20 魔人降臨

 リースの顎から汗が落ち、硬質なジェリー状の床ではじかれる。
ピッタリとした服は水分で張り付き、インフェーブを打ち込む瞬間つたう汗がまき散る――。
空間をグワグワ揺らしながら、リースの重力波は敵を追う。
鬼型は今だ攻撃を受けることなく、激烈なコブシを叩き込もうと、動き回っていた。
重力波はジェリーの壁にあたり消滅する。
ハーヴの筋肉は、血液でバンプアップされ、ふたまわりも大きくなっており、湯気が昇るほどの熱を持ち始めていた。
無駄の一切無い、戦いにのみ特化した柔軟な筋力で鬼型の動きに追いつくが、すぐに回避されてしまう。
そして、全員が始めて目にしたのは、シャオタムの攻撃。

両腕にはめたブレスレットをすり合わせると、口の中で何かをつぶやく。――瞬間、何も無かった空間に浮かぶのは、極彩色に彩られた、遠い異国の文字、呪術的な意味合いを含んでいるようだ。
シャオタムの体の動きに合わせ、即座に慣性を持つと、ランダムな動きをみせ、極彩色の文字はジェリーの床、天井、壁に吸い込まる。熱線を発し、鬼型を追うが、決して当てることは出来なかった――。

 「こんなに手ごわい敵は初めてよ……」
リースは肩で息をつきながら、シャオタムに向かっていう。
 「ああ、今まで鬼とは何度かやりあったが、こんなにすばやい奴はみたことがない」
シャオタムも焦りの表情が浮かぶ……
 「これを、後、数日続けるんだ」
ハーヴの言葉に、リースはげんなりとした。そのとき、鬼型の一匹が奇声を上げる。
対角にいるのはフィル。微笑んでいて――。
かざした手から今まで感じたことの無いインフェーブが感じられる。

 「ついに、実戦で使えるくらい完成したよ……」
奇声を上げた鬼型を見ると脚がザックリと割れている。
 「時空間を超越させた、粒子を送り込んだ、速度はもう意味をなさない――」
戦いの始まりから、フィルが見ていたのは、断食のさい認識した『タキオン』の飛び交う、亜空間に入る減速の映像――、現世の粒子をその速度まで流れにそわし飛ばし、加速することで、純粋なエネルギーに変換した。
この世界で有りうる最高の攻撃力を持つ、爆撃を鬼型の脚に這わせたのだ。
 「すげえ」
そう叫びながら、すかさずハーヴは鬼型に、片刃の剣を叩き込む。
両断された鬼型は床に落ち、くずくずとゲル状に変わった――

 「これじゃあ、すぐに終わっちまうぜ……」
ハーヴが横から殴りこんできた、もう一方の鬼の攻撃を剣で受け止め、いう。
数トンある拳圧で、数フィート浮かびながら腰を回転させ鬼型の首を狙う。
超絶の反射能力で後ろに飛びのくと、シャオタムの、熱線が襲う。
ジュウと、小気味悪い音をあげ、鬼型の肩が焼ける。
そのせいでひるんだのか、リースの重力波をまともに背中に食らう……。
一瞬の隙も無く、ハーヴが突撃し、鬼型の腹に剣を突き立てた。
数度びくついて、鬼型は崩れ落ちていった……。

 すると、今までどこに居たのか、海老脚が現れた……。
 「思っタ以上に、実力ガあるヨウだナ」
すると、脚をもたげ、フィルを指差して……
 「お前は、モッと違っタ修行をスルんダ、こっチニ来テクれ――」
フィルの視界が一点に集中して、額に集まると、薄暗い部屋にいた……
周りの壁の流動的な気を感じることを思い、最下層のジェルの中だと直感で感じる。
 「ここデ、数日間賢者の石ノ精製を行っテクれ……、イママで存在しなかッタほドノ高尚な賢者の石をだ……、2万年前よリモ、デュ・ムドは強イ、遥かニ進化していルンだ」
フィルは、自分の耳を疑う……
 「まってくれ、デュ・ムドが進化しているだって……、そんな、因果律の中じゃあ……」
海老脚は立ち去りながら、
 「因果律ハタだの出会イノ左右だ、シャオタムは2万年前ノ因果にハ合致シナい、未来は自分達でシカ切り開けナイ……」
流れは揺らぎ、その行く末はまだ未知だ……フィルはそう感じた。




 黄金の巨鳥は、デュ・ムドを見守るように城の上空を旋回していた。青い空がどこまでも広大で、黄金の補色として美しく映えている。
第一体の魔人の降臨がついに完成しようとしていた……
インフェーブ使いの触媒を必要としている。
まずは、何の役にも立たぬ、『メイアド』を使うことにした。メイアドのデュ・ムドに対する信仰心は絶対で、喜んでその身を晒した……。
降臨の儀をおこなった職台の上、メイアドは薄ら笑いを浮かべながら魔人の力に飲み込まれていく、腹が突然、妊婦のように膨らみゲボゲボ耳障りな音を喉があげる……
黒いインフェーブの塊が口から吐き出され、メイアドの体を包み込んでいった。
 「こい、第一の魔人、デュ・ムドに力をかすがいい」
両手を広げ、デュ・ムドはつぶやいた。
 「下らぬ世界を、共に焼き尽くそうぞ……」
メイアドはもう、人間と思えない恍惚の表情を歪んだ顔筋で作っており――

 上空で旋回していた巨鳥が吼え声を上げ、歓喜に震える……
そうして、両翼からインフェーブが、城に降り注いだ……無限エネルギー、エーテルの塊

 転生完了――

その瞬間、魔人の産声は、壁を溶かし、城下町を焼き払った……






ロームの樹へ




トップへ