宮本輝 「春の夢」 文春文庫 1988.2.10
2003.12.2 神保町のカフェで読む
大学生の井領哲之は、父が借金を残して他界し、借金取りから逃れるために、大阪福島区から生駒山の見える大東市のはずれの安アパートにひっそりと引っ越した。母は北新地の料亭に住み込みで働き、また学校に行っても見つかるだろうということで、ひとつ年下の彼女・陽子に出席やノートをとってもらい、哲之は梅田のホテルでボーイのバイトをすることになった。
安アパートに引越ししてきた日のこと。大家が電気会社に連絡し忘れていたために電気がつかず、手探りで打った釘が一匹のトカゲを壁に打ち付けてしまっていた。しかし、そのトカゲは釘が貫通した格好のままで生きていた。哲之はそのトカゲをキンちゃんと呼び、水をやり餌をやって春から冬を越してしまう。その間に、陽子は建築デザイナーの石浜と哲之を天秤にかけ、哲之は借金取りに殴られ蹴られ、バイト先の跡継ぎ争いに巻き込まれ、さまざまな人間関係に翻弄される。
春が訪れるころ、哲之と陽子の卒業が決まり、哲之と母と陽子の3人で新たにアパートを借りて暮らすことがきまると、出て行かねばならない安アパートの壁に打ち付けられたキンちゃんの釘を抜く時がやってくる。
大学時代の恋愛ってみんなおんなじことをしてるんだろーか、と思わせられた。することなすこと、思うこと、自分の歩いてきた道をたどった気持ちになった。「青が散る」と違って「春の夢」はハッピーエンドで終わったので、さわやかさの残る前向きな気持ちで読み終えることができた。それでも、そのどちらがよかったかと言われれば、とっても微妙である。どっちとも言えない。というのは、現実にたとえばTHE・ENDとなった私の大学時代の恋愛が、続いたほうがよかったか、別れてよかったかというレベルと同じで、やっぱりどっちとも言えない・・・若さとか若々しさとか青さみたいな青春特有の縦横無尽にはられた根っこをびしばし感じさせてくれます。
それにしても、生々しいほど少しの心理描写も逃さない勢いで書いちゃってくれてるところが読ませます。。。今にしてみると、「レ・ミゼラブル」でしかないわ。あぁ、いい出会いないかしら?
斉藤美奈子 「妊娠小説」 筑摩書房 1994.6.25 ¥1800
2003.12.7 中央図書館で読む
「私、できちゃったみたい・・・」の衝撃的かつ典型的な“受胎告知”。受胎告知によって涙と感動の物語空間を出現させ、かつ、望まれない妊娠であること。これが、斉藤さんの言うところによる“妊娠小説”である。
妊娠小説の父は、国語教科書殿堂入りをも果たさんとする森鴎外「舞姫」。母はというと、島崎藤村「新生」とくる。では、その妊娠小説が確立されたのは・・・と、現在、島田雅彦に「腐っている」とまで言わしめた妊娠小説が成熟し、分化し、純化し、マドンナ化する90年代初期までを追いかけ、詳細に分類してくれる。その細かさたるや、斉藤さんちの整理整頓された冷蔵庫の中を容易に想像できるほどである。
そこで紹介された小説を一部紹介すると「あれっ、そうだったの?」ってのもあったりする。
年代順にいくと、、、川端康成「山の音」/石川達三「薔薇と荊の細道」/石原慎太郎「太陽の季節」/三島由紀夫「美徳のよろめき」/大江健三郎「死者の奢り」/見延典子「もう頬杖はつかない」/中沢けい「海を感じる時」/吉行淳之介「闇の中の祝祭」/三田誠広「赤ん坊が生まれない日」/村上龍「限りなく透明に近いブルー」/村上春樹「風の歌を聞け」/村上龍「テニスボーイの憂鬱」/橋本治「桃尻娘」「その後の仁義なき桃尻娘」「帰ってきた桃尻娘」/辻仁成「クラウディ」とこんな感じである。
とにかく、読み方がおもしろい。斜めに読んでるという感じにもならない。世間一般で言われていることなんかに惑わされず、目の前の本を正面から読むという本の読み方。上野さんたちの「男流作家論」を読んだときにも思ったが、女の人は強いなぁということ。強い女の人が言うことは恐ろしいなぁかもしれない。しかし、それも教養やその作家に関するものを堂々と批評するだけの膨大な資料の読み込みがあってのものなのだろう。その教養や読み込みを抜かして、ただのミーハーな一読者から言わしていただくと、最近はゲイとかレズとか、虐待、トラウマ、アダルト・チルドレン・・・多いですよね。また10年後くらいに斉藤さん命名の○○文学とかをつくっちゃってくれるんだろーか。。。もう、好き嫌いとかいっちゃあいられないほどの守備範囲でないとついていけない。「趣味は読書」では西尾さんの歴史の教科書まで読んでいたし。
・・・ただただ、すごい。おなかいっぱいです。ゲップ!
横山秀夫 「顔」 徳間書店 2002.10.31
2003.12.8 ミスド野田店で読む
1998年に書かれた「陰の季節」に収められている「黒い線」の続編である。D県警鑑識巡査の平野瑞穂は似顔絵で犯人逮捕の手柄を立てた翌日に、失踪する。なぜか。それは似顔絵で捕まったはずの犯人の顔が似顔絵とまったく似ておらず、上司に書き直しを命じられ、犯人の写真をみて書いた瑞穂の似顔絵が記者クラブでの発表に使われたからだ。
4年を経て、瑞穂は秘書課の広報係に移動させられていた。しかし、似顔絵を描きたい。そんな思いを胸に警察という男社会の中で揺れ動きつつ、事件にかかわっていく瑞穂を追う。
一度も見たことがないが、仲間ゆきえ主演の同名ドラマが放送されていたらしい。読んでいても思うが、横山さんはテレビ向けに書いているのだろうかと思うほど、登場人物が映像になって動き出しそうな描き方をしている。あまり、推理小説やミステリーを読まないから他との比較はできないが、どうなんだろう?松本清張とか森村誠一みたいに単発でなく、連続ドラマとして放送されているのも珍しいのだろうか?・・・うーーーーん、ちょっとわからないが、そんな気がする(だけ)。これからは、「映像化されるとしたら誰がこの役をやるか」なんて考えながら読むとおもしろいかもなぁと思ったりしている。「ホワイト・アウト」でもできたんだから、ぜひ「クライマーズ・ハイ」も映画化して欲しいものだ。(織田裕二はどこに!!でも、青島刑事だから無理かなぁ・・・)
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