返る。
「あの、インフェーブとはなんですか……僕から感じるって……」
「キミが今、成そうとしている法力さ」
フィルは、はじめ、何を言われたのか、理解できなかったが――
「もしかして、無限法力……ですか」
「キミ等はそう呼ぶのかもな、同じことだ」
この老人は、無限法力に詳しいんだろうか、しかし何だろう『インフェーブ』という呼び名は。
「ローム時代の呼びかただ」
フィルの心を見透かすように老人はいう。そして、笑みを浮かべ――
「じゃあなぜ、ローム時代の呼び方を知っているのか、と聞きたいんだろう……」
フィルは頷く。「ええ」
「あの文明は、完全に消滅したわけじゃあないんだ、少なくとも我々がその文明に触れる事はできんかったがね」
老人は『夜の巨人』に顔を向ける
「だが、ワシはローム人が残した、知識を伝える者の『一つ』と会った」
フィルは、『知識を伝えるもの』――という言葉にどきどきした。
「形はつるつるの三角錐でな、言っていたよ、『偶然を装い、我々は、我々が選んだ人間の前にしか姿を表さない』――とな、仲間が何種類もいるんだろう。ワシは飛び跳ねて喜んだ」
老人は、懐かしそうにクスクス笑うと、途端に真剣な顔になる。
「さっきの黄金の鳥を見たろう、あれはローム文明の力の結晶だ、強大なエネルギイを発しながら飛んでいく、自ら時を見て蘇った」
フィルはふと、「そのエネルギイってもしかして……」と聞く。
「いや、単純に、インフェーブじゃあない、自動的にインフェーブを使う事ができるエーテルの力だ」
フィルの頭に、『賢者の石』という単語が浮かんだ。本当に存在していたんだ……
「ですが、僕にはその……インフェーブの使い方がわからないんです、発現できないんです」
老人はゆっくり頷くと、「みせてみな」
――フィルは呼吸を調えると、あたりに漂う気の固まりにアクセスしはじめる。
気を任意の法則に乗せていくと、それを受けた気は、あたりの気を同じ作業よって捕まえ始めた。やがて、それは無限の加速をはじめ、巨大な気塊となっていく。――ここから、他者にも認識できるように、その気塊を実体化しなくてはならない……
フィルはいつもそうするように、気塊を圧縮する。そして灼熱化させると、夜空に向けて打ちはなった。上空までいくと、フィルはそれが粒子化するように炸裂させる。空気を振動させ、光が四方に拡散した。
老人は、感心したように、ほうと上を見上げている。
「キミの若さで、インフェーブの基本をそこまで体得していれば、たいしたもんだ、キミ自身が発している『波』もまた、そこに影響を受けている」
フィルは首を振る。
「だめなんです、僕にできるのはここまでで、これを活かす方法がまったくないんです……、何か目的をもたせようとした瞬間、途端に全ての気が、不活性に変わる。これじゃあ、今ある法術のほうが強力なんです」
老人はにっこり微笑み、
「答えは簡単だ、キミが集めている『気』は有限だ、しかもそれらは、無限加算をするために存在しているわけじゃあない」
フィルがまさかという顔をしているのをみて、老人は頷く。
「世に漂っている気というものは、何かが動いたあとに生まれる残骸のようなものだ。確かにそれは莫大な量を誇る、しかし、無限ではない、また生命が吸い込むことで、初めてその力を発揮するものだ」
「じゃあ、どうすれば……僕には『気』以外の力は、……無限なんて、何も思いつきません」
老人は足元の草をちぎると、指先でつまみながら、目の高さまで持ち上げる。
「これは何でできている……」
フィルはしばし考えたが、よくわからず、
「草が、何でできているなんて――わかりません。草は草です」
「いや、草を草たらしめているのは、連続しているこれら空間だ」
老人は両手を広げてそういう。
「そして、空間を空間たらしめるのは、無限にある『点』だ」
つまり――と老人は草を指から離す。落ちていく途中、草はちぎられたところにくっつく。
「インフェーブとは、これらの『点』を操る技術なのだ。そして『点』とはありとあらゆる『モノ』に無限に内在している」
老人はフィルの肩にてをのせる。雄雄しい気がフィルを奮い立たせる。
「キミには、とてつもない才覚を感じる。これから、ワシが数千年におよび研究してきた、インフェーブの技法を伝えよう」
――数千年、フィルは口の中でもう一度繰り返す、そして急にあるイメージが浮かんだ。
「もしかして、貴方は――」
フィルが言いかけると、老人は高らかに笑い声を上げる。
「さよう、感がいいな。キミが住んでいる街に、大昔、緑炎を寄贈させてもらった……」
無限の連鎖へ
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