|
休火山だといっても、火口に近づくとマグマの熱を肌に感じる。
火口内へ少し下った所に、洞窟が開いており、ハーヴは中に入って行った。――この中に巨人は居る。
熱風は止み、洞窟内は意外とひんやりとしていた。しばらく進むと、獣や人間の骨が散らばっていて――
人の骨は、この山を登ってくる途中にあった、祭壇に捧げられた人間の骨だろう。獣は常日頃の食料か……
付近の村から、少女が毎年一人選ばれ巨人に捧げられる。こうする事で、村を巨人が襲う事はなくなるらしい……
それは、人間の汚い心をさらけ出させる恐怖。
ハーヴはそれが許せなかった。――兄貴を恐れ、半分気が狂っていた、両親のような人間を守りたかった。
利用されても、何も口答えが出来ないよう仕向けられ、結局、最後には兄貴に殺されてしまった。
周辺の村の奴等もそのうち気づくだろう、その場所から動けないなら、いつかは手段をえらばず戦わなければならない事を。
――更なる不幸をまねかない為にも……
だんだんと、巨人からの覇気が大きくなっていく。これ以上来ないように警告を出しているのだ。巨人は、明らかにハーヴの魔人のような闘気に脅えている。
だが、この警告の覇気ですら、兄貴を前にした時の、縮みあがるような恐怖にはかなわない。
――普通の人間が巨人と戦うとなると、5000人の兵隊が必要といわれる。ハーヴのしている事は明らかに無謀だ。しかし勝算はある。外界に向かって、インフェーブを操る事は出来ないが、エーテルを体じゅうに駆け巡らせる事はできるから――。
ハーヴは、重力を上げたり、物を変化させたりはできない。もちろん、それだけが、インフェーブのすべてではない。個人差があるし、個性があるのだ。
ハーヴのインフェーブの特徴は、インフェーブが使われる瞬間を感じる事、自分の知覚や、筋力を激烈に変化させる事だ。
深く広い洞窟を、巨人の出す覇気を当てにしながら進んでいくと、ついに巨人の寝蔵にたどり着いた。大きな空洞が開けており、真ん中に鎮座するよう、巨人は居た……
赤銅のみなぎる筋骨、もつれ、固体となった胸元までの黒い髪、眼は落ち窪んでいて奥の瞳がうっすらと光を発している……。
「ナゼココマデキタ――」
洞窟全体が震えるような低音域が混じる声で、巨人は叫ぶ。
「ワシヲ、ヤマノ神ト知ッテノ事カ――」
そう叫びながら起き上がると、15フィートは超えている。
「は、神だと……寄生虫が」
笑みをたたえたハーヴのもとへ、巨大な空気圧を巻き起こしながら、巨人は飛び込んできた。
「ホザクナ――」
ゴォと音を立て、凄まじい速度でハーブに巨人の拳が近づく。
一閃、ハーヴの片刃の剣が背中の鞘から抜き取られ、振り下ろされる。殴り掛かってきた巨人の、直径10インチもある親指が、根元から吹き飛ぶ、しかし、そのまま拳圧は変わらず、拳はハーヴの腹を直撃した。
後方の岩壁に吹き飛び、激突したハーヴは、顔面から床に叩き付けられる……息もまともにつけないし、目の前が暗い。
なんて速度だ、避けきれない、早く回復しないと――
まだ、巨人は、血が吹き出す拳を抱え、咆哮を上げている。
エーテルで、筋肉を強靭にしていなければ、今の一撃で撲殺されていただろう――多分、城壁でも崩せる破壊力だ……
剣にすがり、ようやく立ち上がる。
巨人はこっちに向かって突進してきた。ハーヴは横に飛びながら、下から剣を振り上げる、薄く巨人の腹の皮を裂いた――。
――だめだ、避けながらじゃあ、そう思った瞬間巨人は腕を回し、ハーヴのがら空きになった、わきばらに親指の無い拳を叩き込んできた。
見切りきれずかすっただけなのに、ハーヴは吹き飛ばされる……
筋肉が薄いせいで、肋骨が数本折れてしまった。
その感触がハーヴをゾッとさせる……
床に叩き付けられ、そのまま滑っていく。床は、荒々しい岩肌で、ハーブは肩の皮膚がバリバリと削れるのを感じた。
――突然の激痛、始めに食らった一撃で、胃が破れていたらしい。胃液と混じった血を大量に吐いた。驚くほど汗がでている……まずい、意識が途切れそうだ……。
どうやら甘く見すぎていたようだ、先手が取れなければ、例え遠距離系のインフェーブ使いでもコイツには勝てないだろう……。速すぎる。
巨人は勝ち誇ったようにゆっくりとハーヴに近づいてきた。
「モット、期待シテタノニヨ――」
そう言いながら剣を持っている、左手を踏みつける。指の骨が悲惨な音を立て、激痛とともにくだけた……
頭をつかまれ、上に持ち上げられ、手には力が入らず、剣を落としてしまう。
岩のような皮膚の感触――殺されたとハーヴは思う……。
そのまま振りかぶって、床に叩き付ける。床にはじかれ、ハーヴは3フィートほど浮かぶ。まき散る血、暗くなる眼前……
天井に向かって大声で笑う巨人――
巨人が笑いながら、もう一度ハーヴの頭を掴んで振り上げると、ハーブは反対の手で剣を握っており――
スウッとした感触とともに、巨人の喉に剣が刺さる。ヒューと音が出る。力を込めると、ハーヴは上に切り上げる。長い喉をスッパリ切り裂くと、角度を変えて頭蓋に滑り込ませる。
骨を絶つような感触が手に響き、完全に巨人の脳に剣を食い込ませた。
巨人は力なくハーヴを床に落とす……。
ハーヴはドサリと着地すると、最後の力で飛び上がり、剣を振る……裂ける巨人の腹、巨人は横に倒れ、どろりと溢れ出す臓器……、ハーヴは口から出た血を拭いながら一言……
「トドメだ、糞っ垂れ……」
巨人の頭蓋に剣を突き立てる。
15 瞥見の後へ
|