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巨鳥が不安に駆られたのは魔人が降臨した次の瞬間だった。
ローム時代から脈々と成長を続けてきた『ロームの樹』――ラムダの方角から気魂が打ち寄せる。
2万年前に同じような感触を味わった事がある……
あの時は、確かにしとめた――
確かに、そうだ。
気が付くと、けたたましく巨鳥の喉から吼え声が出ていた、その声はデュ・ムドにも届いた……
「どうした……巨鳥よ」
なだめる声をだし、デュ・ムドは崩れた城の天蓋から、上空を見上げた。
一閃――、空を引き裂き音速を超えた速度で、何かが巨鳥の体めがけ突っ込んだ。
それは、インフェーブのオーラをとてつもなく凝縮させたかのような印象を与える。
『鬼の王』デュ・ムドは、神的でもある膨大な記憶から、なぜか2万年前の記憶が脳裏に突如よみがえるのを感じた。つまりそれは、因果律の再開を意味すること……
「巨鳥よ、私のもとへ来い――」
巨鳥はデュ・ムドの言葉が終わる前に、目の前に降下してきた。
追いかけるよう、『鬼の王』も突撃してくる。
デュ・ムドの後ろで唸り声をあげていた魔人が熱線を吐こうと胸を膨らませた瞬間、『鬼の王』が魔人の腹を拳で突き破った……
エーテル体で構成されていた魔人の体はその一撃で塵に変わる。メイアドの体はもうそこには無く――
その隙をみてデュ・ムドは巨鳥と共に、上空に駆け上がる。
「とんでもない破壊力をしているな……」
巨鳥の痛々しく削られてしまった背中を撫ぜてやる。空気粒子が合成され次々と傷口を塞ぐ。
「何て事だ……早すぎる……」
巨鳥から声が発せられた
デュ・ムドは穏やかな声で巨鳥をなだめる。
「大丈夫、勝つのは我々だ……大義をもつ者が勝つのだ」
しかし、デュ・ムドは納得はしていない、心のどこかで生まれて初めて感じる感情が芽生えていた。
――不安
2万年前の戦いでは魔人が数体、出来上がるだけの時間はあったはず……どういうことだ……
『鬼の王』は巨鳥の前に踊り出た。あまりの速度に空気が衝撃波としてデュ・ムドを襲う。
だが、巨鳥がインフェーブの膜で衝撃波を掻き消した。
上空で対峙する、デュ・ムド、巨鳥、鬼の王。
一瞬、デュ・ムドはあることに気が付いた……
「貴様、賢者の石だな……」
「鬼の王は、確かに2万年前に死んだはずだ、位置はラムダにあるあの巨大な樹の下あたりか……」
デュ・ムドはラムダの方角を仰ぎ見る。
「インフェーブの余波で、あの樹は枯れる事も無く2万年を生き抜いた……」
鬼の王は動かない……そのまま上空にデュ・ムドを見据え漂う……。
「記憶をあの樹から呼び覚ました者がいるな……どこにいる」
鬼の王は嘲るような表情で
「よく喋るのう」
一言そう言うと、突如、巨鳥の頭蓋を避けるまもなく殴りつけた。
――酷い音をたて、巨鳥の頭蓋が潰された……
拳圧が上空を揺らすかのようだ……力なく地面に吸い込まれていく巨鳥。
デュ・ムドはそのまま空気を操り上空に残った。
いま、鬼の王とデュ・ムドが互いに攻撃を繰り出す――
「これは――」
フィルの表情から血の気が引くのが感じられた。
シャオタム、リース、ハーヴは次々と現れるインフェーブ使いと、フィルの後衛につき戦っていた。
ここは、デュ・ムドの城――地下――。
ジェリーの建物の中は時間の流れがほとんど無かったのだ……。
つまり、水面下に沈んだ瞬間から数日しか経っていなかった。
その中、フィルはついに、インフェーブの最高峰である物質具現化を今までありえなかった、領域まで完成させた。
学び舎であったラムダの、『ロームの樹』が鬼の王の記憶を内在させていると感じ、インフェーブを伝い、ジェリーの建物の中で具現化を始め、賢者の石にまで形作るのには体感時間で、数週間を要した。
完成した『鬼の王』の賢者の石を地上に上げた時、魔人が産声を上げた瞬間であった。
これ以上世界を焼かせるわけにはいかない……
錯綜する因果律と神の悪戯をここで食い止めるため、『鬼の王』の力は解き放たれた――
完全な記憶が気魂となって賢者の石に降り注ぎ、鬼の王は目覚めたのだ……
デュ・ムドの城までは、地上で出せるぎりぎりの速度で向かった……それまで、魔人の焼いた瓦礫が続くだけだったが、城内部にはインフェーブ使いが守りについていた。
リースはハーヴ、シャオタムとともに考えつかないほどのチームワークでインフェーブ使いを倒していった。
確実に全員のレヴェルは数倍にもなっている。
相手になるインフェーブ使いなどいなかった……。
ナム、ロージ、ラッカ、ネネを探したが、その有象無象のなかには見られない。
そして、ついにたどり着いたのは――
ボッカリと削られた穴の中に、琥珀に閉じ込められた虫のように、透明の巨大な宝石に閉じ込められた数千人の人の塊……
デュ・ムドの死闘へ
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