18 鬼の王

 シャオタムは、リースにも訓練を施していた。
フィルとはまったく逆のインフェーブの才能をもっているという。
リースのインフェーブは攻撃性の力が強く、重力波を得意としている、 外界流動型。
逆にフィルのインフェーブは物質の成り立ちを変えてしまう、内界変化型。
両方の特性を活かしきれれば相当の戦力となる。
デュ・ムド戦に控え使える戦力はすべて使い切るのだ。

 しかし、デュ・ムド側の戦力は数百のインフェーブ使いからなる兵隊……。
シャオタム、ハーヴ、リース、フィルの四人では心許ない――。
しかも、リースが会った、『メイアド』というインフェーブ使いは、リースの渾身の重力波を軽く受け流したという。

 ハーヴが言うには、『メイアド』というのはデュ・ムドに力を引き出された初期の頃のメンバーで、実力はない、小間使いのような扱いだったらしい。

 そのときシャオタムが口を開き、こういう……
 「今の我々が、デュ・ムド相手に勝つ確立は、ゼロだ……。自殺行為だといっても、過言ではない……だが――」
ゴツゴツした指で、一冊の本を取り上げる。
 「この本に書いてある、デュ・ムドを守る『巨鳥』は、『鬼の王』と戦い、永き眠りにつかされた、と――」
喋り終わる前に、ハーヴが尋ねる。
 「いま、その『鬼の王』ってのはどこにいるんだ……」

 シャオタムは肩をすくめ、こういう、
 「まあ、待ちなさい、順を追って話をさせてくれ」
何かを言いたそうな、ハーヴを横目に、シャオタムは話を続ける――
 「鬼というのは知っているな、各地方で神とあがめられている、獣だ」
リースはラッカが鬼と会ったのを思い出した。
 「他のほとんどの獣が、巨鳥のだすエネルギーを受け、狂ったのに比べ、鬼どもは一切の影響を受けなかった、なぜなら人間よりも遥かに高い知能を有し、とてつもない身体能力を持つ。エーテルの扱いを本能的にもち、巨鳥に判断能力を狂わされるようなことはない……」

 「じゃあ、インフェーブを操れるんですか……」
フィルは高揚した声で聞いた。
 「いや、普通の鬼にインフェーブは使えない。稀に、ハーヴと同じように強力な能力の覚醒ができる鬼はいるが……」
リースは、気が付いた。
 「って、事は『鬼の王』はもしかして――」
シャオタムはにっこりと微笑み、
 「ああ、インフェーブを体現できる鬼、その力はデュ・ムドに近い」
今まで、おとなしく聞いていたハーヴが聞く。
 「どうやったら、鬼の王に会うことができるんだ」
シャオタムは、はなにげない表情でこう言った――
 「デュ・ムドが、魔人を具現化させたとき、おのずと現れるという」

 「こうしちゃいられないな」
ハーブは、全員を見渡し、
 「行こう、俺が修行していた場所に、そこなら、いくらインフェーブを使ったって兄貴に気づかれない」
リースはあっけにとられたが、ゆっくり頷く。
フィルも「ボクも瞑想によって得た力を見てもらいたい……」
シャオタムは嬉しそうに頷いた。



 それから、夜明けを待ち、デュ・ムドのいる、レスザから南に向かった。
草原の小道を抜け、巨木が覆う、森に入る。
崇高な気が満ちる森、光はほとんど差すことがない。
落雷を受け、朽ちた樹の幹を蔦が複雑な形状を描いて、這う――。
葉を噛み切った、蟻達が列を成して行くさまは愉快だった。

 苔が生し、ずるずると滑りやすい石の上を歩くと、波一つたたない池が現れ、4人は息をのんだ。
完全な鏡面で、森がさらに下に生えているいるかのようだ。

 「お師匠――」
ハーヴが凛とした声で叫ぶ……
――するとインフェーブの輝く波が感じられ、一点、鏡のような水面に円が出来た。
うっすら、水面上3フィートほどに、白い円が浮かび上がった――、円の下から細々とした、海老の脚のようなものが、束でたれ下がていて、水面に立っているように見える。
波紋は脚の先からおきている。
段々と可視できはじめ、実体を強める。
すると、遠近が確認できるようになり、円形は楕円に変わる。

 「あれは、もしかして――」
リースは甲殻生物を思い出し、脳裏を騙されているといった、鬼の言葉がかすめていった。
 「危険よ、あいつらはデュ・ムドにつながりがあるはず……」
ハーヴは、小さく微笑んで見せ、
 「ああ、あるよ」となんの気なしに言い、
 「兄貴を殺す手助けをしてくれる、勿論兄貴を知ってるし、いつ生まれるかも知ってたらしい」

 海老脚はいつのまにか目の前に迫っていた。そして――
 「ヨお、ヒさシぶりだな」
低く、頭蓋に響く声でいう……。
 「オ前らに、因果ガ導ク理を教えテやる」

 「来ナ」
海老脚が瞬時に消え去る。
途端、耳を痛めるほど静かだった、森がゴウゴウ鳴きはじめ、鏡面化していた水面は激しく波打ち、ジェリー状の建物を浮かびあげた。
そいつは、灰色でドロドロと流動していて、排水が凝結したような印象を受けた。
橋のようなものがこちらに伸びてきて、全員を乗せるよう地に向かってくねる。

 「乗れってことかな」フィルはそう言いつつ何気に乗ってしまう。
流動はフィルの足元に集中し、そのままゆっくり、フィルをジェリーの建物に連れて行く。
そのあとに、ハーヴが続き、リースがシャオタムに手をかしてもらい乗り、シャオタムが続く。

 「さあ、最高の訓練を受けようぜ」
ハーヴが嬉しそうに言う言葉は全員を奮い立たせるようだった。






賢者の石の謎へ




トップへ