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この世界が始まったとき、長い眠りから目覚めたような気分だった。光が視覚に確認出来たとき、もう、すべてが分かっていた。自分、物質の成り立ち、時間、速度、生命……。
わかるということは、操れるという事に等しく、他人がいないところで、その『力』を試していた。――他人が、自分より優れたものを嫌う事を、知っていたからだ。
まだ、生まれたばかりで、体は機能を発揮しきれなかったが、精神はこの世界のあらゆる方向に、網のように広がっていた。
太古の文明のヴィジョンが浮かんだ。目指すべき世界だとわかった。
文明のあった時間軸に精神を移行させると、文明を統括する王として君臨する者が、まったく同じ『力』を持っていた事がわかった。その王は『力』の事をインフェーブと名づけていた。
数年が経ち、同年代の人間が一個所に集められ、教育される場所に入学した。
貧弱でカスな理論を教えていて、他国との戦闘に備えた陳腐な洗脳を全員が受けていた。
使いやすい兵隊にされるため、これら幼い者が盲目的に訓練に励む姿には、虫唾が走った。
しばらくして、ハーヴという弟が生まれた。
赤子ながら、ほとばしるエネルギイが、後の戦闘能力の高さを感じさせていた。しかし、インフェーブを使えるタイプの人間ではなかった。
実際、インフェーブがつかえるようになるタイプの人間は、この国全土で見ても十数人だろう。
気を使った、法力だけでも実践レヴェルで使用出来るやつは数百人程度……。
さらに数年が経ち――ほとんどの若者が、国の兵隊として働こうとする頃、配下の者は10人ほどになった。うち、インフェーブを使える者は、4名……この国くらいなら一夜で潰せる。国防総省にいる数名の大法師ですら、一人のインフェーブ使いの敵ではない。
まだ幼いハーヴを仲間として引き入れようとしたのは、大人の剣士にも決して負けないくらいの戦闘能力を、その頃から持っていたからだ。
なお、すさまじい才覚を眠らせている。
しかし、高圧的なだけで、低能な親を殺してしまうと、何をとち狂ったか、襲い掛かってきた。勝てないと体で感じているはずなのに。愚かな……
腹をかき回して動けなくし、山に捨ててやった。騒がれてもうまくない……
戸惑う、ヤツの友人達の記憶からハーヴの記憶を消し去った。
しかし、幸運にもインフェーブを使う何者かに助けられたようだ。
そのインフェーブ使いには興味はない。多分、仇なす者だろうから、目の前に現れたとき潰せばいいだけの事。他のインフェーブ使いに負ける気はしない。仲間になる才覚があるものは、こちらから出向いていくが……。
妙な老人にあった。奴はきっと、数千年は生きている……じっとこちらを見つめると、どこかへ行ってしまった。やつもインフェーブ使いだ。感情を読めなくコントロールしていた。
いったい何を考えていたのだろう……。計画を潰す気なら殺してやるが。
久しぶりにハーヴが目の前に現れた。よほど修行したのか、人間とは思えない、激烈な剣さばきに変わっていた。こっちのインフェーブの攻撃もある程度見きっていやがる。
だが相手ではない、腕の骨を粉砕してやった。皮膚を破って骨が飛び出る。頭蓋骨も同じようにしてやろうと思った瞬間、逃げられてしまった。
この国を乗っ取る事にした。
これ以上、馬鹿な家畜の下についている気はない。
4人のインフェーブ使いと共に、城の中に入ろうとすると、止めてきた兵士がいたので、重力波で肉塊に変えてやった。
それが引き金となって、城中の兵士が出て来た。4人のインフェーブ使いが20人ばかり血祭りに上げたが、抵抗しない奴は殺さないという念を伝播させると、誰も動かなくなった。
それでも唯ひとり刃向かってきたのは、この城を守っている国最強の大法師だった。
自信過剰にも法力程度で、インフェーブにかなうと思っているのか……体を、大理石の柱に融合させてやった。
呼吸や、鼓動を体がするたびに内臓が、石と擦れるように埋まっているので、正気をなくすほどの痛みだろう。
助けてくれたら何でもするというので、部下に加える事に決めた。インフェーブも訓練すれば使えるようになるだろう。
何の苦労もなく王の首を切り落とし、兵士たちに掲げると全員が歓喜の声をあげた。もう奴等は、恐怖が崇拝にまで変わっていた。
ひれ伏す蛆虫共……
貴様らが夢に見てきた、エデンを作ってやろう。
人の無意識の欲望をさらけ出してやると、凄まじい事がおきる。殺しあいはもちろん、死肉に群がり、共食いを始めたり……憎悪、悲しみ、肉欲、妬みが地獄のように渦巻いた。
獣よりも最低の生き物だ。行く末には絶望しかない……。
これが繁栄をした生命なのか。
もしも、外でエデンの実験をしてしまうと、国すべてが滅びるだろう。
何ともろい、自滅型の生き物なんだ。今、兵士たちは血の海で、全員が死体になっていた。
隣国がざわめき始めた。国が簡単に落とされた事が伝わったようだ。一般の人間にはまだその事は伝わっていない。
国を動かす上層部だけに伝わっているようだが……
微妙に世界の均衡は崩れ始めている。
だけど、いくら相手が攻撃をしてきたところで、雑魚では相手にならない。
すべてが貧弱すぎる、空しい――そう思ったとき、次の計画は「人間進化」にする事に決めた。
人間をもっと高次の存在にしていってやろう。これはやりがいがある。
そのために払う犠牲はどんなに酷くてもいい。人間に吹きすさぶ大きな嵐になろう。容赦なく叩き殺してやる。
生き残ったものだけが進化の兆しのある者だ。
これから殺戮を始めようと思う――
思えば、人類が腐っていくと、種としての防衛本能から強い反発分子を作り出すのかもしれない。
2万年のサイクルで繰り返す脆弱期を単純に終焉で終わらせないようにする神の祝福か……
大きなエネルギイの塊がこちらに近づいてくるのがわかった。黄金の鳥だ、急いで夜の城、展望台に登る。ソイツは急激に縮小しながら舞い下りてきた。目の前の城壁に止まった時の大きさは20フィートくらい。
そいつが一言こういう
「我も共に、デュ・ムド様……」
火口の巨人へ進む
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