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そして、剣士ハーヴと法師達は四日の旅を終え、火山洞に到着した。
二日ほどかけ、巨大な森を横切った。
森が途切れると赤茶けた大地が広がり、それはやがて傾斜していき、斜面を登り、しばらくすると、巨大な洞窟の闇がぽっかりとあいている。
――雨は降り続いていた。
途中、数匹の獣が出た。だけど、ハーヴがたちまち殺してしまった。
ハーヴの剣は、体に似合わない大きさで、片刃だ。
わずかに流線型の形をしており、厚みが、通常の剣の2倍ほどある。
獣が現れると、凄い速度で突進してゆき、全身を美しくしならせ、その妙な形の剣を獣に叩きつける。
研究法師は女の子が多く、ハーヴが、敵を殺すところを見るたびに、大騒ぎしていた。
旅の間じゅうべったりとついて回っていた。
いつも研究書を片手に、院と家とを往復するだけの、青白い男にかこまれているから、この健全な気を発する青年は、新鮮なんだろう。
火山洞の中には何もなく、法師達は早速、瞑想用の敷物を背嚢から出すと、その上に座り始める。これから、食事はもちろん、睡眠すらとらず二ヶ月の断食修行を行なう。
ただ断食といっても、実際は命がけなのだ。これを乗り切ることで超人的な体力と、鋭敏な精神、艶やかな記憶力を養う。
この研究法師のなかで、最高の量の法力をもっているべナットは、幼いころから両親の英才教育で、何度もこの断食を経験しており、そのおかげで同年代ではあり得ない法力を有していた。
この断食で得るものとは、潜在的な能力を解き放った、頑健な身体に他ならない。
一息つくと、フィルは雨の風景を眺めようと、洞窟の入り口に立って、遥か彼方まで続く森を眼下に見下ろす。
遠くは霞んでしまって、真っ白だ。雨に冷やされた空気が、ひんやりと洞窟に流れ込んでいるのが、ここに立つとわかった。
気配がして振り向くと、べナットが後ろにいた。
「おいおい、まったく気配を消して、脅かそうとしてたのに、よく気づいたな……」
首をひねりながらべナットはフィルの隣に並ぶ。
「なあ、あのハーヴって剣士、なぜ俺たちについてきたんだと思う……」
フィルは少し考え、ハーヴとの初対面の時、フィルを見る眼を思い出したが
「さあね、この火山に龍でもいるんじゃあないのかな」
――と、うそまいておいた。
そのとき、背後からわずかに気配がするのがフィルにはわかった……
「よぉ、兄さん方、なに話てんのさ」
突然の呼びかけにべナットは、びくりとして振り返る。
そこにはハーブが立っていた。
べナットは、フィルを除いた法師の中で最高の感覚をもっているのだが、どうやら気がつかなかったらしい。
「あんた、すげぇな、全然気配に気がつかなかったぜ」
べナットが驚きを隠すかのように、大げさな声を出しながらハーヴにいう。
「ああ、法力程度で右往左往している人間にゃ、一生かかっても感じる事の出来ないレヴェルの気配の消し方をしたからな」
べナットが少しムッとしたのがわかる。
「じゃあ、誰がわかるんだよ、ええ……」
ハーヴはにんまり笑うと、おもむろにフィルを指差した。
「あんたはわかってた筈だぜ、なあ、そうだろ」
フィルは、少し焦ったが、仕方なく頷き――
「うん、でもなんでそう思ったんだい」
ハーヴは嬉しそうにかぶりをふりながら
「へへ……やっぱりそうだ、始めてあったときからわかってたよ、獣の手を崩したのはあんただろう」
そういうと、フィルたちの方に近づいてくる。とまどうべナットを無視して――
「あんたは、俺の兄貴と同じ力が使えるみたいだ、俺にはわかるよ」
そうして、フィルの肩に手を置き――
「一緒に兄貴を殺してくれないか……」
突然そう言われ、フィルはわけがわからなかったが――
「ちょっと、何をいきなり言ってるんだい……」
「そのままの意味さ、兄貴が死なないと、世界が滅茶苦茶になっちまう」
ハーヴの目は真剣だ。
「黄金の鳥が一ヶ月前、兄貴のもとに向かったんだ」
――つまり、フィルには『デュ・ムド神』という名前が浮かんだ……。賢者シャオタムが言っていた神的要素を含んだ人間、世界を混沌に導くという……
「俺は子供のときから何度もヤツを殺そうとしてたんだ、初めは九歳の時だ、逆に内臓かき回されて殺されかけたよ」
ハーヴがあまりに凄まじい眼光をしていて、べナットは思わず後ずさってしまう
「でも、死にかけていた俺を、兄貴と同じ力が使えるっていうヘンな生きものが助けてくれた」
さっきの眼光がまるで嘘のように柔らかな微笑を浮かべる
「完全に兄貴が覚醒する前に、戦闘能力を上げろっていうんだ。だけど俺には法力の才能は一切なかった」
だから――といいつつ剣の柄に手をかける。
「これだけで、最強になろうと思ったんだ、だけど、ヤツの法力は普通じゃあない、同じ力を持った人間の力が必要だ……」
もう一度、フィルの眼をしっかりと見つめると
「俺はこれから、山頂に向かって、火口付近にいるという巨人と戦って来る、それまでに考えておいてくれ」
あまりの真剣さにフィルは思わず頷き、
「わかった、君が無事帰ってきたら考えよう」
それを聞くと、ハーヴはニッコリ微笑み、洞窟の奥に消えていった。
べナットが何かを聞きたそうだったが、フィルはもう、遥かな霧の向こうを見つめており、新たな試練の胎動を感じていた。
脆弱の祝福へ
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