新連載『ハイキング』 始めました。(^^)
高校生活スタートに、失恋したての森は、入学式の日、可愛い女の子を見つける。 何とか話すきっかけを探ろうとする森が、踏み込んでしまった道とは...
ひと月ごとにお話は進み、(出来れば)12回連載の予定です。(^^)



【前回までのあらすじ】 森は、女子部員らの視線によって過去の恋愛を振り返り、自分なりに消化していった。
朝子と初めて過したこの夏休みで二人の絆をより強めていったと、森は思っていたが。。。
   

新連載  ハイキング      第六話  〜秋桜〜
                                       三咲さな






 新学期が始まった。
 俳句クラブ「ハイキング」は、11月3日の文化祭に向けまずは計画を立てることから活動をスタートした。

 夏に部員みんなで行った花火大会はとても良かった。僕ら男子部員の期待を裏切らず、女子部員は全員浴衣姿で現れたのだった。
 『さすがだよな〜 さすがに俳句部の女子は風流っちゅーもんが分かってるよな〜!』
これは元木の弁だ。(お前も僕の期待を裏切らないコメントをありがとうな! 笑)
ともあれ、花火も浴衣の朝子もとても良かったのさ。


 朝子と僕は、クラブの前に、みんなに出す文化祭の計画案の打ち合わせをした。
5月のクラブ長会議の際に、予算申請の為に提出していた文化祭の計画案には、部員全員のこれまでの句を集めた句集の製作(これは販売もする予定)と、
(それからこれは朝子の提案なのだが)部員それぞれが短冊に句を毛筆で書いたものを展示するというものがあった。

 「販売物、展示物、こんなものかな」
「柳田先生が、ハイキングの時デジカメで撮ったもの貸して下さるって〜 展示したらどうかって〜!」
「柳田はPCや登山が趣味なんだよ。あの歳で、どうりでスイスイ歩ってると思ったよ」
「あとそれから〜 当日は見に来てくれる人たちに参加してもらって、ちょっと俳句詠んでもらう〜みたいな、
気軽な俳句コンテストみたいなことも出来たらいいな〜!」
「そうだな」

 張り切った朝子はとても輝いて見えた。(身びいき?)
そしてとても可愛らしかったのさ。









 大したことじゃないが、この夏休みにちょっとした出来事があった。
それは、芳美からメールがあったことだ。
何気ない口調で、久し振り。元気? といったメールだった。

『元気だよ。彼氏と上手くやってるか?』
『もともとカレシじゃない。もう会ってない』
『もともとカレシじゃないって何だよ?』
『そんな風に付き合ってたんじゃない。今度会えない?』

会えない、彼女がいる と書いて送った。
芳美から返事はなかった。






 安部奈津子はこの事(芳美が僕にメールをよこした事)を知っているのか知らないのか、新学期になってからの僕への態度にはあまり変わりが無かった。
 むしろ村上ちさとの方が少し変わってきたような気がする。
もともと安部と村上は仲がいいのだが、最近ますます二人はワンセットで行動しているように思う。 というか最近やけに、村上が安部にべったりしているのだ。
このことだけなら別にいいのだが、というかこれだけのことなら僕は気が付かなかったと思うのだが、これで困るのは朝子が僕と話すとき以外に話す相手としてクラブ内ではもう後は澤田しかいないということだった!

 朝子は二人(安部と村上)があまりにくっ付いているので、必然的に澤田と話す、ということになっているようなのだ。
(元木は普段のクラブはバスケの方がメインで、俳句部のほうは欠席していることが多い)



 澤田は悪い奴じゃないが。。。  朝子は誰にでも親切なので困るよ!






 今日も一緒に帰った。
まだまだ暑い日が続いていたが、たまに空が高く秋風の吹く日があったりもする。まさに今日がそういう日だった。

 僕達は沈黙がちに、少し気まずく歩いていた。
 クラブが終わって、帰っていく安部と村上に手を振り挨拶をしながらもまだ澤田と話している朝子に、僕は憮然としていたのだった。
苛々しながら少し待ったあとで、僕は朝子に
「今日、7時までに帰りたいんだよ」
と、少しぶっきらぼうに言った。
 振り向いた朝子と澤田は、少し驚いたような顔をした。
(僕は、朝子は澤田の話が終わらないので困っているのかも知れないとも思ったのに!)
朝子はそれでようやく立ち上がり、
「うん。でもどうして?」
と言った。
 「。。。観たいテレビがあるんだよ」
それは嘘ではなかったが、口実でもあった。
 「うん」


 澤田は男じゃないか。
お前に気があるかも(!)知れないじゃないか。
 。。。少しは分け隔てしろよ。。。






 駅に着き、別れ際に「また明日」と明るい笑顔を見せた朝子に、僕はほっとした。
 結局僕は僕のエゴで朝子を縛っているのではないかと、道々ずっと自問していたから。。。
「ああ。明日ね」
僕は手を振り返した。


 駅のロータリーに小さな花壇があり、コスモスの花が揺れていた。
朝子の事を思うと胸がきゅんと痛んだ。
 朝子。。。
 もう同じ轍は踏みたくない。
 僕から離れて行かないでほしい!
朝子の今までの態度を思い返してみても、不安の材料は無いと思った。
出会いの日から、朝子はいつも僕のそばにいた。
大丈夫だ。。。 僕達は上手くいっている。






 「やっぱり月しかないでしょう!」
澤田が発言した。
「そうだね。俳句と言ったら、春は桜、秋は月だよね」
安部奈津美も賛成する。 村上ちさとも頷いている。
「じゃあ、短冊のお題は『月』っていうことでね〜」
朝子がみんなの意見をまとめた。

 今日の俳句クラブでは文化祭の出し物を正式に詰めていた。
「それじゃあ九月のハイキングはお月見っていうことにする〜?」
「いや、夜のハイキングが続いたから、『月』は各自で詠むことにしないか。
俳句クラブとしては、柿や赤とんぼでも見に行かないか?」
僕は思い切って発言した。
「いいなぁ〜 田舎の景色、見たいな〜」
朝子がすぐに賛成した。
他の部員達も、それもいいと笑顔で頷いている。



  名月や門にさし来る潮がしら           松尾 芭蕉
  鵙(もず)去りて木の葉飛ぶことしきりかな   篠原 温亭
  染めあへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉       与謝 蕪村

 今回もクラブを始める前に、朝子はプリントをみんなに配っていた。
「季語は〜 もうみんなも分かっていると思うけれどそれぞれ『名月』『鵙』『赤蜻蛉』だよ〜
名月は陰暦8月15日、中秋の名月を言うの。昔からこの夜の月を最高のものと賛美して祭ってきたんだって〜 鵙は百舌、百舌鳥とも書いて鳴き声がするどくて他の鳥の物真似もうまいんですって〜
赤蜻蛉は、トンボは蝉とともに夏の代表的な虫なんだけど、赤蜻蛉だけは秋、とくに仲秋の季語なの〜」
などと、朝子は解説をしている。




 クラブが終わり、一緒に帰った路で朝子は「なんでお月見じゃなくて、田舎の秋を提案したの〜?」と聞いてきた。
「月見が良かったか?」
「ううん〜 田舎もいいと思うよ〜。森君の言うとおり、柿や赤とんぼや。。。」
僕は実は、ある考えがあってそう提案したのだった。僕はさえぎった。
「名月は、朝子と二人で見たいと思って」



 俳句クラブと僕と。。。 秤にかけ朝子を試すような事を僕は言っているんじゃないか、僕のエゴなのではないかと僕は思っていた。

 しかし朝子は照れたように笑い、「うん」と言った。
僕はほっとした。
それに、名月を、朝子と二人で見たいというのは本当の事だった。






 コスモスの揺れるロータリーでつないでいた手を一旦ちょっと強く握り直し、それからゆっくりと離した。
「また明日」
どちらからともなくそう言って、朝子と僕は手を振って別れた。





 少し安心して、僕は僕の電車に乗った。
地下鉄の暗い窓の外を見ながら、ふと芳美の事を考えた。

 『もともとカレシじゃない。もう会ってない』
 『もともとカレシじゃないって何だよ?』
 『そんな風に付き合ってたんじゃない。今度会えない?』

 相変わらず勝手な事を言う女だと思う。
もしかしたら芳美は今もまだ寂しいままなのかも知れない。
もしかしたら僕と付き合っていた頃からずっと。しかし。。。

 『会えない、彼女がいる』

 しかし、これでいいんだ。 今さらどうにもしてあげられないさ。。。
そう自分に言いながら、コスモスを背景に笑う朝子を思い浮かべていた。



 そして芳美の顔も。。。
朝子を思う胸の痛みとはまた別のチクリとした痛みが僕の胸を指していた。

                                 〜秋桜〜  fin.

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